国会議員の公設秘書は、市議会議員だった…。この「秘書兼職問題」が浮上したのは9月18日のこと。それから1週間、与野党を巻き込みちょっとした騒動となった。
この騒動が向かった先は、最初に兼職問題が発覚した日本維新の会が、「得をした」ように見える展開だった。
“身を切る改革”のはずが…“税金の二重取り”
問題が最初に発覚したのは、維新・池下卓衆院議員だ。
この記事の画像(7枚)2021年の初当選後に公設秘書にした男性2人は、大阪府高槻市議だった。公設秘書の兼職は原則として認められていない。しかし「国会議員の秘書給与に関する法律」では、雇い主である国会議員が許可し、衆院議長に「兼職届」を提出すれば兼職は許可される。
池下氏の事務所はこの「兼職届」を提出していなかった。現在は、1人が秘書を辞め大阪府議に、1人は今年4月の市議選に出馬せず公設秘書のみとなり、兼職は解消している。
公設秘書の給与も市議報酬も税金から支払われていたことで、「税金の二重取り」との批判を招いた。「身を切る改革」を掲げてきた維新にとって痛手の事態だった。
「否定されるものではない」…強気の初動
維新の初期対応は、かなり強気だった。謝る対象を「兼職届の未提出」に絞ったのだ。
発覚当日、報道機関の求めに応じて出された藤田文武幹事長のコメントはこうだ。
維新・藤田文武幹事長 9月18日(コメント文):
「現況届、兼職届の提出について、事務的なミスや漏れがあったことについて池下事務所から報告があり、衆議院の指示のもと適切に対処するよう指導した。公設秘書の職務については、それぞれの仕事の実態やパフォーマンスで個別に判断されるべきであり、兼職自体はなんら否定されるものではない」
秘書の仕事は様々で、議員のかばんを持って四六時中そばにいるわけではない。日程調整や調べものなどのデスクワークや、議員の名代として、陳情を受けたり行事に顔を出したりも多い。また地方議員も365日議会にいるわけではない。秘書の能力によっては、巧みに時間を使って「兼職も可能」ではないか、という考え方だ。
しかし、秘書給与も議員報酬も、兼職だからといって給与の値引きはできない。どうしても体は1つだから「この仕事はできるけど、この仕事は無理」と言って分けてみたところで、給与は満額支払われる。
維新にとっては厳しい局面だった。しかし、この後、敵失に窮地を救われることになる。
自民・世耕氏が“勇み足”…維新の反撃
今年4月の統一地方選以降、上げ潮ムードだった維新の不祥事に、与野党幹部からの批判が相次いだ。
立憲民主党は「兼職届の不提出」に絞って維新の姿勢を批判。国民民主党や共産党は議員と秘書の兼職そのものを問題視し、「国民の理解が得られない」と、批判した。中でも厳しかったのは自民党だ。
自民・世耕弘成参院幹事長(9月19日):
「普通は考えられない。公設秘書はまさに国税で賄われている。そして市議会議員のお給料は、これまさに住民の税金で賄われている。2つの兼職っていうのは、道義的にまずあり得ないのではないか」
維新・藤田幹事長は翌日、党としても届け出の不備を謝罪した上で、世耕氏の指摘にはこう噛みついた。
維新・藤田文武幹事長(9月20日):
「世耕さんがおっしゃるように、地方議員との兼職について『あり得ない』と断じてしまうのは、私はちょっと乱暴じゃないかなと思う。逆に言うと、自民党に結構いると思うんですけど。それをお調べになった方がいいかと思う」
含みのある口ぶりで語った藤田幹事長。
衆議院事務局で公開されている「兼職届」を閲覧してみると、実は、自民党にも、兼職届けを出した上で、地方議員と兼職している秘書がいたことが判明した。逢沢一郎衆院議員と、松本尚衆院議員の公設秘書だ。それぞれ、香川県三豊市議と、千葉県酒々井町議と兼職していた。
「知っていてあの発言をしたのか?」。その夜、藤田幹事長に尋ねてみると、「知ってましたよ」と返答があった。不祥事で党内が混乱しているかと思いきや、情報収集の上での対応だった。
秘書も市議も経験…馬場代表の見解は
