最高時速約80kmの疾走感と迫力あるターンで観客を魅了する“水上の格闘技”ボートレース。厳しいプロの世界に足を踏み入れた18歳の新人レーサーのデビュー戦に密着した。
水面以外でも…走る!走る!走る!
6艇のボートが水面を走り着順を競うボートレース。迫力あるターンから「水上の格闘技」とも呼ばれ、男女問わず選手が同じレースで勝負する珍しい競技だ。

11月、新人選手がボートレース大村でデビューした。長崎・南島原市出身の森陽多(もりひなた)選手(18)だ。
新人ボートレーサー・森陽多選手:
スピードのあるターンを見せてかっこいい姿を見せたいし、少しずつ結果を出していきたい

森選手は、約1,200人の応募者のうち、52人しか合格できなかった養成所の入所試験に一発合格。約半数が脱落する厳しい訓練を耐え抜き、2023年9月に卒業した。

新人の森選手が走るのは、水面だけではない。新人の仕事として先輩のボートに取り付けるモーター運びや先輩のボートの清掃など、一日中レース場を走り回っている。
新人ボートレーサー・森陽多選手:
やることが多いし仕事を覚えることに必死なので毎日一瞬で終わる

先輩の手伝いが終わればやっと自分の準備に。モーターやプロペラ、ハンドルの整備、調整はすべてレーサー自身の手作業だ。
新人ボートレーサー・森陽多選手:
整備は自分でやっている。全然分からないことばかりなので大変
目標は“外からでも勝てる選手”
ボートレースはターンマークに近い内側のコースが勝ちやすいとされている。しかし、新人はターンマークから最も遠く、かつ一番勝つ確率が低い大外の6コースからのスタートがならわしだ。新人にとっての最初の試練だが、森選手は大きな目標を語っていた。

新人ボートレーサー・森陽多選手:
外からでも握って勝てる選手になりたい。まくって行って勝ちたい

「まくり」とは外の舟が内側の舟よりも早くターンマークを回る勝ち方だ。スタートダッシュとスピードのあるターンが必須で、決まればレース場が沸く花形の決まり手である。
森選手は「まくり」を目指して、何度もスタート練習や試運転を繰り返し本番への調整を重ねた。一方で先輩の走りにも目を凝らし、貪欲に技術を盗む姿勢も見せている。

先輩レーサー・野田祥子選手:
若いし、吸収力の幅があると思うので慌てずひとつずつ頑張ってほしい
「父に感謝」夢に向かって全速力で
幼い頃から、父・航さんに連れられ、ボートレース大村に足を運んでいた森選手。エンジンの音やレースの迫力に魅了され、小学3年生でレーサーになりたいと考えるようになった。

中学ではレーサーに必要な基礎体力を付けるために陸上部に入部。高校もボート整備のスキルを身に着けようと長崎県立島原工業に進学するなど、夢に向かって全速力で駆け抜けてきた。

新人ボートレーサー・森陽多選手:
父にはこの職業を教えてくれて感謝しているし、自分がレーサーになりたいことを応援してくれたので、結果を出して恩返しをして成長した姿を見てほしい
一走一走に思いを込めて
いよいよデビュー戦・出走の日。表情にも緊張感が漂う。

スタートでは後手に回るが必死にくらいついて、1周目は先輩たちと競り合う森選手。しかし、最終的には最下位の6着と、甘くはない現実を思い知った。
新人ボートレーサー・森陽多選手:
先輩に置いていかれないように必死で、道中もうまくできなくて最後になってしまったので課題がたくさん見つかった
ボートレーサーは賞金で生活する個人事業主だ。整備やターン技術をたやすく教えない風習もある中、レース後、悩む森選手に同じ長崎支部のトップレーサー「A級」の先輩がアドバイスにきてくれた。

長崎支部長・榎幸司選手:
(ボートが)右に跳ねるのは身体が左に向くと右が跳ねる。おなかに力入れたら体はぶれない。やってみながら水面で
ボートレーサーは全国に約1,600人。そのうち長崎支部のレーサーは57人で女子選手はわずか10人しかいない。森選手はベテランにとっても期待の存在なのである。

長崎支部長・榎幸司選手:
新しい子が出てきてくれると、若い子は宝。僕たちも負けないようにしないといけないが、地元の支部の若い子が上手になってくれたらうれしいので頼もしい存在
デビュー戦は、5着1本、6着7本だった森選手。ボートレースはデビューから5年以内に規定の勝率に満たない場合などは「引退勧告」が出るほど厳しい世界だ。
森選手は、一走一走に思いを込めると話す。

新人ボートレーサー・森陽多選手:
小さい頃からここでレースを見てかっこいいと思って目指した。お客さまの目の前で自分が走っているのはまだ実感がない。この水面で1着をとったりお客さまに面白いと思ってもらえるようなレースがしたい
2022年、ボートレース大村で開かれた国内最高峰のグレードレースSGレースでは初めて女子選手が優勝した。女子レーサーの注目度は年々高まっている。レーサーの夢をかなえた森選手が次に目指すのは、5年以内にA級レーサーに昇格することだ。森選手は多くの人の期待を乗せて、ひたむきに水面を走り続ける。
(テレビ長崎)