ことしもネット上には数々の誹謗中傷が飛び交い、中には自殺に追い込まれる人がいた。国も対策に乗り出す中、なぜネットの誹謗中傷は後を絶たないのか。今回、SNSの中傷で有罪判決を受けた加害者を田村淳さんが直当たりした。
■今もネット上の誹謗中傷に…「ジャニーズ性加害問題当事者の会」のメンバーたち

ジャニーズ性加害問題当事者の会のメンバーで元ジャニーズジュニアの二本樹顕理さん。性加害を告発して以降、「嘘つき」や「金目当て」などと、ネット上での誹謗中傷にさらされ続けている。
二本樹顕理さん:
旧事務所を支援されていると思われる方たちが投稿しているものですね
(SNS上の投稿内容)
「被害者の会だか知りませんが、落ちこぼれの集まりが今さら騒いでジャニーズ壊してんじゃねぇよ、と思います」
「ジャニーズの名前を聞くだけで病気(笑)が発症するならジャニーズの名前使って売名すんな」
二本樹さんの場合、妻の個人情報までネット上にさらされるなど、影響は家族にも及んでいる。

二本樹顕理さん:
私自身もうつにもなりましたし、食事ものどを通らないことがありました。被害状況を思い出すだけでも相当つらいのに、そうした批判的な意見を浴びせられて本当に八方ふさがりになるというか…望みが絶たれてしまうような感覚を覚えましたよね
2023年10月には被害を告発した当事者の会メンバーが大阪府箕面市の山の中で発見され、死亡が確認された。自殺とみられている。性被害のトラウマにSNS上での誹謗中傷が加わり、二重の苦しみになっていたということだ。 仲間の死を受け、二本樹さんは被害届の提出に踏み切ったが、その誹謗中傷を受けたことに対しても…
(SNS上の投稿内容)
「当たり前やろう!日本会社アイドル潰したんだしな、現役アイドルは被害者やわ」
■「素顔はさらせない…」コスプレ姿で街を歩く 誹謗中傷の「加害」男性

そんな誹謗中傷が渦巻いた今年、ある男性に侮辱罪の有罪判決が下りた。1月にSNSの誹謗中傷で有罪となった油利潤一さん(24歳)。
油利さんはメイク・コスプレ姿で街を歩くことが多いそうだ
記者:
コスプレ姿で外を歩くことが多い?
油利潤一さん:
そうですね、自分の顔がネット上にさらされている以上、普段素顔で歩くのがあんまり好きじゃないです
こう話す背景には、油利さんが行ったSNSでの誹謗中傷があります。 4年前、東京の池袋で起きた暴走事故で妻(真菜さん・当時31歳)と娘(莉子ちゃん・当時3歳)を亡くしその後、悲惨な事故をなくそうと活動を続ける松永拓也さんに、“悪意ある投稿”を行いました。
油利潤一さんの投稿:
金や反響目当てで、飯塚昭三先生と闘ってるようにしか見えませんでしたね。男は新しい女作ってやり直せばいいこと。お荷モツの子どもも居なくなったから乗り換えも楽でしょうに哄笑(※2022年3月のSNS投稿内容)
松永拓也さん:
何よりも真菜と莉子、妻と娘のことを“お荷物だ”とモノみたいに言われて。“いなくなったから女を取っ替えればいいじゃない”かみたいな、そんなこと言われるのは本当に言葉にできないほどつらいです

今回、初めて実名で、カメラの前に顔を出した誹謗中傷の加害者。なぜ彼はSNSで、愛する家族を亡くしそれでも活動を続ける松永さんを“攻撃”したのか?田村淳さんが迫った。
田村淳さん:
今回取材に顔を出しても受けていいと思ったのはどういう理由?
油利潤一さん:
遺族(松永さん)に対して真摯に向き合いたいと思って
田村淳さん:
自分がやったことをきちんと反省していることを伝えたいから、メディアでの取材を受けたっていうことでいいですかね?
油利潤一さん:
はい

田村淳さん:
今日僕、初めてお会いしましたけど、いま若干メイクしているように見受けられるんですけど、これはどういうメイク?
油利潤一さん:
普段でもやっぱり素顔のまま外出歩くことが怖くて。ノーメイクで取材を受けるか、メイクのままで受けるかで、自分の中でも慎重に考えた中でメイクして取材に応じることにしました」
田村淳さん:
なぜ誹謗中傷してしまった?
この質問に対し油利さんはしばし黙り込んでしまいました。
■うっ憤晴らしに、他人を傷つけることをしてしまって松永さん傷つけてしまった

松永拓也さん:
莉子の人生最後の写真ですね。真菜が撮った。公園で遊んでいて、この帰り道で事故に遭ってしまったので
東京・池袋の暴走事故で大切な家族を失った松永拓也さん。2022年12月の裁判で、自分を誹謗中傷した男と初めて対面しました。
松永拓也さん:
まあ、パッと見はそういう誹謗中傷とかするような人には私は見えなかったのですが、あれだけのことを書いておきながら、言い逃れする光景を見て、この方は真に自分自身の書いた言葉と向き合っていないなという風に思いました
田村淳さん:
なぜ誹謗中傷をしてしまった?
油利潤一さん:
どうせ見ないだろうっていう軽い気持ちで自分の意見を送ってしまって。まさか見ているとは思っていなくて、その時はすごく狼狽してしまいました。ちゃんと見ているのだなと思ってすごく後悔しています

