ネットニュースや本などで読めない漢字と出会ったことはないだろうか?

そんなことがなくなるよう、社会に「ルビ(ふりがな)」を適切に増やす活動を続けている団体がある。それが一般財団法人の「ルビ財団」だ。

公式サイト(出典:ルビ財団)
公式サイト(出典:ルビ財団)
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「ルビ財団」は、出版物やデジタルコンテンツに「ルビ」を普及させることで、国語能力などの向上と、あらゆる人の暮らしやすい社会づくりに寄与することを目的に掲げ、今年5月24日に設立。

ルビを表示した状態(出典:ルビ財団)
ルビを表示した状態(出典:ルビ財団)

公式サイトを開くと、設立の目的やお知らせなどの漢字に赤い「ルビ」が振られた状態で表示され、ボタン一つで非表示にもできるようになっている。

ルビを消した状態(出典:ルビ財団)
ルビを消した状態(出典:ルビ財団)

「ルビ財団」を立ち上げたのは、金融大手のマネックスを創業し、現在は取締役会議長兼CEOを務める松本大(まつもと・おおき)さん。

松本さんは、子どもの頃に「ルビ」のある本をたくさん読んで視野を広げた経験から、もっと「ルビ」を増やしたいと思うようになり、その考えに共感したメンバーと財団の立ち上げに至ったという。

松本大さん(出典:ルビ財団)
松本大さん(出典:ルビ財団)

またサイトには「財団の活動について」として、ルビが増えて漢字が読めることが増えれば、子どもや外国人、読み書きに障害のある人だけでなく、大人も含めた多くの人にとっていろいろな可能性が広がるとしている。

現在「ルビ財団」では、推奨するルビの基準を出版社や著者に示し、ルビのある本作りを支援したり、ルビの必要性について啓発や広報活動を行っているという。

「ルビ」が減っている理由

松本さんは最近でも、美術館の解説などで読めない言葉を見ることがあり、理解するのに困るというが、同じような経験は誰にでもあるのではないだろうか。

そもそも「ルビ」は昔と比べて減っているのだろうか?「ルビ」が増えることで社会はどう変わるのだろうか?「ルビ財団」代表理事を務める伊藤豊さんに聞いた。

伊藤豊さん(出典:ルビ財団)
伊藤豊さん(出典:ルビ財団)

――昔と比べて「ルビ」は減っている?

まず、歴史的な経緯についてですが、明治・大正・昭和初期と戦前においては、新聞をはじめ多くの文書にルビがふられていました。難しい漢字もたくさん使われていましたし、読み方も音・訓さまざまな読み方が可能なのでルビが必須だったわけです。そこから比べるとルビは大きく減っているのが現状です。

1938年に作家で後に議員となり国語改革に影響を及ぼした山本有三が「ふりがな廃止論」をとなえたことをきっかけに、ふりがなが減り始め、戦後は新聞からもめっきりなくなりました。

この「ふりがな廃止論」の根底思想は、あまりにも難しい漢字が使われすぎているので、ふりがなを廃止すれば、読める漢字だけを使うようになるのでは?というものです。しかしその結果、一時期は使う漢字を制限する動きもありましたが、実態にそぐわず、使われる漢字は難しいものが多いまま、ふりがなだけがあまり使われなくなっていきます。

戦前にルビのおかげで漢字を覚えて知識を増やした経験のある世代が書き手となる場合には、意識的にルビが多くふられた作品もありました。(1997年発刊の「少年H」妹尾河童など)しかし、ルビに対して意識的な著者・編集者は減る傾向にあります。

さらにこの20年ちょっとでパソコンで文章を書く人が圧倒的に増えたこともあり、自分では読めないし書けない漢字も変換機能によって表記できてしまうため、本来はルビがあった方が良い単語にもルビがない状態で表記されているものが増えたと考えられます。


――各自治体や出版社が独自にルビを振っていると思うが、なぜルビの啓発をするの?

