残暑厳しい日が続くが、もうすぐ実りの秋がやって来る。キャンプや紅葉狩り、宮城県でいえば河川敷での芋煮会といったレジャーを心待ちにしている人も多いのではないだろうか。そんな中懸念されるのが、今年相次いで目撃されている「クマ」による被害だ。専門家に話を聞くと、人への警戒心が薄い「ある」クマが増加しているという。

この記事の画像(7枚)

クマ目撃大幅増…人身被害も

9月某日、宮城県仙台市で、住宅地にクマが出没した際の対応訓練が行われた。この訓練は、近年、住宅街に出没するクマが増加していることを背景に、仙台市、警察、猟友会が合同で行ったもの。初の試みだ。

仙台市、警察、猟友会が合同で行った クマ対応訓練
仙台市、警察、猟友会が合同で行った クマ対応訓練

訓練では、集会所を民家に見立てた住宅街にクマが出没したという想定で実施。クマに扮した警察官を発見するところから始まる。

通報を受け警察が駆けつけ、そこに市の職員や猟友会メンバーが合流。住民の安全を考慮した捕獲方法を話し合う。猟銃を使用してクマを捕獲すること、全体の流れを確認した。

宮城県によると、県内で2023年4月から8月末までに寄せられたクマの目撃情報は486件。去年の同じ時期と比べて67件も増えていて、人身被害も2件発生している。

6月10日、山形県との県境にほど近い鳴子温泉の山で、農作業中の男性がクマに襲われ足にけが。そのわずか1週間後には、仙台市中心部から車で北に1時間ほどの加美町で、野鳥観察をしていた男性が顔などをひっかかれ、病院に搬送された。いずれも命に別条はなかった。

都市近郊生息型「アーバンベア」

なぜ、これほどまでにクマの目撃情報が増えているのか。野生動物の生態に詳しい専門家は「正確な説明は難しい」としたうえで、複数の可能性を指摘する。

森林総合研究所 岡輝樹さん
森林総合研究所 岡輝樹さん

個体数が増えて生息地が広がっている可能性や、都市の近郊域で生い茂った草木が放置されることで、市街地との境界があいまいになっているケースが非常に多いこと。都市近郊の農地やゴミ置き場がエサ場としてクマに覚えられてしまったということも可能性として挙げられます。
(森林総合研究所 岡輝樹さん)

一般的に臆病だとされるクマ。人の姿を見つけるとクマの方から身を隠すのが普通だというが、最近増えている「あるクマ」はそういった行動をとらない可能性があると、岡さんは指摘する。

「日頃から市街地に近いところで暮らしていて、エサを取りに動いたら街中に出てしまうクマがいる。これはいわゆる『アーバンベア』と呼ばれるクマ。都市近郊生息型と呼ばれるもので、人の気配を感じても立ち去らない可能性がある。一心不乱に食べ物を探すことになるので、すぐ近くで人を見つけた場合、自分を攻撃してくるほかの動物だと思って、クマも必死になると思います。クマは鋭い爪もあるし力も強い」
(森林総合研究所 岡輝樹さん)

2022年9月仙台市青葉区落合で捕獲されたクマ
2022年9月仙台市青葉区落合で捕獲されたクマ

ブナ大凶作 山のクマも人里へ

さらに、今年はクマの主な食料とされるブナの実について、宮城県を含む東北5県は「大凶作」とされている。東北森林管理局が4月下旬以降行った調査では、青森、岩手、宮城、秋田、山形の5県の国有林内の計139カ所でブナの花の開花状況を調べたところ、木全体に花が付いていたのは青森、秋田、山形県内の3カ所のみ。5県の103カ所はまったく咲いていなかったという。結実予測は、5県とも4段階でもっとも低い「大凶作」となった。

ブナの実 提供:東北森林管理局
ブナの実 提供:東北森林管理局

結実が5県とも大凶作となれば、2019年以来だ。実際、岡さんのもとにも「ブナの実成りが悪い」という情報が入ってきて、「アーバンベアではない、山のクマの動きも活発になり、都市地域に出没する可能性も大いにある」と指摘する。

これからの季節、冬ごもりにはいるクマは準備に必死。山から出てきたクマか、アーバンベアかは区別がつかないが、いずれにせよクマの出没は多くなる可能性がある。冬ごもりはクマに取って非常に過酷で、この間一切何も食べないし飲まない。体に蓄えた脂肪だけで冬を越さなければならない。そのために、どんどんエサを食べて太る必要がある。もし出くわしてしまったら、首の後ろに手をまわして後頭部を守りながらうつぶせになるのが一番無難です。
(森林総合研究所 岡輝樹さん)

普段見慣れないクマを見かければ、誰しもがパニックに陥るだろう。冬眠を前にクマの行動が活発になるこれからの時期。「もしもの事態」に備え、対応を話し合ってみてはいかがだろうか。

(仙台放送)

仙台放送
仙台放送

宮城の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。