自民党の甘利明前幹事長は6日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、福島第一原発で生じた処理水を今夏にも海洋放出する政府の方針に中国が反発していることついて、政府の気持ちを代弁する形で「あなた(中国)にだけは言われたくない」と批判した。
甘利氏は「中国(の原発からのトリチウム放出量)はどこも日本(の原発)よりも多い」と指摘。「中国が専門家同士の意思疎通を行わないのは、科学的でない主張をしているからだ」と強調した。
処理水の海洋放出を理由に、中国が先だって日本の水産物の事実上の輸入禁止に踏み切ったことに対抗するため、番組コメンテーターの橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事)が半導体製造装置の対中輸出規制強化に続き「(半導体)材料も止めるぞということをちらつかせながら交渉するのはどうか」と水を向けると、甘利氏は「(政府の立場とは別に、政治家レベルの交渉としては)ありだ」と述べた。
国民民主党の玉木雄一郎代表は、中国の「偽情報(ディスインフォメーション)」に対抗するため、専門部局の設置を提案。「国家戦略として対応することが必要だ」と語った。
番組では、岸田文雄首相が4日の記者会見で表明した、マイナンバーカードと健康保険証との一体化をめぐる方針についても議論。甘利氏は「現状の紙の健康保険証は(年平均)20億回使われている。記入ミスが毎年約500万回ある。写真が入っていないため使い回しができ、保険に入っていない人が保険に入っている人の金を使って治療を受けている」と言及。「それでいいですか、というところから(一体化の議論を)スタートすればよかった」との認識を示した。
玉木氏は、政府が進めているマイナンバー情報の総点検作業について、国民に自ら点検してもらうことを提案。国民全員に一度マイナポータルの自分の情報が正しく掲載されているかを確認してもらい、間違いが見つかったらお詫びのしるしを渡す「詫び石」戦略で対応するよう政府を促した。「詫び石」は、ソーシャルゲームで、バグが見つかった時に運営側がお詫びとして利用者に渡すアイテムのこと。玉木氏は「今のままやっても必ずミスとバグは永遠に出る。大事なことは国民を巻き込んで総点検することだ」との考えを示した。
以下、番組での主なやりとり。
梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
岸田文雄首相は4日の記者会見で、来年秋に現行の健康保険証を廃止する方針を当面維持するとした。その上で、マイナ保険証を持っていない人に対して現行の健康保険証の代わりに発行する資格確認書について、有効期限を最長5年とし、対象者全員に申請なしで交付するとした。
玉木雄一郎氏(国民民主党代表):
何の解決にもなってない。そもそも順番と戦略が間違っている。国民の不安が解消するまでは(資格確認書を)残すみたいなことを言っているが、違う。(マイナ保険証の)メリットが感じられないから皆不安なのだ。例えば、重複投薬を防ぐようになるのはすごく良いメリットだ。医療費の無駄削減にも役立つ。そのためには電子処方箋や電子カルテが十分普及していることが大事だ。しかし、電子処方箋は先月始めてまだ数パーセント(の普及)。電子カルテも半分ぐらいで、こういうインフラを整備して、(政府が)言うメリットが実感できるとなったら、日本人はバカではないので、メリットのほうに移行して行く。そういうことができてないことがデジタル敗戦であり、紐付けが進んでないことや(現行の健康保険証の)廃止が進まないことがデジタル敗戦ではない。戦略と順番が間違っていると思う。
甘利明氏(元経産相・自民党前幹事長):
