日本でも人気の日本酒「獺祭」。その現地ブランド「獺祭Blue」が、9月25日にアメリカ・ニューヨークで販売が開始。現地に新たに建設された酒蔵で、現地の水を使用し、日本人スタッフと現地スタッフが共同で酒造りに励んでいる。
ニューヨークで作られた日本酒「獺祭Blue」
9月23日、ニューヨークの郊外で行われたセレモニーで振る舞われたのは、ニューヨークの地で作られたばかりの酒「獺祭Blue」。
この記事の画像(26枚)日本で人気の「獺祭」の現地ブランドだ。
「獺祭Blue」は、25日からニューヨークでの販売が始まった。
旭酒造・桜井博志会長:
この地で手間をかける酒造りを実現しながら、より素晴らしい物を発信していきたい。
約80億円かけて酒蔵を建設
8月、取材班はニューヨークにある「獺祭Blue」の酒蔵を訪ねた。
リポート:
こちらが新たに完成した酒蔵です。ごらんのように大きな建物ですが、こちらから全米に向けて「獺祭Blue」が製造されます。
「獺祭」の生みの親である旭酒造が約80億円かけて建設したこの酒蔵は、年間で最大14万ケースの生産が可能だという。
この日行われていたのは、種切(たねきり)という蒸した酒米に麹(こうじ)をまいていく作業。
日本から来たスタッフと現地採用したスタッフが、共同で作業していた。
現地スタッフ:
日本人スタッフたちはとても知識豊富で、我々に辛抱強く接してくれ、知識や情報を熱心に共有してくれる。
現地スタッフ:
もちろん楽しいしとても興味深いよ。 彼らのアプローチは、アメリカ人が慣れているものとは違う。
“現地の水で造ることに価値がある”
素直で意欲的だという現地スタッフたちに、経験豊富な日本のスタッフ。しかし、ニューヨークでの酒造りはこれまで通りとはいかないようだ。
ーーどんなところが難しい?
旭酒造・三浦史也さん:
環境が全然やっぱり違うので、全てです。やっぱりお酒造りもあんまり日本の経験通りにはいかない。
酒づくりに必要になるのが、大量の水だ。
ニューヨークの水は、カルシウムやマグネシウムなどを多く含む硬水で、日本の軟水と違い発酵が進みすぎるなどの難点があった。
9月6日、初めての瓶詰作業の日。
旭酒造・桜井博志会長:
これやったらいけると思うけどね。これでずっとだと困る。これだと“大谷(翔平)”ではない。
大谷翔平の名前に例え、まだその域には届いていないと話す桜井会長。
それでも、現地の水にこだわる理由を桜井会長はこう語っていた。
旭酒造・桜井博志会長:
科学的に日本の水をここでいくら作っても、アメリカで酒を造る意味がないだろうと。ニューヨークの水をそのまま使わせてもらっている。
酒づくりで大量に使う水は、その土地のものを使うのが一般的。ニューヨークの水を使ってこそ、「獺祭Blue」を作る意味があると考えたのだ。
「いつも通り素晴らしい味だった」
そして迎えた「獺祭Blue」お披露目会。
お客さんたちの反応は上々だった。
「日本の主力商品と比べると少し甘みが残っているような気がします。でも、獺祭に期待した通り、いつも通り素晴らしい味だったよ」
「酒は米国で、次の大きなアルコール飲料として爆発的に普及する可能性を秘めていると考えている」
2020年の国税調査によると、アメリカのアルコール市場において、日本酒の消費割合はわずか0.2%。
「獺祭Blue」は、日本のSAKEをメジャーな存在へと押し上げるカギになることを目指す。
旭酒造・桜井一宏社長:
日本酒はまだまだ可能性があると思っているし、もっと一般に日本食以外の場所でもお酒を飲む未来がいつか来ると思っている。
その、いつか来るのを少しでも早くたぐりよせるために、私たちは酒蔵を作ったと思っているし、そこをお手伝いしていきたい。
日本酒の海外輸出は13年連続前年超え
「Live News α」では、一橋ビジネススクール教授の鈴木智子さんに話を聞いた。
海老原優香 キャスター:
ニューヨークで造られるお酒、飲んでみたいですよね。
一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
いま、多くの日本酒メーカーが成長を求めてグローバルマーケットに挑戦しています。日本酒の国内出荷量は、昭和48年のピーク時と比べて約4分の1に減少しています。
一方、海外への輸出は13年連続で前の年を上回り、2022年度は金額・出荷量ともに過去最高となっています。
今回の試みは、日本酒のグローバル化が、海外輸出から現地生産へと第2ステージに入ったことを象徴しています。
言葉を換えて言うなら、海外での「酒造り」こそ、世界市場を攻略する鍵なのです。
海老原優香 キャスター:
それは、どういうことなんでしょう。
一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
例えば、世界中で愛されているワインはフランスやイタリアなどのヨーロッパに限らず、カリフォルニアやチリ、もちろん日本でも造られています。
ワインの生産地が世界中に広がり、互いに競い合うことで地域ごとに味の特徴が生まれ、選ぶ楽しみが増え、それが市場の拡大へとつながったのです。
弟子が師匠を超えていくことを意味する「青は藍より出でて、藍より青し」という言葉があります。
今回の「獺祭Blue」のブルーは、日本で造られるオリジナルの獺祭を超えるという思いが込められています。
日本とアメリカ、それぞれで造る獺祭が切磋琢磨することで、成長を図ろうとするのは、企業の自己変革という点でも注目に値します。
“酒蔵はファンづくりに効果的”
海老原優香 キャスター:
海外にある酒蔵が、地元の方たちに親しまれるといいですよね。
一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
海外で酒蔵が増えることは、その味に触れる機会を提供するとともにファンづくりの拠点にもなります。
例えば、試し飲みできるタップルームに加えて、造り手の顔が見えてお酒造りのプロセスがわかる見学コースを設ける。
そして、酒文化のストーリー解説やどんな食事と合わせるといいのか、美味しいマリアージュの提案があると、現地でSAKEを一緒に育ててくれる顧客の獲得にもつながると思います。
海老原優香 キャスター:
日本酒、お酒という日本を代表する食文化が、次の世代に受け継がれていくためにも、世界中で作り手と消費者が広がることを期待したいです。
(「Live News α」9月25日放送分より)