「クラブ史上初の2年連続J2」。清水エスパルスが形容されるにあたって、当面の間、この枕詞が使われることは多いだろう。それだけ2023年シーズンで逃したものは大きかった。とはいえ、いつまでも下を向いているわけにはいかない。

GM不在で挑む2024シーズン

1月5日。新体制の発表会見で清水エスパルスが掲げた今季のスローガンは「ONE FAMILY」。オレンジサポーターとクラブの連帯を高め、仲間の絆を軸にシーズンを乗り越えようというものだ。

新体制発表会見
新体制発表会見
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スローガンである「STRONG WILL」のもと、「1年でJ1復帰」という目標を高らかに打ち出した昨シーズンと比べると明らかにテンションが抑制され、ともすれば牧歌的な空気感すら漂う。

他を圧倒する強化費を投じながらJ1昇格を果たせなかった2023シーズン。クラブは大熊清GMを事実上の“解任”とした。当面はGMを置かず、強化部は内藤直樹 部長が束ね、内藤部長のもとには高木純平 副部長(元広報部長)と兵働明宏 副部長(元スカウト担当)が加わった。

従前より体制を厚くすることでGMの不在を補うばかりではなく、プレーヤーとして活躍し、引退後はクラブ内の強化部以外でキャリアを積んだ副部長の2人が、強化の新たな柱になることが今回の人事のポイントだ。

クラブの中でも立場によって考えの違いは出る。育成部門は下部組織からより多くの選手をトップチームに送り込みたいものの、保有できる選手の数には制限がある。

一方、強化部門は下部組織出身か否かは問題ではなく優秀な選手だけが欲しい。営業的に見ればスポンサーが関わるイベントは重要だが、強化部門からすれば可能な限り選手を休ませたいし、試合やトレーニング以外の出動要請に二つ返事ではない選手がいるのも事実だ。

そんな考えの違いについて、それぞれの要望を咀嚼して、クラブが長期的に成長していくために必要なビジョンを導き出す。現役時代に主に中盤で活躍した高木氏と兵働氏らしく、人をつなぐバランサーとしての役割が期待されているのは間違いない。

秋葉イズムが色濃い陣容に

クラブは2023シーズンの途中からチームを率いた秋葉忠宏 監督を留任とした。熱血指揮官は「勝負強さを追求する」と意気込んでいる。

昨シーズン、秋葉監督が率いた35試合で負け試合はわずかに「6」しかない。夏場には14試合連続無敗のクラブ記録も樹立した。ただ、リーグ戦終盤の大事な場面やプレーオフといった“ここ一番”の試合に勝ち切れず、J1昇格は幻と消えた。

今シーズンも指揮を執る秋葉忠宏 監督
今シーズンも指揮を執る秋葉忠宏 監督

新シーズンを迎えるにあたっての選手の補強や指導陣の増強には随所に“秋葉カラー”が見られる。

水戸の監督時代に頭角を現した住吉ジェラニレーションはフィジカルの強いCB、松崎快はテクニシャンのサイドハーフで、2016年にU-23日本代表のコーチを務めた時から付き合いのある矢島慎也はユーティリティ性あふれる中盤だ。

新シーズン新加入した選手たち
新シーズン新加入した選手たち

さらに、秋葉監督の母校である市立船橋高校からは全国高校サッカー選手権で5点をあげ得点王に輝いたFWの郡司璃来を獲得。

郡司選手の入団会見
郡司選手の入団会見

首脳陣に目を向けると水戸時代に共に指導にあたった依田光正コーチをJ3・福島ユナイテッドから招聘した。

現有戦力についても、J1での戦いを求める一部選手の流出は避けられなかったものの、乾・乾・カルリーニョス・北川・白崎・山原・権田といった中核を担う選手の引き留めに成功。これは強化部門の交渉が功を奏した面も大きいだろう。

また、「地域の誇りとなる強い育成型クラブ」をいうサブテーマも掲げ、かつてトップチームを率いた平岡宏章 氏が下部組織の指導者育成に携わるアカデミーヘッドオブコーチングを担うことも決まった。

このように自身のカラーが色濃く反映された体制の中で、秋葉監督自身もこれまで以上に自身の考えを押し出したチーム作りに着手できるだろう。試合終了の笛が吹かれるその瞬間まで走り切ることが出来る体力。厳しい局面でも勝利を手繰り寄せられる勝負強さ。そして何より昨シーズンの悔しさを糧に序盤からフルスロットルで戦えるだけのコンディショニング。

いま、秋葉監督の再挑戦が始まろうとしている。

(テレビ静岡 報道部スポーツ班・外岡哲)

テレビ静岡
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外岡哲
外岡哲

テレビ静岡 報道部スポーツ業務推進役(清水エスパルス担当)。
1984年テレビ静岡入社。
1987年~1994年(主に社会部や掛川支局駐在)
2000年~2002年(主に県政担当やニュースデスク)
2021年~現在(スポーツ担当)
ドキュメンタリー番組「幻の甲子園」「産廃が街にやってくる」「空白域・東海地震に備えて」などを制作。
清水東高校時代はサッカー部に所属し、高校3年時には全国高校サッカー選手権静岡県大会でベスト11。
J2・熊本の大木武 監督は高校時代の同級生。