6月22日、鹿児島県は県内全域にヘルパンギーナの流行発生警報と、インフルエンザの流行発生注意報を発令した。県によると、6月12日から18日までの1週間で、1医療機関あたりの感染者数が、それぞれの発令基準を上回ったためとしている。

インフルエンザの感染状況を年代別にみると、5歳から9歳までが490人と最も多く、20歳未満だけで感染者の94%を占めている。6月のインフルエンザ流行発生注意報発令は、1999年の調査開始以来初めてだ。今、鹿児島で子どもの感染症が拡大傾向にある。何が起きているのか、そして対策として何が大事なのかを取材した。

子どもの間で増加…3つの感染症

鹿児島市の小児科には、平日にもかかわらず待合室に診察を待つ多くの親子の姿があった。

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2歳の子どもの保護者:
症状は熱とくしゃみ、鼻水。心配になって病院に来ています

2歳の子どもの保護者:
熱が上がったり下がったり、原因が分からなくて…

小学校3年生の子どもの保護者:
学校を熱で休んでいる子が多いとは聞いている。学校や幼稚園からの情報が入ってこないので、どれくらいはやっているか分からないので検査してもらいに来た

診察にあたる大坪院長は、今、子どもたちの間で3つの感染症が増えてきていると話す。

大坪こどもクリニック・大坪修介院長:
患者の数は多いです。とても多いです。一番多いのは、夏風邪と言われるヘルパンギーナ。そして時期外れですけど、RSウイルス、そしてインフルエンザですね

画像提供:みやけ内科・循環器科
画像提供:みやけ内科・循環器科

一番多いのが「ヘルパンギーナ」だ。特徴は、のどの奥に水ぶくれや口内炎ができ、38度から40度という高熱が2、3日続く。ひどくなると、痛くて食べたり飲んだりできなくなることもある。

鹿児島県内では、6月5日から11日にかけての1医療機関あたりの感染者数は5.94人で、例年のピーク時の2倍近くまで急増している。

2つ目の「RSウィルス感染症」は、命に関わる危険性もあると大坪院長は警鐘をならす。

大坪こどもクリニック・大坪修介院長:
RSウイルス感染症が一番心配。呼吸がゼコゼコいう子は緊張します

RSウイルス感染症とは、その名の通り、RSウイルスに感染することによって引き起こされる呼吸器の疾患だ。発熱、鼻水、咳(せき)など風邪のような症状が出て、ほとんどは数日から1週間くらいで徐々に良くなる。しかし、子どもや特に乳児が重症化した場合は、気管支炎や肺炎を引き起こし、呼吸困難になる危険性がある。

そんなRSウイルス感染症は、例年9月ごろに流行のピークを迎える中で、2023年は3月ごろから感染が増え始め、4月には例年のピークと同程度の感染が報告された。6月に入ってからも状況は落ち着いていない。

そして3つ目が「インフルエンザ」だ。大坪院長は、「開業してから25年以上になりますけど、今の時期にインフルエンザのA型がみられるのは初めてですね」と話す。

2023年、鹿児島県内では1月をピークに、インフルエンザ感染者は4月にかけてゆっくり減少していた。ところが、5月に入り感染が増加に転じ、5週連続で増え続けている。今の時期に県内で感染が拡大するのは、1999年の統計開始以来初めての事態で、異例とも言えるこの時期の注意報発令に至った。

さらに注目すべきは、感染者の年代だ。最も多いのが10歳未満が約5割(50.2%)、続いて10歳~19歳が4割(41.6%)、20歳未満が約9割と、若年層の感染拡大が顕著となっている。

“子どもの重症化”命に関わることも

この現状を専門家はどう見ているのか。

鹿児島大学大学院・西順一郎教授
鹿児島大学大学院・西順一郎教授

感染症学が専門の鹿児島大学大学院・西順一郎教授は、「いろんな感染症の流行時期やピークが、例年からずれたために全体として増えています」とした上で、「現状をよく認識して、落ち着いた対応してほしい」と話す。

