天皇皇后両陛下は7月3日、東京・台東区で開催された日本芸術院の授賞式に臨まれました。
芸術分野において、卓越した作品を手がけた人や、大きな業績を残した人に贈られる「日本芸術院賞」。今回は「博士の愛した数式」などで知られる小説家の小川洋子さんをはじめ9人が受賞。このうち、特に優れた業績をあげたとして工芸家の大樋年雄さんら3人には、あわせて「恩賜賞」も贈られました。

令和4年度 日本芸術院 授賞式(東京・台東区)
令和4年度 日本芸術院 授賞式(東京・台東区)
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小説家 小川洋子さん
小説家 小川洋子さん

陶芸作品をじっくりとご覧になる両陛下

両陛下は「恩賜賞」の受賞者3人から、それぞれの作品について説明を受けられました。

石川県金沢市の窯元「大樋焼」の11代目、大樋年雄さん。ボストン大学大学院への留学経験があり、伝統技法と現代アートを融合させた陶芸作品を制作しています。受賞の対象となった作品「モニュメント・クリフ」はアメリカ・コロラド州で見た険しい渓谷を題材にしたもの。

大樋年雄・作「モニュメント・クリフ」
大樋年雄・作「モニュメント・クリフ」

陶芸を体験したことがあるという陛下と皇后さまは、腰をかがめながら、じっくりと作品をご覧に。「古い伝統になっているものを今に合わせて作るというのが僕の使命かなと考えております。」と話した大樋さん。「粘土は、世界中の粘土を混ぜております。」という説明に、陛下は「ずいぶん各国で違いますか?」とご質問。さらに「燃料は薪を?」「焼成温度はどのくらいですか?」などと専門的な質問を重ね、大樋さんの創作活動への信念や技法に耳を傾けられました。

工芸家 大樋年雄さん(十一代目 大樋長左衛門)
工芸家 大樋年雄さん(十一代目 大樋長左衛門)

陛下 高校時代に「中原中也の詩に出会い興味」

詩人で文芸批評家の北川透さん。高校や大学で教える傍ら、昭和30年代から創作ならびに評論活動を行ってきました。9年にわたりまとめ上げた集大成の批評集「現代詩論集成」では、太宰治、三島由紀夫、吉本隆明、谷川俊太郎などの作品を論じています。

87歳の現在でもパソコンに向き合って詩を書き続けているという北川さんに、陛下は「パソコンの良いところはどんなところですか?」とご質問。打ち間違いから新たな詩が生まれたり、ヒントになったり…という説明に、皇后さまは「打ち間違いからまた…」と驚かれた様子でした。
そして、北川さんの「中原中也の『汚れつちまつた悲しみに』が自分の中で支えになっている」という話から、陛下が「私も高校の現代文の教科書で中原中也の『子守唄よ』に出会って興味を持ちました。」と話されました。

詩人・文芸評論家 北川透さん
詩人・文芸評論家 北川透さん
北川透さんの作品
北川透さんの作品

能面を手に取られた皇后さま 「息苦しくはないですか?」

能楽師・金剛流二十六世宗家、金剛永謹さん。「舞金剛」とも呼ばれる優美で雅やかな金剛流の伝統を守り、上演されなくなった過去の作品を復活させたり、海外公演を行ったりと、能楽の普及に貢献しました。

能楽で使用する装束や能面について説明を受けられた両陛下。陛下は「きれいなものですね。」「保存がなかなか大変でしょう。」と感想を述べられました。また、能面を手に取られた皇后さまは「息苦しくはないですか?」と能楽師の苦労を気遣っていらっしゃいました。

能楽師 金剛永謹さん
能楽師 金剛永謹さん
金剛永謹さんが使用している能面や扇
金剛永謹さんが使用している能面や扇

説明を終えた大樋さんと北川さんに「どうぞお座りください」と着席を勧めるなど気遣いながら、3人の受賞者と懇談された両陛下。文化芸術のさらなる発展を願っていらっしゃいました。

(「皇室ご一家」7月9日放送)