市議との両立を図りながら公設秘書にするというのは、物理的に可能なのか。
海部内閣(1989~1991年)の外相だった中山太郎氏の国会議員秘書を経験した後、堺市議を務めたこともある維新・馬場伸幸代表は、この問題に何を感じたのだろうか。
維新・馬場伸幸代表(9月21日):
「秘書にはいろんな役割がある。政策のことを考える役割なら兼職はできると思う。陳情を受けるとか、市議と同じようなことだから。でも(地元を離れて)東京で仕事をするのは無理だ」
「兼職させるという発想がよく分からない。僕の発想は逆で、議員を秘書にするのではなく、秘書を育てて議員にする。『自立して独立して頑張りなさい』と。自民党もほとんどそういうやり方だと思うが…」
馬場代表の考えは、「物理的にはできるかもしれないが、できない仕事も多くなる」というもの。それぞれの立場を経験した者ならではの違和感があるようだ。
一転“改革議論先導”をアピール…大阪の維新の顔”登場
藤田幹事長が「兼務は問題ない」との立場を示していたが、鶴の声が大阪から発せられた。吉村洋文共同代表だ。
維新・吉村洋文共同代表(9月19日):
「勤務の実態が分かりにくくなる。理解が得られない。国会議員の秘書が地方議員を兼職するのは、僕はやめるべきだと思う」
維新は、ここで「国会議員秘書と地方議員の兼職禁止」の明確化に舵を切る。藤田幹事長も会見で、吉村共同代表の方針に沿った党内規約の作成を表明した。
維新・藤田文武幹事長(9月20日):
「兼職の内容が地方議員であるということについては、あまりよろしくないのではないか。それを検討し内規(党内の規約)を作るなりして取り決めしましょうかというところまで、吉村さんと打ち合わせが終わっている。全く同じ見解の下で共同代表としての見解を述べられた。考え方としては非常に近しいというか、ほぼ同じだ」
この日、維新は全国会議員を対象に実態調査を開始し、2日後(22日)には調査を終えた。兼職についての実態調査を他党に先駆けて済ませることで、不祥事のダメージ回復を迅速に図った形だ。
さらにこの日、吉村共同代表は、維新が「法案を出す」と明言。藤田幹事長が、国会議員の秘書の待遇に関する法律の改正案を次期臨時国会の冒頭に提出すると発表した。
不祥事発覚から数日足らずで、維新は、改革の法案を先導するポジションに…。
「新たな提唱は吉村共同代表が行う」というスタイルは、これまでもコロナ対策などで何度も見られた手法だ。「国会の変なところを吉村さんが直してくれている」そんなイメージを狙ったのだろうか。改革に挑む「維新らしさ」を有権者に印象付けることも見据えた、戦略だった。
“不祥事の起点”が一転、国会改革の先導に
維新に続く形で、与野党各党からも「秘書の兼職」を解消すべきとの声が上がっている。自民党の茂木敏充幹事長は、党内調査をすでに始め、兼職を「なくしていく」としている。
自民・茂木敏充幹事長(9月21日):
「法律的に問題がないにしても、やはり見直してもらうことが望ましい。2人(注:逢沢一郎衆院議員・松本尚衆院議員)とも『早急に公設秘書を代える手続きを進めます』ということだった。ほかにそういう事案がないか、今確認をとっているところ。公設秘書を代えてもらうか、違う仕事をしているとしたら、その仕事を辞めてもらうということに、基本的にはなる」
野党第一党の立憲民主党の幹部は、「吉村さん頑張ってる、となりそうだ」と維新が先導する状態を苦々しく見つめ、「改革の旗手ではない、不祥事を消すためのパフォーマンスだ」と、変わり身の早さに冷ややかなホンネも覗かせた。
今のところ「秘書と地方議員の兼職禁止」の方針に、異論は出ておらず、次の臨時国会にむけ各党が一致しそうに見える。だが、前の通常国会で調査研究広報滞在費(旧・文通費)の改革が塩漬けにされた例もあり、油断はできない。この秘書兼職問題も、密かに塩漬けにしたがっている人はいるかも知れない。臨時国会は要注目だ。
【執筆:関西テレビ報道局東京駐在 鈴木祐輔】