福島県で初めて線状降水帯が発生し、いわき市を中心に被害が発生してから1カ月。避難を続ける被災者も多く、元の生活を取り戻すまでにはまだまだ時間がかかる。そして、水が迫る中で命の危険も感じた被災者は、同じ場所に住み続けるかどうか頭を悩ませていた。
台風による大雨で甚大な被害
2023年9月8日、台風13号が福島県に初めて線状降水帯を発生させ、いわき市は猛烈な雨に見舞われた。

福島県のまとめによると、1人が死亡し住宅1800棟以上が被災、農林水産物の被害額は15億円以上で、河川や道路など土木施設の被害額は約40億円と、その被害は甚大。

「あの日がなかったら…」
川から溢れた水、そして行き場を失った水が住宅に流れ込み道路を覆った。
「あの日がなかったらなって、ついつい考えちゃう。普通に暮らせたのになって」
こう話すのは根本ゆう子さん。広い範囲が水に浸かった、いわき市内郷内町の自宅が被害を受けた。

死ぬかと思った”あの日”
近くの新川から溢れた水は、付近の一帯を飲みこみ、地面から2メートル・1階の半分の高さまで達した。根本さんは「2階にいました。川が氾濫して道路が川のように。生きた心地しなかった。物置の壁がバリバリってはがされちゃって、もう本当に死ぬかと思った」と当時の様子を語る。

震災の恐怖と不安が再び
被災した住宅や街の様子を見て根本さんが思い返すのは、自宅が「半壊」の被害を受けた東日本大震災。あの時味わった恐怖、そして二度と感じたくなかった今後への不安に再び襲われている。

大切な思い出も…
被災から20日ほどで庭先も片付いたが、大切な思い出も水に浸かった根本さん。26年前に他界した夫・陸男さんと二人三脚で営んでいた割烹料理店で、陸男さんが料理長として厨房に立ち、根本さんが接客を担当していた。

根本ゆう子さん:着物着て割烹着かけてやりたいと思って、着物いっぱい作って。そんな夢があったんですよね。でも、それももう…

大切な場所…でもここには住みたくない
陸男さんの祖父の代から受け継いできた店は、15年以上前に閉めたが「あの時の賑わいが、また戻ってくるかもしれない」と淡い期待を抱きながら、建物だけは残してきた。それでも…

「もう今後は。やっぱり、もうここには住みたくないって、子どもたちも言うし、私もそう思う。でも寂しいんですよ、やっぱり。慣れ親しんだ土地はね。寂しい気はしますけども、かと言って雨降るたびに心配して眠れなかったり、今までがそうだったから」

思い出が詰まった住み慣れた場所。だけど、不安はつきまとう。命の危険を感じた被災者は、難しい選択を迫られている。
(福島テレビ)