世界情勢の変化で石油などの化石燃料が高騰する中、改めて再生可能エネルギーが注目されている。広島の山間地域で電力を補ってきた「小水力発電所」を巡って、ある老舗発電機メーカーの新たな挑戦を追った。

地域の電力と財源をうるおす

庄原市西城町三坂地区は山に囲まれた県北の町。この地区に小さな水力発電所が建設されたのは、今から56年前のこと。

山間にひっそりと佇む「永金発電所」
山間にひっそりと佇む「永金発電所」
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発電所の中に設置されているのは古びた鉄の装置。「小水力発電」と呼ばれる小規模な水力発電施設で、用水路を使って水槽に貯めた水を水圧鉄管で上から下へ流して発電する方式だ。

懐かしさ漂う年季の入った発電設備
懐かしさ漂う年季の入った発電設備

高度経済成長期に建設され、三坂地区の道後山高原スキー場の電力を賄い、地域の貴重な収入源になっていた。しかし2018年の西日本豪雨で被災。水を取り込む「取水口」に土砂が流れ込み、発電できなくなってしまったのだ。

西日本豪雨で被災した永金発電所の取水口
西日本豪雨で被災した永金発電所の取水口

修理するには多額の費用がかかるため、住民たちは途方に暮れていたという。

三坂住民の会 役員・堀井康夫さん:
直すか直さないか決断を迫られました。発電所が設立された当初、三坂地区には80戸あったんですが今は48戸しかない。みんなで借金するにもちょっと無理だな、どうしようかなという話をしていたんです

製造元が後を継ぎ、発電事業へ

そんな時、住民に救いの手を差し伸べたのが、年季の入った発電機に名前が刻まれている製造会社「イームル工業」だった。

発電設備の譲渡を受け、地域に親しまれた発電所を引き継いで再生させるというのだ。東広島市に本社を置くイームル工業は1947年創業の発電機器メーカー。

水力発電機器などを製造するイームル工業(東広島市)
水力発電機器などを製造するイームル工業(東広島市)

主に水力用発電機器の製造・販売を行ってきたが、今回、発電事業に乗り出すことを決めた。

イームル工業・山口克昌 社長:
非常にチャレンジングなことだとは思ったんですけども、創業者の思いに背中を押されたということもありまして

そのイームル工業の創業者、織田史郎。1928年アムステルダムオリンピックの陸上競技・三段跳の金メダリスト・織田幹雄の兄でもある。織田史郎は会社を創立すると、戦後、電力が不足する中国地方の農山村部で小水力発電所の建設に汗を流した。

小水力発電が「ベース電源の一つに」

創業の精神にのっとり発電事業に乗り出すことにした背景に、山口社長は小水力発電の秘めたる潜在能力を挙げる。

イームル工業・山口克昌 社長:
小水力発電の分野でも約400万キロワット、ピンとこないかもしれませんけども原発約4基分に相当するポテンシャルを日本国内に有しています。小水力発電はベース電源の一つに成り得ると思います

イームル工業・山口克昌 社長
イームル工業・山口克昌 社長

資源エネルギー庁の統計によると、2020年度、日本の総発電量に占める再生可能エネルギーの割合は太陽光発電などの普及で約20%。そのうち水力発電は7.8%にとどまっている。しかも大規模水力による発電が主で、小水力発電の割合は2%と低いのが現状だ。

再生可能エネルギーの中でも水力発電は太陽光や風力に比べて、年間を通じて安定した発電量が期待できるメリットがある。一方で、ダム建設には多額の初期費用がかかることがデメリット。しかし、小水力発電なら大規模な河川は必要なく、初期投資額も抑えられる。小川や農業用水でも発電可能なので環境への影響も少ない。

山間を流れる道後川が永金発電所の水源
山間を流れる道後川が永金発電所の水源

イームル工業・山口克昌 社長:
われわれは機器を製造するメーカーですし、これからの社会のためにできるコスト低減策をメーカーの努力として続けていかなくてはいけないと思います。簡便にできる工法を模索するためのモデルをいくつか作って、実現させていきたいという未来構想も持っています

小水力発電は燃料高騰に左右されない持続可能なエネルギー生産の一つ。地域で生産された電気を地域で消費する”地産地消”のスタイルが、小水力発電の普及につながるカギとなるかもしれない。

(テレビ新広島)