能登半島の被災地では、高齢者の次の避難先が中々決まらないという課題が見えてきている。

避難所の中でも特に「福祉避難所」について、どんな避難所なのか、課題や日頃から心がけるべきことを、被災地で支援活動をしている福祉避難所運営者の菅原健介さんに聞く。

福祉避難所とは健康管理が難しい高齢者など、ケアが必要な人のための避難所だ。石川県輪島市内では26の施設が災害時に福祉避難所になるよう協定を結んでいたが、今回の地震を受けて7カ所しか開設されていない。

菅原さんが支援する、地域生活支援施設「ウミュードゥソラ」もそのひとつで、地震後、最初は1次避難所として機能していたが、8日からは福祉避難所になっている。

■支援はあるが十分ではない みんなで頑張っている状況

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「newsランナー」吉原功兼キャスターが取材で施設を訪れた時には、衛生面、トイレの問題があったが、改善されたのだろうか?

福祉避難所を運営 菅原健介さん:先週よりは良くなっているのですけれども、改善したかというと、全体の避難所に関しては、まだまだ改善されていないという状況です。仮設トイレとかは入ってはきているんですけど、その仮設トイレの衛生面が守られるような、住民相互の掃除が行われているかというと、そうでもないですし、それを外部から介護医療職が入って整えるということも、まだまだできてないところが多いです。うちの福祉避難所に関しては、ラップポンというものを使ったり、電動で熱圧着するものを使ったり、ビニール交換を看護介護のスタッフが取り替えることで、1週間前と同じような形でやっております。

先週ぐらいから感染症が広がり始めてきたが、感染症の広がりは抑えられているのだろうか?

福祉避難所を運営 菅原健介さん:医療介護職のいろんな団体が入ってきていて、行政もそうですし、皆さんで頑張っているところもありますが、抑えられているかというと、ある程度広がっているという現状です。みんなで集合して避難しているので、全員が隔離できるかというとそういうわけでもなく、熱が出ても同じ部屋で寝てなきゃいけない中で、福祉避難所に関しては、できるだけ個別の個室を使いながら、熱が出たりすると対応しています。でも、熱が出たりするような人たちが、こちらに送られてくるので、僕らもどこまで踏ん張れるかというところです。

薬などは足りているのか?

福祉避難所を運営 菅原健介さん:薬もキャンナスという団体と医療法人のオレンジホームケアクリニックと連動しながら動かしていて、支援が入っているため、最低限の物は足りているという状況ですが、まだ十分ではないですね。

■福祉避難所への避難は行政とDMATの判断で行う

ここで視聴者からの質問
‐Q:私は精神障害がありますが、福祉避難所に入れますか?

福祉避難所を運営 菅原健介さん:うちの避難所に関しては、行政とDMATの判断次第で入れます。そして、そういう方が送られてきたりしています。ただ、一般の福祉避難所がどこまで受けられるかというのは、僕らとしても分からない。あくまでも行政とDMATの判断という形になっています。そもそも精神疾患がある方は、平時でもやっぱり不安が強いと思うので、どちらかというと今のこのインフラが整っていない、余震もまだ続くという所にいるよりは、1.5次避難、2次避難をする事を僕らとしてもおすすめしています。

福祉避難所を運営 菅原健介さん:ただし、普段から不安をお持ちの方なので、1.5次避難先、2次避難先をすぐに紹介すれば、そこにつながるかというとそういうわけでもなく、信頼できる関係性のある人が言うならば、とか、その人たちが一緒に来てくれるならば、避難してもいいかなという話が出てきています。避難所の中で関係性を作ったスタッフが、現地での、輪島でのボランティア期間が終わった後にも、いま電話で相談を受けたりしながら、2次避難先の相談を受けて、その相談先の施設とも連絡を取りあったり、行政とも連絡を取りあったりしながら、2次避難を進めているという動きもすごく大事だなと思っています。

■2次避難を促しても「知らない場所へは行きづらい」

高齢者が多いので福祉避難所の需要は高いのだが、課題もある。今回のような地震で被災した場合、介助やケアが必要な高齢者や障害者も、まずは1次避難所に避難することになる。その後、介助がいらない人は避難生活の負担で命を落とす「災害関連死」を防ぐため、ホテルなどを活用した2次避難所に移動し、その後、仮設住宅などに入居という流れになる。

しかし、介助が必要な高齢者や障害者などは、1次避難所から中継を結んでいるような福祉避難所に避難をする。そこから他の自治体の支援施設に行くのが理想の流れにはなっているのだが、実はここに課題があり、「知らない場所に行きたがらない」、「介助がいる人と支援施設をつなぐ人がいない」ということだ。

