参議院本会議場のスロープ試作品が完成

7月7日、通常国会が閉会してから初めて参議院の本会議場の中の様子を、上部の記者席から眺めた。すると茶色の木目調で統一された見慣れた議場の景色が大きく変わっていた。登壇するための階段の横に、白色の車いす用のスロープが試験的に設置されていたのだ。スロープは、真新しい木材で作られていて、周囲の色から浮いていたが、バリアフリー化に向けた新しい国会の在り方を、象徴しているように思えた。

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参議院では、昨年7月の参院選で、れいわ新選組の木村英子氏と舩後靖彦氏、国民民主党の横澤高徳氏の3人の車いす利用者が当選し、段差や階段のある本会議場などのバリアフリー化が課題となっていた。これまでにも本会議場では、れいわ新選組の2議員が、大型の車いすで本会議に出席できるようにするため、出入り口付近の席を改修して、いすを撤去するなどの作業も行われてきた。

れいわ新選組の舩後靖彦氏・2019年
れいわ新選組の舩後靖彦氏・2019年

この日、参議院の議員運営委員会理事会のメンバーらは、スロープの試作品を視察し、スロープの幅、勾配、手すりの高さなどを確認した。視察した議員からは、「少し勾配が急な点を改善できるのではないか」という意見も出た。翌日の8日には、木村氏や舩後氏、横澤氏が実際にスロープを体験し、「もう少しなだらかになるとありがたい」などと感想を語った。参議院は、それらの意見を踏まえた上で、早急に工事を始め、来年1月の通常国会までに完成させる見通しだ。

大変なのは「雰囲気の調和」?

今回設置されたスロープの試作品は、片側にだけ設置され、幅が80cm、長さが7m、勾配が約6度で設計されている。実際に設置される完成品については、もう少し勾配を緩やかにし、塗装を施すなどの変更点はあるが、幅や長さなどは試作品から大きく変えられることはないという。着脱式にするか常設にするかは、まだ決まっていない。

ちなみに設置費用については、試作品が片側で150万円だったの対して、完成品は人件費も含め両側で5000万円かかるとされている。参議院の事務局に問い合わせたところ、「まだ設計段階にない」「5000万円の詳細な内訳はまだ話せない」としながらも、「本会議場の周りの雰囲気に調和させるために費用がかかる」と説明している。

本会議場は昭和11年に設計され、議場内の設備は、国産のケヤキで出来ていて、美しいツヤが特徴だ。だからこそ、同じようにケヤキを使って作製するとなると、ベニヤ板で作られた試作品よりも、はるかに高額になるのである。歴史的建造物である国会の中においては、単に新しいものを導入するだけではなく、古さと調和させる必要がある。それだけに、費用が高い気もするが、バリアフリーの必要性と歴史と威厳の保持という点では致し方ないところだろう。

歴史に根ざした「新時代の国会」に向けて!

スロープの視察後、委員会の理事を務める自民党の大家議員は記者団に対して、「今までやっぱり対応が遅れてきたという点も反省しながら、世界一開かれた参議院を作りたい」と述べた。同じく理事の立憲民主党の斉藤議員は、「国民全体の施設でもあるし、その象徴的なのが国会議事堂。世界一バリアフリーな施設にすることに、すごく意義がある」と語った。

バリアフリー化という点では、本会議場のスロープ以外にも、国会議事堂内のトイレや、段差など、まだ改修工事すべき箇所は残っている。そうした設備を整えていくと同時に、その議場内において、国権の最高機関という名に値するだけの、真剣かつ格調高い議論が行われることを期待したい。

(フジテレビ政治部 高橋洵)

高橋 洵
高橋 洵

フジテレビ報道局政治部記者。官邸クラブ所属。これまで自民党や立憲民主党などを担当。新潟出身。