サッポロビールが、気候変動に強く、CO2の削減にもつながる、ビールづくりの常識を変える大麦の開発に世界ではじめて成功した。       

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6月の第2週にアメリカで開催されたビールに関する学会「醸造化学者学会」。

ここで、サッポロビール原料開発研究所の木原誠研究員が、気候変動に強い性質を持つ世界初の大麦「N68-411」について発表した。

麦芽は、おいしいビールを造るのに欠かせない原料。

ビール醸造用の麦芽は、収穫した大麦を工場で吸水し、発芽させて作られる。

しかし昨今の気候変動で、大麦に「穂発芽」という現象が起きるリスクが高まっている。

「穂発芽」とは、収穫期に豪雨など激しい雨を受けることで、畑で発芽してしまう現象。これが起きるとビールの原料にすることができない。

穂発芽したものと、通常の大麦をお湯に溶かして麦汁を作ってみると、穂発芽しているものは通常のものと比べて色が茶色くなり、ろ過の速度が遅くなっている。

サッポロビール原料開発研究所・保木健宏所長:
発芽することによって大麦の中の成分が分解されて、ビールを造るときの酵母・発酵のための栄養源になるが、そこにバラつきがおきて、ろ過がおそくなっている。

一方で、穂発芽しにくい品種はろ過の速度は早いものの、でんぷんやたんぱく質などの分解が進みにくく、麦芽の品質を低下させる課題があった。

そこでサッポロビールは、2011年から研究を開始。その後2022年に、世界で初めて“穂発芽しにくく、品質にも優れた特性”を持つ品種「N68-411」を発見した。

サッポロが発見した大麦は発芽の日数が6日から2日に抑えられ、工程が短くなることから、二酸化炭素の排出量が抑えられるメリットもある。

さらに今回開かれた学会では、この大麦「N68-411」とその系統の品種について、新たに判明した特性も発表した。

大麦「N68-411」は従来の大麦と比べ、水分量が約4%少なくても十分な品質の麦芽が作れることから、コストや環境負荷を低減できる可能性があるという。

サッポロビール原料開発研究所・保木健宏所長:
弊社では北海道あるいはカナダで、この特性を取り入れる育種をすすめているが、その各地に適応した品種をつくるのに、しばらく時間がかかるかと思っている。

 具体的めどは申し上げられないが、2030年の(品種登録出願の)目標にむけて鋭意取り組んでいる。

サッポロビール開発の気候変動に強い大麦「N68-411」
サッポロビール開発の気候変動に強い大麦「N68-411」

サッポロでは引き続き品種改良を続け、北海道やカナダでの栽培に適した新品種の開発を進め、実用化を目指す。

「飲んで美味しい」「地球にもやさしい」

「Live News α」では、一橋ビジネススクール准教授の、鈴木智子さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
気候変動に強い大麦、いかがですか。

一橋ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
ロンドンの大英博物館には、人類最古の文明とされるメソポタミアから出土した石版があり、そこには、くさび形文字でビール造りの様子が記されています。

こうした紀元前4000年以上前から続くビールを楽しむ文化が、長雨などの気候変動による危機を迎えています。

将来的に大麦の収穫量が減ってしまうことで、ビールの価格が2倍以上になる可能性を指摘する研究報告もあります。

また、ダボス会議でもその危機が警告され、世界中のビールメーカーは、気候変動への対応に取り組んでいます。

今回の新しい大麦の開発は、世界に先駆けるカタチでその答えを示した、画期的なイノベーションと言えます。

堤 礼実 キャスター:
1日の終わりにビール、という方も多いと思いますが、その楽しみが無くなってしまうのは、避けたいですよね。

一橋ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
開発された大麦は、気候変動による品質の低下をおさえ、さらには、ビールの製造期間を短縮することで、C02の排出を減らすことができます。

いわば、「飲んで美味しい」、そして「地球にもやさしい」ものになっています。

一般的に発酵などが必要なお酒づくりは、大量の水とエネルギーを使い、造り終わったあとには、私たちが思う以上に、飲めない水や廃棄物、さらにはCO2の問題もあります。

サステナビリティに対する関心が高まる中、環境への負荷を減らす取り組みはとても大切です。さらに、その取り組みを消費者に広く理解してもらう必要があります。

「みんなが欲しい」になるマーケティングも必要

堤 礼実 キャスター:
確かに、開発されたものを、私たち消費者が支持するかどうかが問われるわけですよね。

一橋ビジネススクール准教授・鈴木智子さん:
サッポロビールは、「地球に優しい」が、「みんなが欲しい」になるマーケティングが必要になります。

小売店・レストランやバーなどを巻き込みながら、ビールの危機を救った物語を浸透させると、消費者がブランドに、より魅力を感じるようになります。

サッポロビール140年の歴史に、気候変動からビール文化を守った、という誇らしい成果が刻まれることを期待したいです。

堤 礼実 キャスター:
大瓶1本あたり、約90グラムの大麦が必要なんだそうです。個人的には結構多いなと感じました。

こういった開発が、農家の方々を守ることにも繋がって、そして、私たち消費者がこの先もずっと美味しいビールが飲めるといいなと思います。

(「Live News α」6月7日放送分より)