91の罪状 4回の起訴にも負けず?

米議会占拠事件への関与や2020年大統領選挙の妨害など91の罪状で4回にわたって起訴されながらも再選を目指すドナルド・トランプ前大統領に、新たに合衆国憲法という大きな壁が立ちはだかってきた。

トランプ氏が「X」に掲載したマグショット(逮捕写真)
トランプ氏が「X」に掲載したマグショット(逮捕写真)
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「ほとんどの法学者は、合衆国憲法修正14条が2024年の大統領選挙において法的根拠や立場を持たないとの意見を表明している。(先の)選挙干渉のように、これは急進左派共産主義者、マルクス主義者、ファシストによって使われるもう一つの「トリック」だ。彼らの候補者で、アメリカ史上最悪で最も無能、最も腐敗した大統領では、自由で公平な選挙で勝つことができないからだ。アメリカを再び偉大にしよう!」

トランプ前大統領は4日(現地時間)、SNSトルース・ソシアルにこう投稿した。

トランプ氏の投稿
トランプ氏の投稿

毎度のこととはいえ、反対派に対する激しい罵詈雑言は逆に前大統領がこの問題に強い危機感を抱いていることをうかがわせる。

立ちふさがる合衆国憲法の壁

それも、合衆国憲法修正14条の3項にはこうあるからだ。

「連邦議会の議員、合衆国の公務員、州議会の議員、または州の執行部もしくは司法部の官職にある者として、合衆国憲法を支持する旨の宣誓をしながら、その後合衆国に対する暴動または反乱に加わり、または合衆国の敵に援助もしくは便宜を与えた者は、連邦議会の上院および下院の議員、大統領および副大統領の選挙人、文官、武官を問わず合衆国または各州の官職に就くことはできない。但し、連邦議会は、各々の院の3分の2の投票によって、かかる資格障害を除去することができる」(アメリカンセンター訳)

この修正条項、南北戦争の後、南部の反乱に加わった者を公職から追放する目的で1866年に制定されたもので、南部連合のジェファソン・デイビス大統領や南軍の最高司令官ロバート・E・リー将軍らがこの条項を適用されて公民権を失った。

大統領就任式で宣誓するトランプ氏(2017年1月)
大統領就任式で宣誓するトランプ氏(2017年1月)

トランプ前大統領の場合だが、2017年の第1期目の就任式で聖書の上に手を置いて合衆国憲法を支持すると宣誓している。それでいながら、2020年の大統領選挙に負けると「選挙は盗まれた」と承認しないよう関係者に圧力をかけたり、さらに2021年1月6日にワシントンで抗議の集会を開き議会選挙を煽った罪で起訴された。

連邦議会襲撃事件(2021年1月)
連邦議会襲撃事件(2021年1月)

これが「合衆国に対する暴動または反乱に加わった」と解釈されれば、トランプ前大統領は「合衆国の官職に就くことはできない」ことになる。

民主党側だけでなく共和党の反トランプ派もこれに着目し、既にニューハンプシャー州とジョージア州それにミシガン州でトランプ前大統領を候補者名簿から除外する方向で検討が進められている。

「疑う余地はない」と憲法学者

この問題、トランプ前大統領の強弁に反して法学者の間では前大統領の公民権剥奪も可能だとする意見が目立つ。

例えば、シカゴ大学憲法研究所のウィリアム・ボード所長とセントトーマス法科大学のマイケル・ポールセン教授が「ペンシルベニア・ローレビュー」に共同寄稿した論文では「もし伝えられていることが事実であれば疑う余地はない。彼(トランプ前大統領)はすでに大統領職に就く資格を失っている」と断言している。

その一方で、やはり大統領選挙には不正があったと公言し議会選挙を煽ったとして公民権停止を訴えられていたマージョリー・テイラー・グリーン下院議員(共和党ジョージア州)は、合衆国憲法修正14条3項には抵触しないと今年5月、ジョージア州行政裁判所で判断されている。

「グリーン議員の発言は確かに過熱したものだったが『暴動や反乱に加わった』とまでは言えない」と判事は結論づけた。

裁判所の判断は…
裁判所の判断は…

トランプ前大統領の言動は、グリーン議員よりさらに過激直接的だったのでこの判断が影響するかどうかは不明だが、何を持って「合衆国に対する暴動や反乱」と判断するか議論の余地が残されているようだ。

また、フロリダ州で先月末、地元の弁護士が憲法修正14条3項違反を根拠にトランプ前大統領は来年の大統領選に出馬できないとする訴訟を起こしたが、連邦地裁判事は提訴者には当事者適格がないという理由で訴追を退け、150年余り前に制定されたこの法律には解釈が分かれる問題があることを示した。

そうした課題を抱えながらも、来年の大統領選ではこの憲法条項をめぐる論争が激化しそうだが、最終的には最高裁に判断を委ねることになると見られている。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。