自民党の佐藤正久元外務副大臣は29日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、イスラエルとイスラム組織ハマスとの戦闘に関し、ハマス側がパレスチナ人の囚人と引き換えに人質解放に向けた準備を進めるとの意向を示す中でも、イスラエルによる地上侵攻は止められない、との考えを示した。

佐藤氏は「地上作戦がイスラエルの挙国一致内閣で決まり27日から始まった。その前の段階であれば(人質解放交渉で)いろいろやりとりはあったと思うが、もう地上作戦が始まった段階では(解放交渉は)大きな要素にはならない」と指摘。「若干条件闘争はあるかもしれないが、あくまでも作戦目的はハマスの軍事力、主要な要人と軍事インフラ、ロケット砲をつくる工場や弾薬を潰すのが目的」と述べ、空爆や地上作戦が止まることはない、との見方を示した。

現代イスラム研究センター理事長の宮田律氏は「イスラエルは建国以来人質をとられることは何回も経験してきた。日頃の軍事作戦で、人質奪還作戦と武装集団の殲滅作戦の両方を同時に進める訓練は行ってきた。いわば一挙両得的な作戦を考えているかもしれない」と述べた。

一方、保育器の中の乳幼児らが電気がないことで死の危険にさらされているなど、パレスチナ自治区ガザ地区が深刻な人道危機に陥っているにも関わらず、イスラエルが同地区への燃料の供給を認めないでいることに関し、佐藤氏はハマス戦闘員を地下のトンネルから地上に出し叩くためだと説明。「(イスラエルは)いま電気や燃料は絶対にハマスにやりたくない。電気と燃料がなければ地下施設は(換気ができず)炭酸ガスがたまって居られなくなるから」と解説した。

番組レギュラーコメンテーターの橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事)は「ハマスのトンネルを壊滅させる必要性は誰もが認めている」としつつ、イスラエルの自衛権の行使のあり方については「均衡性」という国際法上のルールを守るべきだと主張した。

これについて佐藤氏は「まったくその通り、同感だ。誰が考えてもあの空爆はやり過ぎだ」と応じた。同時に「(国際法の)ルールに基づく戦いというのを前面に出さないと、日本として『法の支配』とあれほど言っておきながら、北朝鮮、ウクライナ(戦争におけるロシア)、イスラエル、整合性は取れなくなる。そこは大事だ」と強調した。

以下、番組での主なやりとり。

佐藤正久氏(自民党元外務副大臣):
実際、イスラエルがもうすでに地上戦を始めている。ガザ領内に入って急襲して戻るという状況から、27日以降(ガザ領内に)入ってそのまま居続けて24時間ずっと攻撃し続けている。イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争は第二段階に入った」と(表明した)。まさに掃討戦が、大規模ではないが、ゆっくりと始まっている中で、なかなか「人道」という面を前面に出しにくい状況になっている。国際法というものを互いが自分に都合よく使っている。国際法は必要だ。だけど、場合によっては恐ろしい犯罪を正当化する道具になってしまう。人間の盾はやってはいけない。イスラエルは「なので、早めに逃げなさい」と言い、なかなか逃げないのは「ハマスが悪い。人間の盾にしている」と言う。人間の盾というものが行われれば、戦争法規も若干かわされるという国際法がある。双方がこういう状況の中で子どもの命を救うというのは二の次になっている状況がある。ここは国際社会が何らかの形で人道回廊、場合によっては海からの人道回廊を海軍を使ってやってもいいと思う。何らかの形での人道回廊的なものを(ガザ地区の)南部に作る(べきだ)。おそらく北部の方は大きな地上戦がこれからも継続されるから、そういうふうに意を用いることが大事だ。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
イスラエルが地上侵攻に向けていま空爆を中心に行っている。今後、地下トンネルをめぐる攻防になった場合にイスラエル側にも犠牲は出てくると思うが。

佐藤氏:
実際に2014年時は大きな犠牲が出ている。イスラエルはできるだけトンネルには入りたくない。人質がいなければ、一番簡単なのは海水をどんどん中に入れること。そうすれば弾薬は全部湿気ってしまうから。人質がいたらなかなかそれができない。ガスや煙を使う手もあるが、ナチスのこともあり、それもなかなかできない。できるだけ(トンネルに)入らず、向こうが出てきたところを叩くのが一番犠牲は少ない。そのかわり時間はかかる。今回の戦いは、包囲環をつくってどんどん狭めていくという戦いではなくて、少しずつ地歩を確保しながらトンネルから出てきた戦闘員を叩く、あるいは地歩を固めてトンネルがないかどうか調べながらゆっくり進む。大規模な地上戦闘というイメージとは違う戦いをやれば、犠牲は少なくできる。ただ、時間はかかる。だから(イスラエルとしては)いま電気や燃料は絶対にハマスにやりたくない。電気や燃料がなければ、地下施設は(換気ができず)炭酸ガスが溜まって居れなくなるから。ということもあり、トンネル戦は非常に長期戦を覚悟した戦いになると思う。