感染拡大の影響は教育現場にも出ている。2023年6月5日から11日までの期間に、鹿児島県内10の幼稚園、小学校、中学校、高校でインフルエンザによる学級閉鎖などの措置がとられた。県の健康増進課によると、この時期のインフルエンザでの閉鎖は異例だという。

鹿児島テレビでは、学級閉鎖が発生した小学校に話を聞いた。インフルエンザの流行を保護者が知らず、風邪だろうと病院にかからない例があった。学級閉鎖を機に周知したところ、後からインフルエンザへの感染が分かったという。

インフルエンザやRSウイルスなどに加え、感染症法上の位置づけが5類に移行した新型コロナウイルスも感染者が増加している。この時期の感染者増加の原因として何が考えられるのか。

鹿児島大学大学院・西順一郎教授:
インフルエンザは新型コロナの影響もあり、過去2年間全く流行がなく、2023年初めの流行も小さく、免疫を持たない子どもが増えたためだと思います。コロナの感染対策が緩和された影響もあります

西教授は、「RSウイルスは、コロナ流行中も2021年までは流行がみられたが、2022年はほとんど流行がなく、インフルエンザと同じように免疫を持たない乳幼児が増えたために、例年より早い流行がみられている」と現状をとらえている。

特に子どもへのこれらの感染症の危険性はどうみればよいのだろうか。

鹿児島大学大学院・西順一郎教授:
乳幼児に最も危険なのはRSウイルスです。4歳以上は風邪ですみますが、0歳~3歳までは肺に近い細い気管支の炎症が起こり、呼吸困難で命にかかわることもあります。インフルエンザや新型コロナでは、死亡する子どもがみられます。意識障害があって脳症になったり、心臓に炎症が起こり心筋炎がみられるなど、急激に悪化するので注意が必要です。10歳未満の全国の死亡者数は、2019年にインフルエンザで46人、新型コロナで2022年は39人に上っていて、決して風邪と一緒ではないので注意してください

では、子どもに感染させないために、大人は何ができるのだろうか。

鹿児島大学大学院・西順一郎教授:
インフルエンザやコロナはもちろんですが、RSウイルスも大人が感染し、軽い風邪として子どもにうつしてしまうこともあります。ご自身に風邪症状がみられたら、家庭でも換気やマスクの着用を心がけてください。しかし、どの感染症も子どもの成長の過程でいつかは経験するものです。感染を繰り返しながら免疫を獲得していくことは、子どもの成長において大切なことだとも思います。大事なのは子どもが感染したときに重症化する可能性を頭に入れて、親がそれを見逃さないことです

大人が正しい知識を持つことが重要

重症化を疑う症状としては「意識障害」「繰り返す嘔吐(おうと)」「呼吸困難」の3つが挙げられる。

鹿児島大学大学院・西順一郎教授:
意識障害は、普段のコミュニケーションが取れない、声をかけてもしっかり応答しないなどで疑ってください。繰り返す嘔吐は、胃腸炎だけでなく重症の病気でみられ、水分がとれないため脱水がひどくなります。呼吸困難は、ゼーゼーという音がしたり、呼吸数がいつもよりかなり多く、顔色も悪くなります。このような症状が1つでもある場合、すぐに医療機関を受診してください。逆に、たとえ高熱があっても、意識がしっかりしていて、食事がとれて、呼吸が落ち着いていたら慌てる必要はありません

西教授は、「子どもの感染症は成長の過程で経験すべきものが多い。あまり過剰に子どもの生活を制限することなく、重症化に注意しながら見守ってあげてほしい」と話す。また、「ワクチンで予防できる病気は、ワクチンで予防することが重要」と指摘する。重症化しないように「今打てるワクチンとしては、新型コロナのワクチンはぜひ子どもたちにも接種してあげてほしい」と話した。

子どもたちが感染しても大人たちが適切に対応できるよう、感染症について正しい知識を持っておくことが何より重要だ。

(鹿児島テレビ)

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