「44.8」と「0.88」。これは、100万人当たりの臓器提供者の数。前者がアメリカで、後者が日本だ。海外と比べなかなか進まない日本での臓器移植。
「移植でしか救えない命がある」幼い頃に心臓移植を受けた宮城県に住む男性は、国内で進まない臓器移植の現状と日々向き合っている。

国内での臓器移植普及へ

11月11日、大阪の万博記念公園で開かれた「THANKS FOR LIFE」。移植待機者とその家族を支援する非営利団体のトリオ・ジャパンが企画したもので、患者や家族、支援者など270人が集まり交流を深めた。

この記事の画像(14枚)

トリオ・ジャパン代表の青山さんは、イベントの開催意義について、次のように話す。

「仲間通しで支え合うことはすごく大切。ところが日本において、臓器移植の問題を抱える人たちに対し、ネットなどで罵詈雑言であふれているのが現状。今回のイベントでは患者やその家族が多数派。彼らは今を戦っている人たちの希望になる」
(トリオ・ジャパン 青山竜馬会長)

トリオ・ジャパン 青山竜馬会長
トリオ・ジャパン 青山竜馬会長

そんなイベントには、すでに移植を受けた人も携わっている。横山由宇人さん(18)は「移植を終えた人や待機している人は不安がある。なるべくポジティブにイベントに参加しようと思う」などと意気込みを口にする。

13年前の2010年、当時5歳だった横山さんは拡張型心筋症を患い、「命をつなぐには心臓移植しかない」と医師に告げられた。

国内で提供を受けるのは難しく、家族はアメリカでの移植手術を決意。支援者とともに募金を呼びかけると、目標としていた1億3500万円が集まり、由宇人さんへの心臓移植が実現した。

リスク伴う…海外移植手術

由宇人さんは現在、大学1年生。「トリオ・ジャパン」で活動する父親に誘われ、今回のイベント運営に参加することにした。国内での臓器移植普及を目指した今回のイベント。開かれた背景の一つに、海外での移植手術のリスクの高さがあるという。

由宇人さん(左)と父親の慎也さん(右)
由宇人さん(左)と父親の慎也さん(右)

手術や渡航など、莫大な費用がかかる海外での移植手術。由宇人さんの父親・横山慎也さんも当時を振り返り「補助人工心臓を装着しているので、飛行機に乗って行くと気圧の関係などで心拍が上がったり、脳が圧縮するリスクがあると、ドクターから聞いていたので心配でした」と話す。

実際由宇人さんは、アメリカに着いてすぐ硬膜下出血を発症。移植の前に緊急手術を行い、容体が安定するまで移植の待機リストから外された。当時、医師からは気圧の問題だけでなく、日本とは異なる医療ケアが原因になった可能性も指摘された。

なぜ、由宇人さんのように、多くの日本人がリスクをとって海外での手術を選ぶのか。そこには、日本の臓器移植の厳しい現実がある。

移植医療でしか救えぬ命

2022年の100万人あたりの臓器提供数を国別で見ると、アメリカは「44.50」。ヨーロッパでも「46.03」のスペインを筆頭に、イギリスは「21.08」、ドイツでも「10.34」。お隣、韓国は「7.88」と少ないように見えるが、日本はその韓国をも大幅に下回るわずか「0.88」となっているのだ。

日本臓器移植ネットワークによると、10月末の時点で心臓の移植を希望し登録している人は872人。移植を待ちながら亡くなる患者が多いのも現実だ。

手術を受けて13年。現在も薬の服用や通院など、生活上での制限はある。それでも、由宇人さんは「移植医療」でしか救えない命があることを伝えていきたいと考えている。

小学4年生の時の由宇人さん
小学4年生の時の由宇人さん

こんなふうに元気になれる姿も見せたいし、自分がやりたいこともできる。何にでもなれるし、何でもやれると伝えていきたい
(横山由宇人さん)

思い届け…患者やその家族の支えに

会場では国内で移植を待つ患者へみんなでエールを送る。治療を続ける患者にとって、応援は、大きな心の支えだと由宇人さんは話す。

「当時、応援は自分の心に炎を灯してくれた。応援されると頑張りたいという気持ちになる。応援された側としてはすごくうれしかった。応援は大事」
(横山由宇人さん)

経験者だからこそ感じる「支え」の必要性。大きな声が会場に響き渡っていた。

体調の問題、家族の問題、費用の問題。
生きたいと願いながらも、誰もが海外で臓器移植を受けられるわけではない。

移植医療への理解が広がり、日本でも臓器提供の意思表示をする人が徐々に増えている現状は確かにある。主催団体の代表は、由宇人さんの存在が患者や家族の支えとなり、移植医療を知ってもらうきっかけにもなると考えている。

「私自身も7年前、娘の海外渡航移植の当事者でしたが、その時に彼にすごく勇気をもらったし、それはきっと今を闘っている皆さんもそうだろうと思う」
(トリオ・ジャパン 青山竜馬会長)

「姿を見て希望をもらったなど、言葉を多くいただきました。すごくうれしいです。みんなに知ってもらうことから始めていきたい」
(横山由宇人さん)

横山由宇人さん
横山由宇人さん

臓器移植法(1997年施行)に基づく脳死判定が10月、1000例目に達した日本。臓器移植が可能な土壌が少しずつかもしれないが育ってきている。

「臓器移植について知ってほしい」移植によって今を生きる由宇人さんの思いが多くの人に触れ、日本の臓器移植の未来にどう影響を与えるのか、注目だ。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。