性犯罪の規定を見直す法改正が行われ、13日から施行された。これまで「強制性交罪」と呼ばれてきた罪名が、「不同意性交罪」に変わっている。
何が変わり、どのような行為を裁こうとしているのか。ご自身も性暴力被害に遭われたことがある、心理カウンセラーの柳谷和美さんに聞いた。

「不同意性交罪」は被害者目線の大きな法改正

何がどう変わったのか、詳しく見ていく。
これまでの「強制性交罪」では、暴行や脅迫によって無理やり性交を行ったことなどの証明が必要で、「準強制性交罪」ではアルコールや薬物を用いて心神喪失や抵抗不能な状態にして犯行に及んだことなどの証明が必要だった。

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13日から施行された「不同意性交罪」では、同意しない意思の形成や表明の全うが困難な状態であっても“不同意”と認められる。つまり“同意がない性交は犯罪になり得る”ということになる。

犯罪の成立に必要な要件として、これまでもあった「暴行・脅迫」に加え、「アルコール・薬物摂取」「拒絶するいとまを与えない」「恐怖・驚がくさせる」など、具体的な8つの行為が明文化された。
この改正によって、救われる人、裁かれる人がいるということだ。

菊地幸夫弁護士:
今までの法律の考え方は、犯人がどういう行為をしたのか、加害者側の視点が中心なんです。以前の強姦罪、その後改正された強制性交、これらは強制してやる加害者の行為です。今度は“不同意”という被害者目線に移りました。これは法律学にとっては非常に大きな転換なんです。強姦から強制性交への法改正は小さな一歩でしたが、今回大きな一歩です。被害者目線での改正となっています

専門家が注目する2つのポイントを解説

今回の法改正のポイントとして、柳谷さんは以下の2点に注目している。

・「経済的・社会的地位の利用」を明文化
・時効の見直し

ポイントの1つ目、「経済的・社会的地位の利用」が明文化された点。
家族や夫婦、会社や学校といった場所で関係性が深いほど、性被害の声を上げにくい実情がある。そのため、明文化に意義があるということだ。

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
例えば夫婦であっても、「夫婦だからいいじゃないか」みたいになっていた部分がありますけれど、多くの場合、妻側がちょっと我慢というか被害を受ける側になることが多いんですけど、体調がしんどいこともあったり、子育てで疲れている時もあって、そういった時に夫が何気なく絡んできて、それを断ると翌日無視したり、子どもに「お前らのお母さんは意地悪やで」って言うという話を実際に聞きます。

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
学校では部活で「君をレギュラーにしてあげるから」と言って、体に触れたりして、ずっと我慢させられてそのままレギュラーにならされるとかあります。男子も被害に遭うことがあり、部活で先輩たちが羽交い絞めにして下着を脱がしてからかうということもあります。そういった断れない状況に追い込まれて、被害に遭うことが多いので、明文化されたのは、被害当事者側からしてすごく大きなことです

柳谷さんが注目するもう1つのポイントが「時効の見直し」。
これまで10年だった時効が、15年に延長された。

そして被害者が18歳になるまで、事実上時効は適用されない。
柳谷さんによると、「子どもの性被害は認識しているが言い出せない」ということだ。
柳谷さん自身も、幼少期に受けた性暴力被害を言い出せなかった実体験があるという。

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
私は5歳の時に隣に住んでいたお友達の父親から性被害を受けました。しかもその時、私自身は性教育を受けていませんし、プライベートゾーンと言われる大事なところを人に見せたり、触らせたりしてはいけないよっていうことを知らされてなかったので、言い方は悪いですけど“まんまと”被害に遭いました。思春期の時に思い出して、ずっと黒いものが体の内側にある感じで引きずったまま、やっと話せると思えたのが、今の夫と出会ってなので、40歳になる前でした。性的な話は本当にしにくいです。時効期間が延びたことは評価できますが、性被害に関しては時効撤廃でいいのかなと私は個人的に思っています

時効を撤廃することは難しいのだろうか。

菊地幸夫弁護士:
実情として、性被害は言い出しにくいところがあると思います。ただ法律の世界で、ほかの重罪は時効が何年で、それより時効が短くなるとか、全体のバランスを立法者は考えます。だから例えば「言い出せない期間」を時効が停止するといった考えはあるかも。罪を問おうと思っても問えない期間というようなものを当てはめて、精神的に告白しようと思ってもできない期間は時効をストップするなど、別の解決方法もあろうかと思います

法改正によって“同意をしているのかどうか”が大きなポイントになる。
柳谷さんに監修してもらった、以下の「性的同意チェックリスト」に当てはまれば性的同意を取れていないので要注意だということだ。

・デートは性行為を前提としている
・家に泊まるのは、性行為OKのサイン
・相手がイヤだと言わなければ性行為OKのサイン
・同じ相手に毎回、性行為の同意を取る必要はない

こうしたサインを勘違いしている人はいるかもしれない。

関西テレビ 神崎報道デスク:
今回の法改正を受けて、性行為に及ぶその度に相手の同意を取るのが大原則だと肝に銘じるべきだと思います

夫婦間でも同意は必要なのだ。

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
「今日の晩御飯カレーにする」とか聞くのと同じぐらいのことです。そもそものコミュニケーションが健全であれば、 「今日は性交していい」って、そんなに深刻にならなくてもいいことだと私は思います 

番組コメンテータの犬山紙子さんは「私たち世代はやっぱり“同意”を性教育で習っていないんです。“同意”を今の子どもたちには包括的性教育でしっかり教えていく、それが子どもの尊厳を守ることになるし、相手の尊厳を守ることにもつながると思うので、本当に教育だと思います」と話した。

「性犯罪は100%加害者が悪い」

性犯罪に対して、改めて大切なことは「性犯罪は100%加害者が悪い」ということだ。

・被害を受けた人には…セカンドレイプを生まない支援・サポートが必要
・加害者をなくすために…コミュニケーション能力を育む性教育が必要

と柳谷さんは指摘する。

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
例え酔っぱらって服を着ていない状態で寝転がっていても、毛布をかけて立ち去るっていう選択肢があるわけです。人権の感覚を持つべきで、子どもの頃から誰もが安全に自由に生きる権利がある。 だから安心安全を奪ったのであれば人権侵害だよと、子どもの時から守られる体験が必要になります。とにかく相手に“お伺い”して、「イヤだ」を尊重できる人間関係を築けないといけません。あと性教育は非常に大事です

同意を取ることの重要性「イエス以外はノーです」

ここで視聴者からの質問が届いた。

(Q:有罪となったら、刑罰のほかに更生プログラムもあるの?)

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
私が知っている例として、大阪大学名誉教授の藤岡純子先生が代表されている「もふもふネット」では、加害者の治療、教育、治療共同体というものをやられています。これは自分から行かないとプログラムに参加できないのが難しいところではあります。でも私が知っている限り、その治療教育を受けられた方が性加害をやめている実績もあります。そういったところにつながっていただければと思います 

(Q:同意していないのに勝手に同意していると勘違いしている人がいました。その場合はどうなる?)

心理カウンセラー・柳谷和美さん:
とにかくイエス以外は「ノー」です。明確に「いいよ」がなければだめで、黙っていたら「ノー」です

とにかく同意を取ることが大事だ。考え方、教育を変えていくことも重要になる。

(関西テレビ「newsランナー」2023年7月13日放送)

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