すでに自治体では「やさしい日本語」の導入など検討も含めされているところが多いようですが、まだまだ不十分なように感じます。

出版社については、児童書にはルビがふられていますが、一般向けの本にはルビが本当に少ないです。これは、十分に吟味がされているのなら仕方ないのですが、もっとルビが必要ではないか?という観点から検討さえもあまりされてないケースが多いと感じており、あらためてルビについて出版関係者(具体的には編集者や著者の皆さま)に働きかける活動をしたいと考えています。

すでに、一部の著者、編集者の方からは、ルビについてもっと意識的になろうと思ったというポジティブな反応をいただき始めています。

ルビの重要性を発信する準備中

――すべての漢字にルビが振られたら読みにくくなってしまうのでは?

よくいただくご指摘です。

たしかに読みにくい、うっとうしいと思われる方もいるかもしれません。ただ、これも慣れの問題も大きいかなとも思います。あと、総ルビの意図が伝わっていないために、「なんでこんなルビが振られているんだ!邪魔だ!」と反応する人も、漢字が読めない子どもや外国ルーツの人や識字障害のある人に対しての合理的な配慮であると理解していただければ、受け入れてくれる可能性も高いと考えています。

現実的には、いきなり総ルビにせずとも、人名や地名、常用外の漢字や読み間違いがされやすい漢字にはルビをふる意識が広がっていくと良いなと思っています。


――5月の設立から今までどんな活動をしてきた?

メディアに取り上げてもらったり、まずはこのテーマについて知ってもらうこと、そしてどういった反応があるのかを確認しています。その上で、歴史的な経緯などもリサーチしつつ、今この時代においてあらためてルビが必要であり、重要であるという論考を整理して発信する準備をしています。

財団のオウンドメディアを通して、社会的に影響力のある方々からルビについて語っていただく機会を増やしていきたいと考えています。並行して、ウェブサイトにルビをふる機能を開発するテクノロジーのプロジェクトも準備しています。

ルビは大人にとっても重要

――あらゆるものに「ルビ」が振られると、社会はどう変わっていく?

子どもが社会により関心を持つようになるでしょうし、興味関心をもったことをより探究しやすい社会になると思います。また、不登校だったりで漢字の学習に抜け落ちがあったり、ディスレクシア(識字障害)などで学習に何らかの困難を抱える人たちにとっても学びやすい環境が用意できるでしょう。

これからますます増えていくとされる外国にルーツがあり、日本で暮らす方々にとっても日本語を学びやすく暮らしやすくなると思います。

ルビは子どものためのものと思われることも多いですが、大人にとっても重要です。特にリスキリングの重要性が叫ばれている今、大人の学び直しや新しい分野を勉強する際にも、漢字が読みにくいことは学習の上でネックになる部分があります。ルビが広がることでリスキリングもしやすくなるはずです。

ルビが広がり、この漢字くらい読めるだろうと考える傲慢さやマウント意識がなくなれば、誰もが疎外を感じることなく暮らせる社会になるのではないでしょうか。


――ちなみに伊藤さんにも読めなかった言葉はある?

私の場合は、小説や新書なんかを読んでいても、読めない漢字に出会うことが多いです。例えば、私の手元の単語帳からいくつかピックアップすると、「嚆矢」「夙に」「毀誉褒貶相半ば」「焚書」「残滓」「渾名」「相好」「衒学」「平仄」などです。
(読み方の答えは記事の最後)

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

「ルビ財団」を立ち上げた松本さんは、インターネットに総ルビの図書館を作る構想や、自動的にルビが見えるルビ眼鏡など、様々な夢を持っているという。たしかにルビがもっと普及すれば、難読地名に困ったり、読み方を間違えて恥ずかしい思いをすることも減るのかもしれない。

※読み方の答え
嚆矢(こうし…「物事のはじめ」という意味)、夙に(つとに…「早くから」の意味)、 毀誉褒貶相半ば(きよほうへん…褒めたり悪口を言うこと。あいなかば…半分ずつ)、焚書(ふんしょ…書物を焼くこと)、残滓(ざんし…「残りかす」の意味)、渾名(あだな…ニックネーム)、相好(そうごう…表情のこと)、衒学(げんがく…知識をひけらかすこと)、平仄(ひょうそく…「物事の順序」「筋道」の意味)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。