東日本大震災をきっかけに宮城県が整備することを決めた「広域防災拠点」が、12年の完成時期の遅れ、そして127億円もの事業費増加という事態に陥っている。構想検討から10年。県が掲げる創造的復興の一大プロジェクトは、その〝妥当性〟が問われている。

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震災が契機に…広域防災拠点とは

「広域防災拠点」は、2011年の東日本大震災をきっかけに宮城県が整備を決定したものだ。土地は仙台市宮城野区のJR仙台貨物ターミナル駅の敷地内(17.5ha)で、県はターミナル駅の移転後に整備を進めるとしている。

「広域防災拠点整備予定地」のJR仙台貨物ターミナル駅敷地 北側に見えるのは楽天モバイルパーク宮城
「広域防災拠点整備予定地」のJR仙台貨物ターミナル駅敷地 北側に見えるのは楽天モバイルパーク宮城

整備の目的は、「傷病者の域外搬送拠点」「警察や消防などの広域支援部隊の一次集結場所」「物資輸送の中継地点」など、大規模災害が発生した際の対応をとる拠点を作ろうというもの。東日本大震災の際に支援部隊や応援物資の拠点が無く、物資の分配などを巡って混乱が起きたことなどが教訓になっている。

県は芝生広場やグラウンドも整備することで、平時にも「県民がリフレッシュできる場」「次世代への災害伝承や防災教育の場」として活用できるとも説明してきた。

県が2016年に提示した「広域防災拠点」完成予想図
県が2016年に提示した「広域防災拠点」完成予想図

度重なる着工延期…事業費増額

この「広域防災拠点」構想は、2013年1月に明らかになり、2015年10月に基本設計が策定。2016年10月には、県とJR貨物の間で用地取得に関する売買契約を結び、JRへの整備補償費を含め、当初の総事業費は295億円、2020年度の完成を見込んでいた。

広域防災拠点検討会議 2013年11月
広域防災拠点検討会議 2013年11月

しかし、2019年2月。県は最初の延期を発表。「国や仙台市、JR東日本などとの協議が滞っている」と説明し、工事の本格着工を2023年度以降と修正した。当初の予定完成時期が2020年度だったことを考えると、大幅な遅れが出ていることが明らかになったワケだ。

さらに、一度目の延期から約2年後の2021年3月、「ターミナル駅の移転先の用地での埋蔵文化財の調査が必要となり、移転工事等が長期化する」などとして、二度目の延期を発表。工事の本格着工をさらに3年遅れの「2026年度以降」に修正した。この時、JRへの整備補償費も含めた事業費は、29億円増額の324億円となっていた。

二度あることは三度ある。県は2023年2月、三度目の延期を明らかにした。「JR側が行ったターミナル駅移転先の現地調査で、新たな地盤対策工事が必要になった」などと説明し、「2032年度の完成」に修正。当初の予定は2020年度の完成。三度の延期で12年完成が遅れた計算になる。

広域防災拠点の完成時期の延期を県議会で報告する村井嘉浩宮城県知事 2023年2月
広域防災拠点の完成時期の延期を県議会で報告する村井嘉浩宮城県知事 2023年2月

さらに11月には、総事業費が422億円にまで膨らむことが明らかになった。計画当初と比較すると127億円もの増額だ。国の負担もあるものの、県負担分は204億円となった。その妥当性、費用対効果が問われるのは至極当然のことだろう。

村井知事は11月27日の会見で「計画の段階で県の認識に足りない部分があったのか」と問われ、「県の土木部は港湾や道路や河川には手馴れているが、鉄道の経験がまったくなく分からないことが多かった」と見通しの甘さを認めた。

そのうえで、「コンサルとともに、信号機1個、鉄路1本まで1つ1つ、JR側への補償基準に該当するが試算したが、JR貨物側から詳細設計がなかなか出てこなかった。JRが悪いということではなく、JR側も慎重に検討した結果だが、結果的に遅れたことが、近年の資材の高騰にぶつかった」となどと、経緯を説明した。

背景に物価高騰も…問われる必要性

広域防災拠点を巡る度重なる延期や事業費の増額の背景には、JR側の事情もあるのも事実だ。「JR仙台貨物ターミナル駅」が移転しない限り広域防災拠点の整備は進まず、そのターミナル駅の移転完了は現在、2029年が見込まれている。

拠点整備に向けた地質調査の様子 2016年11月
拠点整備に向けた地質調査の様子 2016年11月

村井知事は2021年3月の会見で、JR貨物の社長と会い「できるだけ早くしてほしい」と伝えたことを明かしていた。

これに対し、JR貨物側からは「いたずらに延ばすつもりはないが、鉄道の工事というのは進める都度、新たな問題が出てきて、どうしても遅れ遅れになってしまう」との回答があったという。

村井知事は「我々の考えている時間軸とは、違う時間軸で物事を考えなければならないというお話をされた。県の事業で県が発注してということであればいろいろな対策も取れるが、これはJR貨物の工事なので、県がそれについて一定以上の口出しをすることは許されないし、できない。やむを得ないことだろうなと思う」と述べた。

一方で、完成時期の12年遅れ、127億円の事業費の増額といった事態には、疑問を抱かざるを得ない。

野党系の県議の一人は「広域防災拠点の役割や必要性には一定の評価をする」としたうえで、「工事期間、事業費ともに見通しがあまりにも甘過ぎたと言わざるを得ない。民間企業ではあり得ない事業見通しであり、10年にも及ぶ期間延伸では、企業そのものが存続しているかも分からない」とその過程を強く批判する。

県は2022年4月に整備が可能となった、整備予定地のうちの2ヘクタールを整備し、暫定的な広域防災拠点としたが、応急処置に留まっているのが現状だ。

知事は必要性について理解求める

27日の定例会見で村井知事は、「近年、災害も激甚化・頻発化しており、必要性は高まっている。近くに県内唯一の基幹災害拠点病院・仙台医療センターや陸上自衛隊仙台駐屯地もあり、交通アクセスなども考えると、拠点の整備により県民の命を守る機能が飛躍的に向上する」と改めて整備に理解を求めた。

近くに位置する 県内唯一の基幹災害拠点病院 仙台医療センター
近くに位置する 県内唯一の基幹災害拠点病院 仙台医療センター

あわせて「事業費はJR側と相当シビアな交渉をし、ほかの増額となった事業と比べ、費用は抑えている」とも話したが、11月28日から始まる県議会でも、追及は避けられないだろう。

着手10年超「公共事業再評価」へ

この広域防災拠点事業は、事業の着手から10年以内に完了しなかったため、「公共事業再評価」の対象となった。それに伴い県は、大学教授などの学識経験者で構成される「行政評価委員会」に〝事業の妥当性〟を諮問し、県民向けにパブリックコメントも実施した。

東日本大震災を教訓に、村井知事が打ち出した多額の一大プロジェクトは、膨大な事業費に見合う妥当性があるのか。行政評価委員会は今後検討を進め、2024年1月に答申する見通しだ。

(仙台放送)

仙台放送
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