田村淳さん:なぜあれをわざわざ発信しないといけなかった?
油利潤一さん:
誹謗中傷してしまった当時としては、仕事もしていなくて、今後が不安で、すごい焦燥感に悩まされていて。朝起きた時が一番つらくて、起きると絶望的な気分になったりとかして。それでツイッターとかで誹謗中傷したり、過激な返信を送ったりというのが続いていたので
松永さんを誹謗中傷するまでの数カ月間、彼は“ネット炎上”のターゲットとなっていました。 これは油利さんが運転する車を捉えた動画です。「あおり運転をしている」とSNSで拡散されました。また、同じ日に「事故ごっこ」と称し自ら投稿した“迷惑”行為でも炎上。ネット上で自宅の住所がさらされ、それに対抗するかのように過激な投稿はエスカレートしました。

田村淳さん:
自分も嫌なわけじゃないですか。当然相手も嫌だと感情になると思うのですが、なんで自分が嫌なことを相手にしてしまったと考えていますか?
油利潤一さん:
当時の考え方としましては、自分がされて嫌だったことをされた時には、うっ憤晴らしに、他人を傷つけるということを自分の考え方でしてしまって。それが続いてしまって、それがエスカレートしてしまって、松永さんに誹謗中傷することになってしまいました
投稿は、侮辱罪が厳罰化される以前のもので当時では最も重い拘留29日の有罪判決。 その裁判で、彼が誓ったことがあります。

油利潤一さん:
SNSでの発信はしない
松永拓也さん:
今までの彼を見ていると、SNSをしないというのは非常にまあ難しいんじゃないかなっていう風に正直思っています」(2023年1月の会見)
記者:
将来やりたい仕事とかあるのですか?
油利潤一さん:
夢はコスプレの衣装とか作れるようになって、売ったりとか。SNSを活用して、自分流のコスプレを色んな人に伝えられたらいいかなと
■承認欲求…裁判所での誓いを破り再開したSNS 『いいね』増えると気が高ぶる

今は名古屋の実家で暮らしながら、コスプレ姿で働けるホストなどでアルバイトをする生活。しかし…裁判の数カ月後にはSNSを再開していた。主な投稿はアニメのコスプレだが、中にはこんな動画も…
油利潤一さん:
これを見ろ。これは絶対飲酒してるってことだろう。一目瞭然じゃねえか、レモンサワーだぞ。今警察通報したので5分後ぐらいに警察来ますと。私人逮捕できる可能性もある
警察は駐車違反で取り締まるも飲酒運転は確認されなかった

田村淳さん:
またSNSをやっているここは自分の中でどう捉えていますか?
油利潤一さん:
僕としても遺族に対してとても心象が悪いように見受けますが、まあやっぱり禁酒をしろと言われている人がお酒をやめられないと一緒で、やっぱりSNSはやめられなかったです
田村淳さん:
誰かに見てもらいたいとか、そういう欲求ですか?
油利潤一さん:
そうですね、そういう承認欲求はあって、一回そういう、ナンバープレートを“不正”している車両を警察に通報した様子の動画をツイッター上にアップロードして、それが意外と伸びて
田村淳さん:
それ、ある種なんか高揚感があるんですか?
油利潤一さん:
『いいね』とか『インプレッション』が増えたりすると気が高ぶり、続けたいなという考えになります
田村淳さん:
うーん、なるほどだからこの先もSNSはきっとやめないだろうし、やめられないっていうのが今の油利さんの本音ですよね?
油利潤一さん:
はい。

田村淳さん:
いつの日か、油利さんの人生が今後どうなるかわからないですけど、また絶望的な朝を迎えたときに、同じようにやったりしないですか?
油利潤一さん:
まあちょっと…
田村淳さん:
約束できないですよね。だって裁判所で約束したことを守れてないから、自制が効かないと僕は思っているのですよね。満たされないという状況になったときの自分を考えたらどうですか、制御できますか?
油利潤一さん:
ちょっとわからないです
松永さんは彼がSNSを再開したことを知っていた。
松永拓也さん:
彼がなぜそれをやりたいのかですよね。なぜその私人逮捕をやりたいのか?なぜ炎上したいのか?彼は裁判で自分自身の『承認欲求』という言葉を使ったんですね。承認欲求を満たすためにやってしまったと。ただ今もそういうことをやっているのであれば、まあ彼が何でそれをやるのか分からないですよ。承認欲求でやっているのだとしたら、彼は変わってないということになりますね
松永拓也さん:
関わってしまった以上、正直関わりたくはなかったですけどね。関わってしまった以上は、そして彼は罪を償った以上はね、しっかりと本当に前向いて生きてほしいので
裁判での意見陳述、松永さんはあえて「油利さん」と名前を呼んで、「私や妻と娘を侮辱したことを心から謝罪できるような人になっていただきたいです」と語り掛けていた。

田村淳さん:
松永さんが言っていた『きちんと心から反省して謝罪をする日が来ることを願っています』ということに対しては、今日のインタビューって油利さんが到達できたと思わないんですね。だとしたら今後どう向き合います?松永さんの思いに
この問いかけに対して油利さんは黙り込んでしまった。
田村淳さん:
いやすごく想像してほしいです、ここは。松永さんがどんな思いで、いつもメディアで情報発信をしているかとか。松永さんはメイクせずに自分の素顔を晒してメディアに出て色んなことを訴えています。その松永さんに対して、油利さんが今何を思うのかが僕は知りたいです

油利潤一さん:
この先、自分はどうすればいいのか、何が正しいのかは今の自分にはわかんないので、どうすればいいか知りたいです
取材を終えて向かった久しぶりの東京の街、取材後、油利さんが記者にこう話した。
油利潤一さん:
自分としてはSNSがある今の時代が好きなので、何があろうと使い方を改めて続けていきたい
(関西テレビ「newsランナー」2023年12月27日放送)