「大統領!あなたの孫は7人なのですよ」

7月8日のニューヨーク・タイムズ紙電子版の論評欄にこんな見出しの記事が掲載された。記事に添えられた写真には、ワシントンのジェファーソン記念堂の前で「エアフォース・ワン(大統領専用機)」と書かれた野球帽を後ろ向きに被った金髪の女の子の後姿が写っている。筆者は同紙論説コラムニストでピューリッツアー賞の受賞者でもあるモーリン・ダウドさんだ。

記事は、バイデン大統領の次男で、なにかとスキャンダルが伝えられるハンター氏の4歳になる非嫡出子の孫娘をバイデン家の一員として認めるべきだというもので、政治的にバイデン政権を支持する同紙としては異例に大統領に極めて厳しい論調で注目された。

バイデン大統領と次男ハンター氏(右)
バイデン大統領と次男ハンター氏(右)
この記事の画像(5枚)

バイデン大統領はかねて“自分には6人の孫がいる”と言っており、2023年4月27日の「ワークデー」(子供たちを職場に呼んでもよいという日)に、ホワイトハウスに子供たちを招いた行事でもこう話していた。

「僕には6人も孫がいるんだ。すごいだろう。僕はみんな大好きだ。毎日話をしているよ。本当だよ。実はさっきも彼らと電話をしようとしたのだけど電話に出たのは1人だけだった。まあメッセージを残したからいいけれど」

子供たちからの質問に答えるバイデン大統領(4月27日)
子供たちからの質問に答えるバイデン大統領(4月27日)

「一番上の孫は、事故で亡くなった僕の娘の名前をとったんだ。ナオミという名前だ。2番目は環境運動をしていてフィネガンと僕の母親の名前をもらった。3番目の孫娘を僕は『アメリカ一番の娘』と呼ぶんだ。彼女はすごいスポーツ選手で、2週間後には大学を卒業する。彼女の名前はメイシーというのだ。そしてあと2人。その1人とさっき電話で話したんだ。名前はナタリーで高校3年生。もうすぐ卒業してお父さんと同じ大学へ進学する予定だ。その次に孫息子がいる。間もなく高校3年生になる。そして一番下の孫息子だ。3歳半になるけど、亡くなったお父さんの兄(バイデン氏の長男)の名前をとって、ボー・バイデンというのだ。
孫たちは僕が大好きだ(笑)というのも、僕も彼らのことを大事にしているからだよ」

しかし、大統領にはまだ孫がいたのだ。

「あなた(バイデン大統領)に6人の孫がいて、差別なく愛しているというというのは信じます。しかし、あなたはアーカンソー州に住む4歳の美しいネイビー・ジョアンという女の子が、あなたの7番目の孫であるという事実を認めるのを拒否するのは信じられないことですし、恥知らずだと思います」

ダウドさんはバイデン大統領と面識がある自分の姉妹が、同大統領に送ったという抗議の手紙を記事に引用した。

バイデン姓は使わせない

記事によれば、バイデン大統領の次男のハンター・バイデン氏は、ワシントンでアーカンソー州出身でストリップ・クラブのランデン・アレクシス・ロバーツさんという女性とかりそめの恋愛関係に陥った。ロバーツさんが妊娠した後は自分の事務所の雇員として給料を支払い、ネイビー・ジョアンさんが誕生したという。

インド・モディ首相を招いた公式晩餐会に出席したハンター氏(6月22日)
インド・モディ首相を招いた公式晩餐会に出席したハンター氏(6月22日)

 しかし、ハンター氏は血縁関係を認めなかったため、ロバーツさんがDNA検査を求め、その結果2019年11月に父と娘であることが確定した。

さらに、ロバーツさんは「バイデン」という苗字を名乗ることを求める訴訟を起こしていたが、アーカンソー州の週刊紙「アーカンソー・タイムズ」電子版(3日)の記事によると、裁判はハンター氏がネイビー・ジョアンさんの養育費として月2万ドル(約270万円)、ロバーツさんに一時金75万ドル(約1億円)支払う一方、ロバーツさんは「バイデン」という苗字を名乗らないことで合意、決着したという。

これで法的問題は解決し、残るはバイデン大統領が新しい孫娘の存在を公に認めるかどうかということになったわけだが、大統領自身から何ら言及はなく、ホワイトハウスもこの問題に関わる質問を避けているので、業を煮やしたダウドさんがニューヨーク・タイムズ紙上で大統領を糾弾したのだった。

また、裁判でロバーツさんの代理人になったのはトランプ前大統領の選挙に関わっていた人物で、今も前大統領の長男のドナルド・ジュニア氏と親交があると言われる。

大統領選で勝利した父親を祝うハンター氏(2020年11月7日)
大統領選で勝利した父親を祝うハンター氏(2020年11月7日)

この問題がバイデン大統領の「完璧な家庭人で孫たちに尽くす祖父」というイメージを損ねるのに利用され、2024年の大統領選に影響を及ぼすことになるかもしれない。

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。