2024年11月5日に行われる米大統領選まで1年に迫った。民主党は現職のバイデン大統領(80)、共和党はトランプ前大統領(77)が、党内の圧倒的な支持を背景に、早くも2020年に続く再対決が確実視される展開となっている。さらに、民主党から無所属での出馬を表明したロバート・ケネディ・ジュニア氏(69)の参戦で、激しい選挙戦となることも予想される。
国内外の情勢不安と不確定要素がつきまとう現・前大統領
米キニピアック大学が10月に行った最新の世論調査では、現、前大統領の再対決となった場合、バイデン氏の47%に対し、トランプ氏が46%とデットヒートの展開となっている。
この記事の画像(6枚)両者にケネディ・ジュニア氏が加わると、バイデン氏39%、トランプ氏36%、ケネディ氏が22%となる。さらに無党派層に限ってみると、ケネディ氏36%、トランプ氏31%、バイデン氏30%となり、両陣営にとってケネディ氏は決して侮れない存在だ。
一方で今回の大統領選は、ロシアによるウクライナ侵攻に加え、イスラム組織ハマスとイスラエルの戦闘も勃発。アメリカがウクライナ、イスラエル支援を表明し、世界で緊張が高まる中での選挙戦となる。そうした中で、国内で相次ぐ銃乱射事件や中絶、移民問題、長引くインフレといった国内世論を二分するいくつもの内政問題を抱えている。いずれも先行きが見通せず、刻一刻と状況が変わる。不安定で、不確実性が高く、今後の選挙戦に大きな影響を及ぼしてくる。
国内外の情勢だけではない。今回の選挙戦は、候補者自身も不確実性を抱えていることが、まれに見る選挙戦の要因となっている。
ホワイトハウスからの機密文書の持ち出しを巡り、バイデン氏、トランプ氏は、FBI=連邦捜査局から家宅捜索を受けた。11月20日に81歳を迎えるバイデン氏は、現職大統領として最高齢記録を更新し続けるとともに常に年齢問題がつきまとう。次男のハンター・バイデン氏は現職大統領の子供として初めて起訴された。
トランプ氏に至っては、2020年の大統領選の敗北を未だ認めず、選挙介入や機密文書の持ちだしなど91の罪で起訴されているほか、民事裁判でも法廷に立ち、被告人として選挙戦に臨む超異例の展開となっている。候補者を取り巻く環境の変化はめまぐるしく、油断できない状況だ。
“選挙の神様”の分析は…
FNNは、過去40年間で10度の大統領選挙の予想を行い、そのほとんどを的中させたアメリカン大学のアラン・リクトマン教授(76)に2024年の大統領選の現時点での分析、評価を聞いた。
リクトマン教授は、独自に作成した「13の項目」をもとに大統領選の勝敗を占っている。最近では、2016年の大統領選で、その年の9月にトランプ氏の当選を予想し、2012年の大統領選挙では、3年前の2009年にオバマ氏の再選を予測、見事的中させた。長年の経験と実績で、政界などからの信頼も厚い。しかし今回は、不確定要素が多く、予測は立てられないでいる。
リクトマン教授は、分析に以下の「13の項目」を使っている。
1. 政権政党が中間選挙で下院の議席数を増やす
2. 党の予備選で激しい戦いはない
3. 現職の大統領が党の候補になる
4. 目立った第3党や無所属の選挙運動がない
5. 選挙期間中に景気が後退することはない
6. 任期中の実質経済成長率が、前任などの平均成長率と同等か、それを上回る
7. 現政権が国家政策に大きな変化をもたらしている
8. 任期中に継続的な社会不安がない
9. 現政権に大きなスキャンダルがない
10. 現政権が外交・軍事問題で大きな失敗をしていない
11. 現政権が外交・軍事問題で大きな成功を収める
12. 現職の政党候補者は、カリスマ性があるか、国民的英雄である
13. 挑戦者候補は、カリスマ性もなければ、国民的英雄でもない
リクトマン教授は現時点で、2の「党の予備選で激しい戦いはない」、3の「現職の大統領が党の候補になる」が、バイデン氏に当てはまるとし、バイデン氏が勝利するには、あと6つの項目があてはまらなければならないと指摘した。しかし、その6つの項目は、現時点でいつ実現できるかは、全く見通せないと話す。
リクトマン教授はさらに、「国民の多くが懸念するバイデン氏の80歳を超える年齢」や「トランプ氏の刑事事件の行方」が双方に大きな打撃を及ぼすとも話し、13の項目に加え、候補者が抱える問題が、どのように選挙戦に影響を及ぼすのか、その分析の難しさを挙げた。その上で「アメリカメディアが伝える現時点の世論調査は、意味がない」と話す。
バイデン氏とトランプ氏 双方の特徴と利点
一方、バイデン氏とトランプ氏が対決することを想定した今回の大統領選の特徴として、バイデン氏は、「アメリカの制度と民主主義を尊重する伝統的な路線を守る候補だ。安全保障に関しては、集団的同盟、集団的安全保障を重視している」と評価した。
これに対し、トランプ氏は、「アメリカの民主主義や道徳、法の支配を含め、自分以外には敬意を払わないエゴでマニアックな存在」と指摘。「アメリカ第一主義を公言し、集団安全保障をあまり信じていない」と分析した。さらに「世界中で起こることにアメリカ人の運命が左右されると信じておらず、北朝鮮の金正恩総書記やロシアのプーチン大統領といった独裁者と親しくなろうとする傾向がある」としている。
一方、選挙を戦う上での有利な点として、バイデン氏については、「現職大統領で再選を狙うに足る確かな実績があること」と述べた。トランプ氏は、「2016年の大統領選で勝利した経験と極めて強力な支持基盤があること」を挙げた。
リクトマン教授は、「国内外の情勢は非常に流動的だ」と国民の感情がぶれやすい状況であることを説明し「世論調査や識者の意見に流されず、アメリカを統治するには、誰がふさわしいのか、全体像に目を向けるべきだ」と冷静な判断を有権者に呼びかけた。
一瞬で世界情勢が大きく変わる混迷した時代の中で、“長くて短い”大統領選挙が動き出している。
(FNNワシントン支局 千田淳一)