埼玉県蕨市の郵便局に拳銃を所持して人質をとって立てこもり、逮捕された鈴木常雄容疑者(86)は、この事件の直前には隣接する戸田市の総合病院の診察室に拳銃を撃ち込み、医師と患者にけがを負わせてバイクで逃走した。
この記事の画像(7枚)さらに自宅アパートから出火していて、自宅に火を付けたことも認めているという。
出火が確認されたのは午後1時頃で、それから1時間あまりのあいだに病院での発砲、郵便局での人質立てこもりという凶悪事件を相次いでおこしていた疑いがもたれている。
鈴木容疑者は約1年前にあった郵便局のバイクと自分のバイクの接触事故をめぐる対応に不満があり、発砲事件があった病院でも通院していたときの窓口対応に不満があったと供述している。また、自宅アパートの10月分の家賃を滞納していたこともわかった。
なぜ1年前のトラブルが今になって犯行に結びついたのか、なぜ自宅に放火したのか、詳しい動機の解明が待たれる。
増える高齢者が被害者・加害者となる事件
特殊詐欺事件の被害者の約8割が65歳以上の高齢者で、今年1月には東京・狛江市の住宅で90歳の女性が死亡した強盗殺人事件がおきるなど、高齢者は詐欺から強盗、殺人へと凶悪化する傾向にある犯行の標的となっている。
一方で、高齢者による犯罪も高齢化社会となる中で増加傾向にあり、警察庁によると平成元年(1989年)と令和元年(2019年)の30年間の推移を比べると、検挙人員全体の2.1%から22%に上昇した。
主な犯罪は万引きや暴行、傷害などで、万引きはほかの年齢層より多く、暴行も増加傾向にある。
また2018年から昨年までの5年間でみると、刑法犯全体の中で特に殺人や強盗、放火などで検挙された「凶悪犯」に占める高齢者の割合は、9~10%前後で推移している。
今年4月、青森県六戸町の住宅が全焼し、家族4人が死亡した事件では、5人目の遺体として出火場所とみられる玄関付近で見つかった近所に住む親族の92歳の男の犯行とわかり、警察は10月、殺人や放火などの疑いで容疑者死亡のまま書類送検した。
死亡したことで詳しい動機は分かっていないが、近所ではこの家族の悪口を言うのを聞いた人や、口癖のように「火をつけるぞ」と言うのを聞いた人もいた。
孤立と生活苦による拡大自殺
また21年12月には大阪市の心療内科のクリニックで、患者や院長ら26人が犠牲になった放火殺人がおきた。
患者だった61歳の男による犯行で、防犯カメラの映像などからクリニックの入り口にガソリンをまいて放火し、逃げようとする人を押し戻し、自ら炎の中に飛び込んでいた。また事件前には男の自宅から出火していた。
意識不明で入院した男はその後死亡したため、詳しい動機は分かっていないが、孤立や生活苦から他人を巻き込んだ「拡大自殺」を図ったとみられている。
警察では高齢者の犯罪防止の取組として、検挙歴のある高齢者の自宅を巡回連絡で訪ね、困りごとの相談に乗ったり、自治体など行政との連携を図ったりするなどしている。
事件を止める人がいない
警察庁で捜査1課理事官を務めた安田貴彦元警察大学校校長は、「重大事件の容疑者は相談相手がいない、思いとどまらせる家族がいないなど孤独や孤立を抱えていることが多く、高齢になればその状況は深まっていく。巡回連絡に加えてSNSなどデジタルの活用、また行政、町内会など地域がそれぞれの立場で人とのつながりを深めていくことが必要だ」と話す。
もちろん事件をおこす容疑者の動機や背景はそれぞれで、年齢だけが引き起こすものではなく、社会的な支援ですべてを防げるものではない。
ただ安倍元首相銃撃事件や鉄道での無差別刺傷事件、今回の立てこもり事件など思いもよらぬ形で、拳銃や刃物、ガソリンなどを使って人命を危険にさらす事件が増えていることは現実のこととして受け止めなければならない。
【執筆: フジテレビ解説委員室室長 青木良樹】