「経済」と「安全保障」はなぜつながるのか

「経済安全保障」近年この言葉が我が日本の国益を守るために重要な政策の一つとして注目を浴びている。「安全保障」といえば、ぱっと思い浮かぶのは自衛隊などの“実力組織”だろう。しかしこれからの時代にこの国を他国の“侵略”から守るにあたって、「経済」の「安全保障」の重要性が、日増しに大きくなっているのだ。

今回は、この「経済安全保障」とは具体的にどういうことなのかについて“ゼロベース”で取材し、専門性や網羅性以上に、あえて「わかりやすさ」に重きを置いて取り上げていきたい。

「ルール形成戦略議員連盟」自民党・甘利明会長

今回話を聞いたのは、自民党の甘利明・元経済再生相が会長を務める「ルール形成戦略議員連盟」の事務局長を務める中山展宏衆院議員だ。この議員連盟ではこれまで約3年間、中国によるアジアからヨーロッパにかけての覇権的とも言える経済圏構想「一帯一路」を受け、日本の立場での国際規格のルールづくりなど経済安全保障戦略の構築に取り組んできた。そして2020年4月に発足したNSS=国家安全保障局の経済班創設にも関わってきた。

「ルール形成戦略議員連盟」事務局長の中山展宏衆議院議員

新型コロナ対策にも経済安保?マスク不足と経済安保はつながっている

まず中山氏に、そもそも経済安全保障とはどんなものなのか聞いてみると、一例として今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴う“マスク不足”への対応に、経済安全保障の重要性が表れているという

「例えばマスクでさえ外交上の戦略的なツールになっています。私たちに必要な物資が十分に供給されない、これもサプライチェーン(供給網)のサプライの強靱化、従来きちんと届いていたものが供給できない状況にどう対応するかを考えなければなりません。この物資供給や物流経済を安定的にすることもまさに経済安全保障の観点です」

ではマスク不足に関して、経済安全保障の面からは具体的にどういった戦略が考えられるだろうか。中山氏は続けた。

「マスクの生産はこれまで中国にほぼ委ねてきました。これを国内生産に戻していくのか、それともある程度備蓄するのか、あるいは生産拠点を中国じゃないところに移動させるのか、いろんな考え方があると思います。まさにそれが経済安全保障の一つで、その中に、中国に生産拠点を置いて供給されていいもの、逆に中国へ供給していいもの、この仕分けをするのも経済安全保障の大きな役割だと思っています」

このように、経済がグローバル化する中で、有事においてもマスクなどの必要物資を安定的に確保できるようにし、間違っても他国に足元をみられることがないようにすることも、経済安全保障の意義の1つなのだという。

民間先行の先端技術めぐる国家間の覇権争いも

中山氏はさらに、経済安全保障の重要性が増している源泉として、「技術革新」のあり方に世界的な大変化があったことを指摘した。

「今まで私達の先端技術みたいなものは、軍事の需要から研究されてきました。例えばインターネットもそれに近いかもしれないし、国家や軍が中心になって育んできた研究成果物が民間に実装されていくっていうのが旧来でした。しかし今は逆に、中国でいうとやっぱりファーウェイとか、アリババなどの民間のイノベーションが大きく、中国でさえ国家の方が場合によっては後追いになっている現実があります」

つまり、技術革新の舞台が昔ながら安全保障の核である軍事の世界から、民間が主導する経済の世界に移り、そうした民間発の技術をめぐる覇権争いが世界の安全保障を左右するようになっているということだ。

「民間主導で、軍に使われるという逆の流れになってきているところにおいては、“民間のもの”それは先端技術であっても場合によっては一般生活用品、汎用品であっても、あらゆる手段を使って安全保障を目的とした経済行為に使われてしまうということになっていくのが今の懸念だと思います」

そして経済安全保障の道具は物資のみならず、私たちの個人情報を含むビッグデータなどにも広がっていて、こうしたデジタル情報を安全保障に利用する動きもあると中山氏は指摘する。

「特にこれだけ情報ネットワーク社会の中においては、ネット空間も私たちの日常で、そこで私達の個人情報、それはお金に関する情報や、消費者の様々な動向、最も機微な物で言えば私たちの医療データもそうです。私達の行動や思考、カラダ自体がデータになっているというところにおいては、安全保障においても、そのデータがどう使われるかということを念頭に政策を考えないといけません」

中山氏はその上で、経済大国である日本こそ、こうした民間の技術やビッグデータなどの経済的資源を安全保障面でも武器にすべきだと訴えた。

「日本は戦後、経済発展を第一にここまで来ました。だから経済力が実は日本にとって武器になる話だけれど、“安全保障と絡めないこと”が何か固定観念としてあって、そういうところを少し考え直した方がいいんじゃないか。その中で安全保障と経済が一緒になった政策を考えていかないといけないと思います」

経済安全保障の強化は、“価値観異なる”中国の覇権主義を念頭に

そしてマスク不足対策にしても、技術革新についても、経済安全保障を語る上で何度も出てきたのが「中国」の存在だ。経済安全保障において、中国が大きな要素を占めるのはどういった理由からなのか。中山氏はこう語る。

「政治体制が異なり、日本と“自由・民主主義・法の支配・人権”などの基本的な価値観の共有をまだできていない国による覇権的な動き、それがこの20年で経済力を背景に過激なスピードで見られるようになったこと、その経済力のパワーバランスの変化に追いつくということを日本はしないといけないからです」

中山氏は、日本が経済安全保障の観点でなすべきこととして、「安全保障に対する考え方を共有できる国や地域を広げていくことが大切で、それが国民の皆さんの安心に繋がるんだと思います」と語った。

「対中国」だけでなく「対韓国」も…問われる国際社会での日本の戦略

そして、経済安全保障を論じる上で、国際的にも東アジアの安全保障環境的にも、日本を脅かす可能性がある動きが韓国であった。6月24日に、韓国産業通商資源省のユ・ミョンヒ通商交渉本部長が、世界貿易機関(WTO)の事務局長選挙に立候補することを表明したのだ。

韓国産業通商資源省のユ・ミョンヒ通商交渉本部長

ユ氏はこれまで日本による韓国向け輸出管理の強化は不当だとして世界貿易機関(WTO)に提訴する手続きを主導してきた。もし仮に彼女が事務局長に就任した場合に「韓国による提訴」とその後の手続きにどのような影響が出るか予断を許さない。国際機関における人事の重要性が増していることが、経済安全保障に直結する案件で表面化した形だ。

“こんなところにも安全保障”。そんな風にも身近に思えるのが「経済安全保障」の世界だと感じる。各論では日本の先端技術の流出回避など、山積する重要課題への取り組みをどう強化するかが問われる一方、経済と安全保障が結びつきすぎることを懸念する声もある。私たちの想像を超えるスピードで経済安全保障をめぐる環境が変化する中で、その現状と課題をしっかりとウォッチし、今後もなるべくわかりやすくお伝えしていきたい。

(政治部 首相官邸担当 杉山和希)