11月のアメリカ大統領選挙の民主党候補指名争いの初戦が2月3日、南部サウスカロライナで行われる。
現職のバイデン大統領(81)は圧勝して、トランプ前大統領(77)との戦いに向けたはずみをつけたい考えだ。

バイデン氏は、初戦を1週間後に控えた1月27日、初戦の地、南部サウスカロライナ州に入り演説した。
「2020年の選挙が盗まれたというのはトランプの大ウソだ。私たちの民主主義そのものを脅かしている。私が見ている唯一の敗者はトランプだ」と、トランプ氏を強烈に意識した発言を繰り返すとともに、「本当に腹が立つ」と語気を強め、言い放った。

しかし、バイデン氏に対する有権者の評価は厳しい。

クリントン元大統領とオバマ元大統領
クリントン元大統領とオバマ元大統領
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ギャラップ社の調査によると、1期目の就任3年目(2023年1月20日から2024年1月19日)の平均支持率は39.8%となった。
過去40年、2期目を目指した同時期の大統領の支持率を見てみると、トランプ氏(42%)、オバマ氏(44.5%)、レーガン氏(44.9%)、クリントン氏(47.5%)だった。
バイデン氏より低いのは、カーター氏(1979年-1980年)で37.4%だ。
カーター氏は、2期目を目指す大統領選でレーガン氏に敗れた。

一方、2期目を目指すこの時期に40%台の支持率だったレーガン氏やクリントン氏、オバマ氏は、それぞれ就任4年目の支持率を50%台や50%近くまで伸ばし、再選を果たしている。
再選に向けてバイデン氏がこの1つの指標を得るためには、11月5日の大統領選までのあと数カ月で10ポイント近く上げなければならない厳しい状況となっている。

“バイデン離れ”鮮明に アラブ系アメリカ人の反発

今、バイデン氏が演説する会場には必ずと言っていいほど、パレスチナ自治区ガザでの即時停戦を求めるアラブ系アメリカ人の姿がある。
1月23日、バージニア州で行われたバイデン氏の演説では、支持者に交じった抗議団体のメンバーが、代わる代わる抗議の声を上げ、演説が10回以上中断した。
抗議の声が上がるたびに、バイデン氏の支持者らは「four more years(あと4年)」などの声を上げてかき消すが、こうした現象は、4年前にはなかった変化だ。

バイデン氏の演説中に抗議の声を上げる有権者(1月23日)
バイデン氏の演説中に抗議の声を上げる有権者(1月23日)

イスラエルとイスラム組織ハマスの戦闘をめぐっては、バイデン氏が真っ先にイスラエル支持を前面に打ち出したことで、アラブ系アメリカ人の支持が急落している。
米アラブ研究所の2023年10月の調査では、バイデン氏を支持する人は17%と、2020年の59%から大幅に減少した。

中東のテレビ・アルジャジーラによると、1月、バイデン氏の選挙キャンペーン担当者が、ミシガン州のアラブ系アメリカ人コミュニティーに面会を要請したところ、拒否されたという。
ミシガン州は、選挙のたびに勝利政党が変わる「スウィングステート」と呼ばれ、大統領選の勝敗を大きく左右する州の1つだ。
ミシガン州のアラブ系アメリカ人は、ガザで「ジェノサイドが起きている」としたうえで、「アラブ系アメリカ人は、何があってもバイデン氏には投票しない」と語ったという。こうした動きは“バイデン離れ”の象徴ともいえる。

アラブ系アメリカ人の抗議集会(1月13日ワシントンDC)
アラブ系アメリカ人の抗議集会(1月13日ワシントンDC)

さらに2020年の大統領選では、18歳から29歳の有権者の59%がバイデン氏を支持し(ピューリサーチセンター)、トランプ氏の35%を上回り勝利につながったが、イスラエルとハマスの戦闘開始以降は、若者層からの強い反発が上がり、バイデン支持離れが加速している。

ニューヨークタイムズなどが、2023年12月に行った調査によると、同じく若い年齢層の支持率は、バイデン氏が43%でトランプ氏が49%と、初めてトランプ氏がバイデン氏を逆転した。

初戦の地となるサウスカロライナ州は、バイデン氏の支持基盤となる黒人が多く、その割合は人口の26%超を占める。
しかし、その頼みの綱の支持基盤も失いつつある。

NBCの世論調査では、2023年、黒人有権者全体の支持率が73%対17%とバイデン氏がトランプ氏をリードしていた。しかし、34歳以下の有権者になると、バイデン氏の支持率は60%に低下し、トランプの支持率は28%に上昇した。

2020年、バイデン氏は、黒人有権者の87%を獲得した。29歳以下の黒人有権者の89%、30歳から44歳の有権者の78%を獲得して勝利につなげてきただけに、支持基盤が崩れれば、いっそう厳しい選挙となる可能性がある。

再選を目指すバイデン大統領(81)
再選を目指すバイデン大統領(81)

得票率次第では“バイデンおろし“加速も

バイデン氏の演説を取材すると、支持者からは「若い世代が政治に参加するのを見たい。バイデン氏は年配過ぎる」との声や、無党派層からも「今年の大統領選は選択肢がない」との声も上がる。

バイデン氏は、年齢ではなく「私の仕事を見てほしい」と繰り返し訴えるが、言い間違えや歩行中のつまずきなど、高齢不安は常につきまとう。年齢を心配しないという有権者の声はほとんど聞かない。

また足下を見ると、長引くインフレやメキシコからの不法移民の流入も止まらず、「国境の壁」の問題も解決策が見いだせていない。ウクライナ支援も滞り、中東情勢への対応にも苦慮している様子がうかがえる。

バイデン氏には、明確な対抗馬はいないが、バイデン氏への挑戦状をたたきつけたディーン・フィリップス下院議員(55)は、予備選で自らが20%以上の得票率を得られれば、「大きな勝利となる」と息を巻く。
初戦の得票率次第では、“バイデンおろし”の声が高まる可能性がある。

(ワシントン支局 千田淳一)

千田淳一
千田淳一

FNNワシントン支局長。
1974年岩手県生まれ。福島テレビ・報道番組キャスター、県政キャップ、編集長を務めた。東日本大震災の発災後には、福島第一原発事故の現地取材・報道を指揮する。
フジテレビ入社後には熊本地震を現地取材したほか、報道局政治部への配属以降は、菅官房長官担当を始め、首相官邸、自民党担当、野党キャップなどを担当する。
記者歴は25年。2022年からワシントン支局長。現在は2024年米国大統領選挙に向けた取材や、中国の影響力が強まる国際社会情勢の分析や、安全保障政策などをフィールドワークにしている。