松山キャスター:
人質解放への交渉はイスラエルの地上侵攻作戦を止める要因にどれくらいなり得るのか。

佐藤氏:
現時点としてはかなり少ないと思っている。すでにこの交渉が失敗したから、地上作戦が挙国一致内閣で決まり、一昨日(27日)から始まったわけなので、その前の段階であれば、いろいろやりとりはあったと思うが、もう地上作戦が始まった段階では大きな要素にならない。若干条件闘争はあるかもしれないが、これがあるから地上作戦をやめるということではない。あくまでも作戦目的はハマスの軍事力、主要な要人と軍事インフラ、ロケット砲をつくる工場や弾薬庫を潰すのが目的だろう。特にイスラエルにはトラウマがある。以前、イスラエルの軍人1人とパレスチナ人囚人1,000人ぐらいとで交換したことがある。交換して釈放した人物の一人がヤヒヤ・シンワル氏、今のガザ地区のハマス指導者だ。解放した結果、ハマスが今回こういう大規模攻撃をしたというトラウマがあるので、そんなに簡単に今回人質があるから地上作戦を止める、手加減するということは二の次だと思う。

松山キャスター:
人質の多くは地下に巡らされたトンネル内にいるという状況があるようだということを考えると、イスラエルの地上作戦はなかなか厳しい状況に置かれることもあると思うが。

宮田律氏(現代イスラム研究センター理事長):
イスラエルは建国以来人質をとられることはもう何回も経験している。だから、日頃の軍事作戦の中で人質奪還作戦と、武装集団の殲滅作戦両方を同時進行的に行うような訓練は行ってきた。今回もいわば一挙両得的な作戦を考えているのかもしれない。

松山キャスター:
佐藤さんの話だと、地上侵攻と言っても、一斉にワーッと行くという感じではなく、徐々に徐々に地上作戦が進んで行くようだ。地上作戦が進めば進むほど民間人の犠牲への懸念も強まる。

橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事):
ハマスは完全にパレスチナ住民を盾に使っている。でも、盾に使っているからといって、その人間の盾を全部打ち壊して攻撃していいのかというと、それは違う。第二次世界大戦以前のいろんな悲惨な戦争の経験を踏まえて、国際社会が一定の慣習上の合意を形成してきた。(イスラエルの自衛権として)ハマスのトンネルを壊滅させる必要性は、もう誰もが認めている。必要性はあるのだけど、でも、その攻撃、反撃、自衛権の行使については、相手の武力、相手からやられたことと均衡性の取れる武力行使、均衡性の取れる反撃行為にしておきましょうと。もしこれを必要性の名のもとに崩してしまえば、例えば、ロシアがいまウクライナに侵攻していることも、彼らは自分たちの自衛権だと言っているわけだ。ウクライナの東部地方では、ロシアに帰属したいという人たちもいて、その人たちを守るためにプーチン大統領は自衛権を行使していると言っている。でも、我々は「それは違うだろう。それは侵略だろう」と言う。ロシアの侵攻を止めないと、今度は中国が台湾に自分たちの理由、事情により台湾を侵攻してくるかもわからない。それぞれの国の勝手な理由を排除して、きちんと国際社会で合意されたルールを守っていきましょうということで、いま一生懸命、ロシアに対しても、中国に対しても言っている中で、「中東の現実だから仕方ないよね」とは絶対言ってはいけない。そう言った瞬間に第二次世界大戦以前の弱肉強食、力による現状変更を認めるような野蛮な世界にもう一回戻りかねない。必要性は認めるのだけど、やり方については、空爆とか、やらなければいけないかもわからないけど、(市民に犠牲が出ないようにピンポイントに標的を)絞るやり方や、市民を避難させてからやるということを徹底するよう国際社会は言っていかなければいけないと思う。

佐藤氏:
全くその通りで同感だ。テロに対しても一定程度自衛権はある。でも、やはりルールがある。必要性と均衡性は非常に大事だ。ただ、残念ながらこれに定量的なものはなくて、定性的なものだ。そこが非常に難しい。イスラエルの立場には賛同しない。「人間の盾として使っているのはハマスなんだ」、「我々は南に移動するようにもう勧告をした」、「勧告して残った人間はすべてハマスだ」、「だから、そこはやってもいいんだ」みたいな極端な理屈だ。自分たちがやられた犠牲の名のもとに相当叩く。誰が考えてもあの空爆はやりすぎだ。これから地上戦でゆっくりやるのだったら、もう少しやり方があるはずだ。徐々に徐々に本当に長期戦でやるのであれば、南部に一旦避難した人たちのケアは、国際社会がやるにしても、その条件をつくるのはイスラエルの仕事だ。

安保理で日本はいま非常任理事国のメンバーだ。常任理事国がなかなか決議案をつくれないのであれば、非常任理事国10カ国がやる。いま集まって決議案を作ろうということになっている。やはりルールに基づく戦いというのを前面に出さないと、日本として「法の支配」とあれほど言っておきながら、北朝鮮、ウクライナ(戦争でのロシア)、イスラエル、整合性が取れなくなる。そこは大事だ。

橋下氏:
簡単に「中東の現実を」というのを日本社会においては絶対言ってはいけない。これから防衛力を強化し、強大な武器を政治に与える以上は、日本社会で積み上げられてきた、この自衛権の行使についてのルールだけは絶対に現実で歪めてはいけない、ということは言い続けなければいけない。

佐藤氏:
本来、日本としてはそうだ。

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