高知の人気の土産物のひとつ「塩ラスク」で知られる塩づくり職人・田野屋塩二郎さんの弟子夫婦が独立した。実は、職人として船出を果たした2人は、元公務員で埼玉から移住したという異色のカップルだ。

製塩施設の中は「あっつい!」

安田町の唐浜海岸近くに建てられたハウス。

太平洋の海水から天日塩を作る製塩施設となっている。

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完成したハウスの中に入った明神康喜記者。

中の気温の高さに「あっつい!」と何度も声を漏らした。

「あっつい!」と話す明神康喜記者
「あっつい!」と話す明神康喜記者

ハウスの主2人は元埼玉の市役所勤務

8月16日、この新しい製塩施設「結晶ハウス」の前でハウスの主となる2人が紹介された。

小坂英晃さんは「田野屋紫蘭」、小坂千里さんは「田野屋白兎」と命名された。

2人の職人の名付け親は、安田町の隣の田野町で塩職人として活躍する田野屋塩二郎さんだ。

田野屋塩二郎さん:
(ここ安田町にある)神峯神社に登るのが好きなんですけど、(参道の)両脇に紫蘭という花がきれいに春咲くんですよ。小坂くんが安田町で独立すると聞きまして、ぴったりの名前じゃないかと思って




元々、埼玉県の春日部市役所に勤めていたという2人。

夫の英晃さんは4年ほど前、偶然テレビで見た塩二郎さんの塩づくりに心を打たれ職人になることを決意。職場に辞表を出し、交際していた千里さんと籍を入れると2人連れだって高知に。塩二郎さんの門を叩いた。

英晃さん39歳、千里さん29歳の一大決心だった。

英晃さん:
完全天日塩。塩二郎さんの技術をもって塩づくりをしたいという思いがありましたので

千里さん:
最初聞いたときはなに言ってるんだろうと思ったんですけど、こんなに楽しい仕事があるんだと知りまして、このチャンスを逃すわけにはいかないと思って

2人ともに職人として自立

夫婦で地域おこし協力隊員として3年間、塩づくりの修行にまい進。職人の夫を妻が支えるのではなく、2人がともに職人として自立する道を選んだ。

英晃さん:
塩づくりは本当に手探りで。夫婦で毎日研究して塩づくりに励んでいたんですけども、暑いことをのぞけば本当にやりがいがある

公務員という安定した職を捨て、縁もゆかりもない高知で塩職人になりたいという2人に、師匠の塩二郎さんはとまどったと言う。

田野屋塩二郎さん:
僕が出てるバラエティ番組とか見て、簡単なんじゃないか、面白いんじゃないか、儲かるんじゃないか、という感じで来る人が多いんです。そういう人は、来て、「実際はこうですよ」と話をするともう来ないです。
彼らは公務員出身。“ザ・キッチリ”、スーツ着て「よろしくお願いします」と、ちゃんと挨拶できる。強引に籍入れて来ちゃったんで、「しょうがねーな」と言う感じでした。久々というか、初めての真面目な2人でしたね

雨にも対応 2人でハウス守り

2人とハウスの近くを歩いていると、入り口に土のうがー。

最近まとまって降った雨で水がたまり、床上浸水しそうになったため、急遽、深夜に2人で土のうを作ったのだという。

英晃さん:
手で掘り返しながら水路を掘っていった

妻の千里さんも水路を掘ってサポートし、2人でハウスを守った。

誰にも負けない「強い塩」作って!

汲み上げた海水から真っ白い塩の結晶が出来上がるまで約1カ月。塩づくりは自然の力を借りた地道な作業だ。

職人カップルの船出に地域の期待も膨らむ。

安田町・黒岩之浩町長は「安田町はお土産が弱くて。この塩を使ったお土産品ができることを期待している」と話す。

一方、2人の修行を見届けてきた田野屋塩二郎さんは…

田野屋塩二郎さん:
ちょっと危惧していることがありまして。(2人は)計算でものを考えるんですよ。役場出身というのもあるかもしれないけど。答えは何百、何千通りとある仕事なんで、その辺が変に出ちゃうと、決まった塩、カチッとした塩しかできないんじゃないか。その辺が彼らの課題。
最初からいろんな種類を作って、いっぺんに売り出そうとするとダメ。まずは誰にも負けない「強い塩」を一種類作ることに全力を2~3年は注いでほしい

2人への思いもひとしおだ。

英晃さん:
施設を作るにあたって安田町の皆さまには本当にご協力いただいた。塩づくりを頑張って、皆さんに恩返しできたらなと思っています

公務員を辞め埼玉から移住。

ともに職人として歩み始めた2人がどんな“結晶”を作り上げていくのか楽しみだ。

(高知さんさんテレビ)

高知さんさんテレビ
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