中国電力が山口県上関町で建設を計画している「使用済み核燃料の中間貯蔵施設」の調査受け入れを表明した上関町の西町長。一部の住民から根強い反対意見がある中での決断。その背景には、深刻な“町の財政難”があった。
核燃料サイクルが確立しないまま…
瀬戸内海に面した山口県上関町。
風光明媚な小さな町で、今、町を二分するような議論が巻き起こっている。
中国電力は8月2日、原子力発電所の建設が計画されている上関町で、所有地の一部に使用済み核燃料の中間貯蔵施設の建設を検討すると発表。そのための調査実施を町に申し入れた。
今回、浮上した中間貯蔵施設の計画の背景には、原子力政策の柱となっている「核燃料サイクル」が影響している。核燃料サイクルとは、原子力発電所で使い終えた燃料から核分裂していないウランや新たに生まれたプルトニウムなどを回収し、再び原子力発電の燃料に使う仕組みだ。
使用済み核燃料について政府は再利用に取り組んでいるが、青森県の再処理工場の建設が大幅に遅れ、運転の見通しは立っていない。行き場のない使用済み核燃料を一時的に保管するための中間貯蔵施設。現在、青森県むつ市にある施設が国内唯一だ。
各電力会社は使用済み核燃料を原子力発電所の敷地内で保管しているが、その貯蔵率は日本全体で77％、中国電力で68％に上っていて、保管先の確保が急がれている。
そうした中で、全国で2例目の中間貯蔵施設の計画が動き出すことになった。
反対派が町長を取り囲み一時騒然
調査の受け入れで、上関町には最大で年1億4,000万円の交付金が国から入るとされている。
また、建設に同意すればさらに多額の交付金が入るとされている。
上関町・西哲夫 町長：
交付金と固定資産税が入れば、町の財政が大いに安定していくということは間違いない
建設計画中の上関原発をめぐっては、福島第1原発の事故以降、準備工事が中断。財政難に直面する町は中国電力に対して地域振興策を要望していた。
上関町が原発誘致を表明した約40年前に比べると、町の人口は6,526人（1985年）から2,310人（2023年8月1日時点）の約3分の1に減少。高齢化率は59％に及び、全国平均の約30％を大きく上回っている。
地元住民：
人口は減っているよ。もう止めようもないくらいね。だって働くところがないから、学校を卒業するとほとんどの人が外へ出ていく
中国電力の提案から2週間ほどで迎えた18日、町議会の臨時議会を前に、調査に反対する住民が上関町役場で抗議。
登庁した西哲夫町長が乗った車を住民が取り囲み、役場前は一時騒然となった。
反対住民：
町長、独断はいけません。町民みんなの声を聞いてください
賛否に揺れる中、調査準備始まる
予定通りに開会した臨時議会の冒頭。
上関町・西哲夫 町長：
持続可能なふるさと上関町を次世代につなげることが私の使命と強く思っております。中間貯蔵施設の調査を私としては受け入れる考えですが、議員の皆さまの意見をおうかがいし総合的に判断したい
これに対し、10人の議員全員が賛成・反対それぞれの立場から意見を述べた。
賛成派・古泉直紀 町議：
今後の上関町のことを考えれば、今回の提案は大変魅力あるものと考えます
反対派・清水康博 町議：
核燃料サイクルが確立されていないにもかかわらず、よそから核燃料を持ってくるということにかなりのリスクを感じます
臨時議会は採決を行わず閉会し、西町長は議員の意見を踏まえた上で調査を受け入れる方針を改めて示し、閉会後すぐに中国電力にFAXで回答した。
上関町・西哲夫 町長：
調査と建設は別物ですから、調査中の間でも十分住民に説明できます。建設に向かっておおかたの住民が「建設については反対です」と意見があれば、それは当然、私としては住民の民意を尊重する立場にあるわけですから、そういう回答になることは必然的なことだろうと思います
中国電力は1カ月程度の準備期間を経たうえで、早ければ2023年秋にも現地でのボーリング調査を始めるとしている。その準備の一環として、現地での森林伐採の届け出を21日付で上関町に提出した。
また、過去の資料などを調べる文献調査については町から回答があった18日からすでに取り掛かっているという。中国電力の担当者が現地を歩いて地層などを確認する調査も、今後実施する予定だ。
（テレビ新広島）
