「白神山地」は2023年12月、ユネスコ世界自然遺産に登録されて30年の節目を迎える。白神山地とその麓の秋田・藤里町などでは、4月からさまざまな記念イベントが開催されている。そんな白神産地の魅力や、環境保護に向けた取り組みの現状と課題を探る。

世界自然遺産を守る「山の案内人」

青森県と秋田県にまたがる「白神山地」。世界有数のブナの原生林が残されていることが評価され、1993年12月11日、その一部が日本初のユネスコ世界自然遺産に登録された。

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ブナを中心とした豊かな森林生態系が広がり、多種多様な動植物が共存する白神山地。

長年、山のガイドをしている斎藤栄作美さんは、子どものころから白神の森に親しんできた。

山の案内人・斎藤栄作美さん:
本当に滝のように流れてきます

ブナには非常に高い貯水力がある。葉にたまった雨粒が、枝や幹を伝って根元に届けられ、土に水分が蓄えられる。

山の案内人・斎藤栄作美さん:
樹齢200年くらいのブナの木1本で、年間保水能力が約8トンくらいある、なんていう学者さんもいる

白神山地を歩くと感じる、スポンジのように柔らかい土の感触。その正体は、ブナの落ち葉が堆積してできた「腐葉土」だ。

腐葉土を絞ると大量の水が流れ出た
腐葉土を絞ると大量の水が流れ出た

山の案内人・斎藤栄作美さん:
このスポンジに水をためておくという、落葉樹ならではの機能があるんですけど、ちょっと絞ってみますよ

ミネラルをたっぷり含んだ水は、森の生態系はもちろん、川や海に運ばれて海洋生物にも良い影響を与えるといわれている。

生命力の力強さを感じる場所

立ち入りが制限されている核心地域と同じような景色が広がる岳岱の森には「400年ブナ」と呼ばれる白神のシンボルがあったが、2022年3月に折れて倒れてしまった。

山の案内人・斎藤栄作美さん:
倒れて横になって、そのうえ、全部雪で覆われて、この下でこいつ眠っているんだなと思いながらね

たくましく育つ小さなブナの赤ちゃん
たくましく育つ小さなブナの赤ちゃん

天寿を全うした400年ブナの近くには、小さなブナの赤ちゃんが芽を出していた。
ブナの実は脂肪分が豊富で、森の動物たちの貴重な食料となるが、残ったブナの実は、森をつくる新たな命として芽吹く。

山の案内人・斎藤栄作美さん:
ブナという木がいっぱいありますので、白神の良さというのは落葉樹が生き物を育てる、生き物を包み込む、そういう雰囲気が一番いいかなと思います

保護活動に直面する“人材不足”

白神の森では、豊かな生態系を守るためにさまざまな自然保護活動が行われている。東北森林管理局では、センサーカメラを設置し、野生動物の生息状況を観察している。

近年生息が確認されているイノシシやニホンジカについては、生態系に影響を及ぼすとして、注意の目が向けられている。

また、環境省を中心に秋田県と青森県などで組織する「白神山地世界遺産地域連絡会議」やボランティアが定期的にパトロールをして、入山マナーの啓発を行っている。それでも2022年度は、ごみの放置が31件と前年より急激に増加していて、違反行為が後を絶たない。

保護活動に取り組む人やガイドの高齢化が進む中、白神の森を守る人材の減少が続いていて、世界が認める豊かな森を守る活動は、いま新たな局面を迎えている。

(秋田テレビ)

秋田テレビ
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