福祉避難所を運営 菅原健介さん:普段から、自分の判断で状況が変わったら判断して行動できる人もいると思います。しかし普段からできない、しにくい、不安があるという人も同時にいます。災害に遭った時に、一般的にはすぐに1.5次避難、2次避難をした方が良いといわれていますが、そういった方はすぐに動けるかというとなかなか動けません。そのような場合はいきなり1.5次、2次避難所に行くのではなく、福祉避難所をクッションとして挟みながら、そこで安心感を得て、自分の選択をするということを今やっています。そういう場所がない状態で、『いや避難先は提示しているじゃないか』、『こういうところがあるじゃないか』、『輪島の中に今いるのは良くないよ』ということをいくら説明しても、判断・決定できない、行動に移すことができないという事が今起きています。

福祉避難所を運営 菅原健介さん:行政とも連携しながらやらせてもらっているのですが、関西圏のような都市部の人と違って、輪島ってそもそも金沢からも少し遠いですし、そこに住んでいる人の土地へ思い入れや文化背景というのが、神奈川県から応援に来ている僕の感覚とは全然違う。そういった想いがあるものに対して、外から来た人がいきなり1.5次、2次避難しろと言っても、そこを理解しないと自分の街を離れるという選択をなかなかできないのではないかと感じています。

■福祉避難所から避難先への移動がスムーズに行われない「平時からの問題」

行政とも連携をしているという事だが、スムーズに避難先を変えることはできているのだろうか?

福祉避難所を運営 菅原健介さん:スムーズだとは言えないのですが、関わる人が精一杯でやっているとは思います。ただ避難者の視点からすると、相談できる人たちにすぐつながるかというと、なかなかつながらないという状況じゃないかなと思います。

福祉避難所を運営 菅原健介さん:(Q. なぜ繋がらない?)平時からの問題ではありますが、例えば通常介護が必要になった時に、ケアマネージャーさんに相談しますが、ケアマネージャーさんが紹介する施設を全部知っているのか、そこのスタッフとの関係性があるかというと、ない場合が多いです。それと同じことが災害時でも起こっていて、避難先の情報をどこまで知っているか、文字での情報は当然知っていますが、『私たちみたいな人が行っても本当に大丈夫なんですか?』と聞いた時に『大丈夫です』と言い切れない部分があります。だから避難先と2次避難先と福祉避難所が連携しながら一緒に情報を共有したり、僕たちも次の避難先まで一緒に同行したりとか、逆に次の避難先の人にこちらに来ていただいて、ここで一緒に話をしながら、次に移行して行くということを、いま少しずつ進めています。

災害時に不可欠な福祉避難所だが、関西での災害時にはどのように開設されるのだろうか?

関西テレビ 加藤報道デスク:大阪市の場合、2023年10月時点では高齢者施設や障害者施設、合わせて361施設と協定が結ばれています。ただ、まずは通常の避難所に避難していただいて、福祉避難所が順次開設されていけば移っていくことになると思います。阪神淡路大震災の後、避難行動要支援者名簿を作りなさいと、国が法律で自治体に義務付けています。民生委員の方などが普段から作っているリストです。実際、東日本大震災でこのようなリストを作っていた地域は、かなり被害を免れたと言われています。なのでリスト化したほうが良いのですが、個人情報の扱いに慎重であるとか、周知が足りてないという状態で、まだうまくいっていないというところが課題です。

■身近なおせっかいな人・施設を見つけておこう

東日本大震災でも避難所の運営をしてきた菅原さんからのメッセージは…

「おせっかいな人・施設を見つけておく」

福祉避難所を運営 菅原健介さん:私たち全国訪問ボランティアのキャンナスという団体が、全国で150カ所ぐらいあります。キャンナスとは何かというと、おせっかいな看護師資格を持った人たちが、地域で困りごとがあったら介護保険の事業を超えて、有償ボランティアということをやっています。通常の制度事業というか、サービス業のように、きっちりやるという人たちも大事なんですけれども、そこを超えて、困った時には一歩踏み出してしまうという、おせっかいな人たちとつながっておくと、制度がうまく回らなくて困った時にその人たちが超えてきてくれたりします。それはキャンナスだけではなくいろんな所にいると思います。行政の中にも一歩超える人がいたり、メディアの方たちの中にもいたりとか、そういう人たちとつながっておくことで、自分が困った時に助けてもらえることにもつながっていくと思います。

災害時には、地域のつながり・人のつながりの大事さが、一層重みをもって感じられる。その「つながり」を平時に作っておくことの重要性もまた、改めて見直す必要がありそうだ。

(関西テレビ「newsランナー」2024年1月16日放送)

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