イスラム組織ハマスは、新たにイスラエル人の高齢女性の人質2人を解放した。
ハマスとしては、人質を少しずつ解放することで、イスラエル軍による地上侵攻をけん制する狙いがあるとみられる。
しかし、イスラエルの閣僚は「人質を理由に地上攻撃遅らせる考えはない」としている。

ハマスが人質2人を解放

パレスチナ自治区のガザを実効支配するイスラム組織ハマスは、新たに人質2人を解放した。

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地元メディアなどによると、新たに解放されたのはイスラエル人の85歳と79歳の女性で、エジプトとカタールが仲介した。

ハマスが公開した映像では、戦闘員が2人に飲み物や食べ物を渡す様子などが見られ、人質を丁寧に扱っていることをアピールする狙いとみられる。

2人はガザ南部のラファ検問所からエジプト側に入り、24日、ヘリコプターでイスラエルのテルアビブに到着した。
女性2人のそれぞれの夫については、まだハマス側に拘束されているということだ。

ハマスとしては、人質を少しずつ解放することで、イスラエル軍による地上侵攻をけん制する狙いがあるとみられる。

最新情報をテルアビブにいる加藤記者がお伝えする。

イスラエルのメディアは解放された2人について、病院で家族と面会し、写真を撮るなど元気な様子を報じ、それぞれ「ハマスによくしてもらった」と話していると伝えた。
看護師は診察の結果、「健康状態は悪くはない」と話しているが、人質だった2週間は普段飲んでいる薬を飲めなかったこともあり、医師が詳しく検査する予定だ。

2人のうち、85歳の女性は拘束された当時の状況について、「ハマスは私をオートバイに乗せた。1人のテロリストが私を前から、もう1人が後ろから抱えて、私が倒れないようにした。フェンスを越えてガザ地区に入り、その後、私はどこに連れて行かれたのかわからない」と話している。

人質だった2人の家族は「安心した」と話す一方で、それぞれの夫はまだ人質に捕らわれていることもあり、「早く解放して欲しい」と訴えている。

この解放のニュースは、イスラエルでもトップニュースで報じられたが、手放しで喜ぶという感じではない。
ハマスが「地上侵攻をさせないようにするけん制」をしているとみられるほか、「ガザ地区への燃料の搬入」、そして「拘束しているハマスの戦闘員の釈放」など、今後見返りを求めてくることは確実なためだ。

イスラエル世論の大半は、「ハマスの提案に安易に応じるべきではない」となっており、イスラエル側は難しい舵取りを強いられている。

イスラエルは強硬な姿勢を崩していないということだが、相次ぐ人質の解放のウラで何が起こっているのか、立石氏とお伝えする。

人質が戦闘員に握手を求める

今回解放されたのは、イスラエル国籍の高齢女性2人だ。人質解放の瞬間の映像が公開された。
映像には、右手に銃を持ち、頭に緑色のバンダナを巻いているハマスの戦闘員が映っている。すぐ横に、高齢の女性2人を連れて歩いている。

23日、ハマス側は、85歳のヨチェベドさんと79歳のヌリットさんを解放。赤十字国際委員会を通じてイスラエル側へ引き渡された。解放後、2人は救急隊員によって救急車へ運ばれ、健康状態の確認などが行われていた。

そして、ハマスがSNSで解放前の2人の人質の姿を公開している。
そこには、ハマスの戦闘員が高齢の人質に対し、お菓子のようなものを手渡ししている様子や飲み物を振る舞っている様子などが収められていた。
さらに、引き渡しの瞬間、高齢の人質がハマスの戦闘員に握手を求めるという、にわかに信じられない行動も見られた。

この映像はハマスが公開したもので、演出が含まれている可能性もあるため、注意深く見る必要がある。
イスラエルは、これらはハマスの「プロパガンダ」、意図した宣伝にすぎないと強く批判している。
ハマスは「人道上と健康上の理由から、2人を解放することを決定した」と主張している。
先日解放されたアメリカ人親子を含め、ハマスは女性や高齢者の解放を優先している状況だ。

しかし、この2人の夫はまだ人質のままとなっている。
いまだにハマスに人質としてとらわれている人は、200人を超えている。

ロイター通信などによると、人質には、今回解放されたヨチェベドさんとヌリットさんのような60代以上の高齢者が20人ほど、10代以下の若者と子供が30人ほどいるとのことだ。

2人の解放は喜ばしいことだが、ハマスが人質の人たちを交渉の材料、人間の盾として扱っている現状には変わりない。
高齢者や子供も多く、一刻も早い全員の無事の解放と救出が求められている。

ハマスとの交渉が続く

一方で、人質解放をめぐっては、水面下での交渉の一部も徐々に見えてきた。

アメリカのウォールストリートジャーナルは、交渉に詳しい当局者の話として「ハマスがガザ地区への燃料の搬入と引き換えに、50人の人質解放を要求してきた」と報じた。
これに対して、イスラエル側は「燃料を提供する前に、人質全員の解放を求める」として、交渉は一旦頓挫した、と伝えている。
この交渉はハマスとイスラエル、そして、エジプトとカタールで行われたとのことだ。
イスラエル側は、燃料がハマス側に渡り、それがロケット弾に使われることを警戒して、今回の交渉を拒否した模様だ。

そんな中、アメリカのバイデン大統領が日本時間の24日の朝、人質の解放交渉について聞かれ、こう答えている。
記者団が「アメリカは、人質解放が条件の停戦を支持するか」と質問した。
すると、バイデン大統領は「停戦すべきだ…停戦ではない。まず人質を解放し、それから話し合いだ」と答えた。
バイデン大統領は、イスラム組織ハマスとの停戦交渉は、人質の解放が前提になるとの認識を示した。

バイデン政権はこれまでハマスに拘束された人質の「無条件の解放」を求めていたが、今回「停戦交渉の条件として…」に変わっている。人質解放の優先順位が高まってきたということだろうか。

アメリカはイスラエルを支持しているが、まだ10人程度のアメリカ人の人質がいる。
彼らが無事解放されることがアメリカにとっては最優先課題であり、様々な交渉が行われていると思われる。

こうした交渉が地上戦の突入時期に影響するのだろうか。
イスラエルの閣僚は、「人質を理由に地上攻撃を遅らせる考えはない」としている。
ハマスの攻撃で、すでにイスラエルには多くの犠牲者が出ており、強硬姿勢を崩すわけにはいかない。地上戦にむけて、余談を許さない状況が依然として続いている。
(「イット!」 10月24日放送より)

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