イスラエル軍はガザの北部で、これまでで最大の地上作戦を行ったと発表した。
今回の作戦は、なかなか地上侵攻が始まらないことに疑問を抱いているイスラエル国民や、国防省や軍に対してのガス抜きのようにも思われる。
一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、6547人が死亡。世界中で人道危機を懸念する声が上がっている。

これまでで最大の地上作戦を行う

イスラエル軍は、イスラム組織ハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザの北部で、これまでで最大の地上作戦を行ったと発表した。

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イスラエル軍が公開した動画では、戦車がガザ地区との境にある柵を壊した上で、内部に侵入していった。
戦車は映像で確認できるだけでも、10台以上が隊列を組んでいて、砲撃をしながら進んでいった。

26日、イスラエル軍は次の段階に向けた準備の一環として、戦車を使った地上作戦を行い、ハマスのインフラや拠点のほか、対戦車ミサイルの発射基地を破壊したとしている。
イスラエル軍の兵士が「司令官だ。100%の出来だ。よくやった」と、無線で伝えた。
今回の作戦は、規模としてこれまでで最大のものとなる。

一方で、作戦終了後、イスラエル軍はガザ地区を離れ、イスラエル領内に戻ったという。
そのため、あくまでも次の段階の準備のための、限定的な作戦とみられる。

イスラエル軍が限定的ではありながら、これまでで最大規模の地上作戦を行った狙いはどこにあるのだろうか。
イスラエルのテルアビブにいる、加藤記者がお伝えする。

イスラエルメディアによると、軍は数日前から大規模な地上侵攻をする前に、限定的な地上作戦を何回も行う方針を固めたという話もあり、今回の攻撃がその一環だったのでは、という話も出ている。
一方、地上侵攻を巡って、イスラエルの国民の多くは、ハマスのせん滅を目指す政府を支持しており、軍による地上侵攻への期待も大きいのは事実だ。
しかし、なかなか始まらない現状に疑問を抱いている。

また、イスラエル軍や国防省も、1週間以上前から地上侵攻の準備が整っているにもかかわらず、実行できていないことに不満をもっているとみられる。
そのため、ネタニヤフ首相に青信号、つまりGOサインを待っていると話していた。
なかなか地上侵攻を決断しない首相に、明らかに決断するように迫っている形だ。

そこで今回、戦車を使ったこれまでで最大規模の地上作戦を行い、限定的ではあるもののハマスの拠点を直接攻撃したことは、国民のガス抜きだけではなく、国防省や軍に対してのガス抜きのようにもみえる。
司令室の映像でも、イスラエル軍のヘブライ語のSNSには載っているものの、英語のSNSには掲載されておらず、あくまでも国内向け、ということなのかもしれない。

まだ大規模な地上侵攻には至らず

ここからは立石氏がお伝えする。

イスラエルが「これまでで最大の地上作戦」を行ったということだが、これまでもイスラエル軍は限定的に部隊がガザ地区に入ってきた。
しかし、今回はそれよりも少し大きい部隊だった。
現在、一時的な戦闘停止なども議論される中、ガザ地区周辺で待機している部隊の士気を維持するなどの狙いもある。
あくまで地上侵攻ではなく、大規模作戦に向けた事前の動きということだ。

こうした動きに先立って、アメリカのバイデン大統領は、日本時間26日朝の会見で、「人質が地上侵攻の前に安全に解放される可能性があるならば、『人質解放を優先するべきだ』」と発言した。
そして、イスラエルに自衛する権利があるとした上で、これ以上、民間人の被害が拡大しないよう「全力を尽くすべき」と要望した。
こうした発言は、地上侵攻を含めたイスラエルの判断にどう影響するのだろうか。

バイデン大統領は、イスラエルを支援する姿勢は崩していないが、バイデン大統領はガザ地区の人道状況の改善や人質解放の必要性を、これまでより踏み込んだ形で話している。

バイデン大統領と電話会談をした、イスラエルのネタニヤフ首相は、イスラエル軍のガザ地区への地上侵攻について「我々は準備している」としながらも、「いつ始めるかなど詳細は言えない」と話した。
ネタニヤフ首相のこの発言は、これまでと少し変化があるようにも感じられる。
7日のハマスのテロ直後は、すぐにでも地上侵攻があるのでは、という観測も飛び交うような状況だったが、現在このトーンが少し変わってきている。

バイデン大統領は否定しているが、アメリカのウォールストリート・ジャーナルは、アメリカとイスラエルの政府当局者の話として、「イスラエルがアメリカからの要請に応じて、地上侵攻を遅らせることで合意した」などとも報じている。
ハマスのテロ攻撃から20日になろうとしているが、さまざまな交渉が行われ、大規模な地上侵攻には至っていない。

一方で、イスラエルによるガザ地区への空爆は続き、パレスチナ保健当局によると、6547人が死亡し、避難先と指定された南部地域での死者数が65%を占めている。

世界中で人道危機を懸念する声が上がる

ガザ地区の状況が悪化の一途をたどる中で、外交や政治レベルとは異なる重要人物からも、衝突と人道危機を懸念する声が上がり、世界の注目を集めている。

22日、バチカン市国で行われた、ローマ教皇フランシスコの水曜の定例謁見。
多くの人々が集まる中、ローマ教皇・フランシスコは「私は常にパレスチナとイスラエルの悲惨な状況について考えている」と今の状況を憂慮し、ハマスにとらわれた人質解放と、ガザ地区の市民への援助物資の搬入を訴えた。

また、ローマ教皇・フランシスコは、日曜に行われた定例の正午の祈りで、このように話した。
「戦争は常に敗北です。それは人類の友愛の破壊だ。きょうだいたち、戦争はやめましょう。やめましょう」

ヨーロッパはこれまで、イスラエルやユダヤ人に連帯を示してきた印象があるが、教皇の発言は、そういった地域にも影響力があるのだろうか。
フランシスコ教皇は、前の教皇ベネディクト16世に比べ庶民的で革新的であり、カトリック教徒から絶大な人気がある。
カトリック教徒が多くいるヨーロッパなど、西側の市民の世論形成に強い影響力がある。

イスラエルの隣国、ヨルダンのラーニア王妃の発言も世界的なニュースになっている。
ラーニア王妃はアメリカCNNの番組に出演し、「パレスチナ人であってもイスラエル人であっても、民間人の殺害を強く非難する。たとえ、イスラエルの同盟国でも、ただ支持するのでは何の役にも立たない」などと、停戦を要求しない西側諸国を批判した。

ヨルダン王妃の西側諸国批判には、どんな影響があるのだろうか。
ラーニア王妃は53歳だが、その華やかな外見などから、欧米のファッション誌などにも取り上げられる人物だ。「ユニセフ子どものための大使」でもある。

ヨルダンは重要なポジションで、アラブ世界の周辺諸国でイスラエルと外交関係があるのはエジプトとヨルダンのみだ。
そのため、キープレイヤーの国の1つともいえる。日本の上川外務大臣もヨルダン訪問を予定している。
王妃は政治家ではないが、アメリカメディアなども注目する人物であり、女性層も含めアラブ社会のみならず、欧米の世論形成にも影響を与えていると思われる。

「これまでで最大の地上作戦」もあり、地上戦開始も人道危機問題も予断を許さない状況が続いている。
(「イット!」 10月26日放送より)

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