不登校の生徒数やいじめの「重大事態」が過去最多となる中、千葉県市原市の中学校で昨年12月に起きたいじめの調査結果をめぐり、被害生徒の両親と市の調査委員会が対立している。
「調査委員会」とはどういった組織で、どのような調査を行うのか。また、「第三者委員会」との違いは何か。
いじめの「重大事態」の調査委員を務めた経験がある、レイ法律事務所の髙橋知典弁護士に話を聞いた。
身内もメンバーに入れる調査委員会
ーー調査委員会はどうやって立ち上がる?
いじめが深刻な場合に行われる「重大事態」の調査では、「調査委員会」または「第三者委員会」が設置され、調査にあたります。
調査委員会は、第三者でないメンバーでも調査に足りると判断した場合に設置されます。
そのため、学校に関わっている教育長や校長先生などが名を連ねることもあります。
一方、第三者委員会は、弁護士会から推薦を受けた弁護士や、医師会など公的な機関から依頼を受けた人が担当することが多く、学校関係者が含まれることはありません。
よって、調査委員会は第三者委員会に比べると、“身内で調査”をするといった特性を持っています。
ーー調査の手順は?
さまざまなやり方がありますが、生徒たちへのアンケートを実施し、学校の先生が行った過去の調査記録も全部ひっくり返して、再度確認するのが一般的なやり方です。
加えて、「重大事態」の調査では、生徒たちや当時の教員、場合によっては保護者も対象として聞き取りを行うこともあります。
しかし簡略化することが多く、例えば子供に聞き取りをすることで子たちの気持ちが乱れて、学校生活に支障をきたす場合には、生徒への聞き取りは見送りますし、保護者への調査も任意で行うものですので、保護者が断るとできません。
事実認定に必要な3つのポイント
調査の結果、事実であると認定するためには、通常「加害者・被害者双方の供述が一致」または、「被害者の訴えを裏付ける証拠」、もしくは「自白」の3つのポイントがあると髙橋弁護士は話す。
ーー聞き取りの注意点は?
聞き取り調査はかなり過去のことを探ることが多く、例えば、不登校の調査だと年間で30日ほど欠席があった場合に「重大事態」の調査に切り替えて対応します。
この場合、1~2か月以上前のことを聞くことになるので、子どもたちの記憶はあまり無いのが典型的なパターンです。
一方、加害者の子たちを調査しても、彼らは口を開かないことも多いので、周りにいた子どもたちの中で、「この子なら知っているだろう」という子に丁寧に記憶を掘り返しながら聞いていきます。そうすると、いろいろな情報が出てくることがあります。
ただ、そういう子を見つけることができなかったり、事前の打ち合わせの場に専門的な知識がある人がいなかったりすると、深いところまで聞き取りができず、せっかくその場にいた子どもに質問しても「僕は何も知りません」で終わってしまい、形だけの調査になってしまうことも実際に起きています。
また、日本のいじめ「重大事態」の調査の問題点は、基本的に「任意」で行うということです。
聞き取り調査に応じたくないと言われてしまうと、それで終わってしまう可能性があるのです。
特に加害者と疑われている子たちからすれば、調査の場で話すのは嫌だという子も多いので、結果的に聞き取りが十分できないまま、調査結果を出さなくてはいけないというケースが多々あります。
ーー調査結果の事実確認は「加害者、被害者“双方”の供述が一致」したもの、または「証拠」があるものに限って認定?
一般論として、双方の供述が一致しているもの、または、被害者の訴えを裏付ける資料があるものが事実として認定されます。これは民事裁判の基準に近いです。
双方の供述が一致している場合は、「これは信用して構わない」というのが民事裁判での運用になります。
また、裏付ける資料があるということは「証拠がある」ということなので、これも民事裁判では事実として扱って良いという水準になります。
更にもう1つ「自白」と言って、自分に不利益な供述をしている部分についても、一般的には信用して良いという取り扱いになることが多いです。これも民事の原則の1つです。嘘をつくメリットがないので、自白は真実であろうと認められます。
ただ、こういった処理は、裁判官やよっぽど優秀な人が時間をかけて、裁判の手続きの中で「書面」で全てやり取りをすればできますが、「重大事態」の調査の場合は「口頭」でのやり取りなので、どっちが何を言ったかがメモでしか確認できないため、「私はそれ言っていません」など、言った言わないみたいなことが頻繁に起きます。
学校制度全体の事案は第三者委員会へ
一方、学校の“常識”から疑わなくてはいけない問題の場合は、学校関係者ではない「第三者委員会」に調査を委ねる必要があると髙橋弁護士は指摘する。
ーー双方の主張が一致していない点はどう判断する?
事実関係について不明確なところがあった時は、基本的には調査委員会にその判断が委ねられます。
しかし調査委員会のメンバーは、もともと教育に携わっている人たちが加わる可能性があり、その人たちに曖昧な認定をされてしまうと、当然納得はできないわけです。
これを避けるための制度が、第三者委員会による調査です。
ーー調査委員会の報告書は誰に確認して公表に至る?
調査結果の内容を確認する手段は、調査委員会に任されてしまっているのが現状です。
例えば、私が対応した事件の中には、事前に中間報告を出す形で手続きを進めたケースがあります。
しかし多くの場合は、そういった申し入れや必要性を具体的に説明しないまま調査委員会に丸投げして、最終の報告書だけが突然ポンと目の前に出されて「これがあなたの報告書です」みたいな形で説明されることがあります。
裁判の場合は、細かく手続きが法律で決まっていますが、「重大事態」の調査の場合は決まっていませんので、調査を依頼した側はどういう配慮を受けたいかを説明しないと、結果だけを渡されるようなことになりかねません。
調査委員会の人たちが教育にもともと携わっているチームだと、被害者側、加害者側のどちらかに寄ろうという気持ちがなかったとしても、学校に寄った状態で調査が始まることがあります。
担任の先生と一部の教員だけの暴走によっていじめが起きてしまったのなら、調査委員会で十分かもしれませんが、学校の元々の“常識”から疑わなくてはいけない学校制度全体の事案の場合は、学校関係者ではない、第三者委員会に調査を委ねる必要があると考えます。