スタートの説明が下手だ。現状の紙の保険証は、回数で言えば(年平均)20億回使われている。手入力だから、記入ミスが毎年毎年500万回ある。写真がついていないから、使い回しができてしまう。つまり、保険に入ってない人が保険に入ってる人の金を使って治療を受けている。これでいいですか、というところからちゃんとスタートすれば、そういうのがなくなるよ、と。その前段の説明をもっと厚労省がちゃんとやればよかった。なぜ言わないのかと言ったら、「現状がこんなボロボロだというのを発表するのはちょっと恥ずかしくて」と(いうような回答だった)。スタートがきちんと「ああ、そのためにするんだ」と言えば、国民はそちらの方がいいよと(なるはず)。俺の保険料が保険に入ってない人に使われてしまうのかとかね。(現行の健康保険証の入力ミスは)毎年500万回、毎回毎回手入力だから。これが電子処理になれば、人間の技ではないから(ミスが)なくなる。そこからスタートすればよかったのにと思う。
玉木氏:
私は、(マイナンバー情報の)総点検を見直したほうがよいと思う。今のままやっても必ずミスとバグは永遠に出る。大事なことは国民を巻き込んで総点検することだ。皆さん、お手元にスマホ、マイナンバーカードがあったら一回マイナポータルに入ってみてと。よく分からない人は、孫や息子、娘に聞いてください、分からなかったら役場に行ってください。そこに自分の情報が正しく載っているか、紐付けされているか。自己情報にアクセスを自らしていただいて、総点検してミスがあったら、これ、ゲームのバグが発見される時によくやるのだが、お詫びのアイテムを渡す。お詫びの石と書いて「詫び石戦略」という。国民のリテラシーを上げるためにも一回、国民を巻き込んだ総点検をやらないといつまで経っても解決しないと思う。
梅津キャスター:
処理水の海洋放出に関しては、海洋放出に先立って中国は日本から輸入する水産物すべてについて検査を強化した。以前はサンプル検査だったのが全量検査に変わった。鮮魚などは事実上の輸入禁止措置だとの声も上がっている。
玉木氏:
IAEA(国際原子力機関)が報告書を出し、処理の科学的な正しさは証明された。WHO(世界保健機関)の飲料水基準の7分の1、国内安全基準の40分の1まで薄めて(海に)出す。実際に韓国のある原発はその基準よりもいま倍の濃度で出している。中国も6倍、イギリスでも9倍の濃度で出している。こういうことを経産省も外務省も言っているが、さらに情報をしっかり正しく伝えることを国家戦略でやるべきだ。これもある種、外交安全保障の問題になってきていて意図的に間違った情報を出して相手国の世論を操作する、いわゆるディスインフォメーション(偽情報)対策というのが、各国の外交安全保障戦略としてとられている。日本もディスインフォメーション対策をする専門部局を設けて、国の戦略として対応することが必要だ。
甘利氏:
中国が専門家同士の意思疎通を行わないのは科学的でない主張をしているからだ。処理水はトリチウムに関してIAEAの安全基準の40分の1、WHOの飲料基準の7分の1だ。そこまで希釈して排出する。排出総量は中国の5分の1から7分の1。原発ごとに量が違う。日本の原発はどこもよその原発よりも少ない。中国(の原発)はどこも日本より多い。だから政府の気持ちを代弁するならば、「あなたにだけは言われたくない」ということだと思う。あくまでも科学的根拠できっちり詰めて、だからこそ、よその国は全部これで納得している。
橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
今回、安全保障の話と水産物(の事実上の輸入禁止)は関係ないと思う。安全保障に関係ない全く根拠のないことでやってくるのなら、一つ、半導体の製造装置について中国に対する輸出を甘利さんが旗振って止めにかかっているが、もう一つ、(半導体)材料というところも中国にとっての急所だと思うので、ここも止めるぞということをちらつかせながら交渉するというのはどうなのか。
日本の場合は議院内閣制のもとで政府と政治(党)が分かれているところも若干あるが、政治がもっと前に乗り出して、こういう強気の(半導体)材料の話などを持っていくことは「あり」なのではないか。
甘利氏:
私は「あり」だと思う。政府は国際法に則り、国際ルールに則り、日本はやっていると。これはきちんと前に出した方がいい。しかし、政治家レベルとしては、ここまでこうされるのだったら国民感情としてこうなりますよと、いいのですか、というのは外交交渉上伝えていっていいと思う。最後に困るのはあなた(中国側)になりますよということで。