「信頼関係は地に落ちた!」にびっくり
連立を組む自民、公明の両党が次期衆院選の東京での選挙協力をめぐって大ゲンカをしているのだが、今回は公明党の強硬な姿勢が目立っている。
公明は小選挙区の10増10減で東京が5議席増えるので、今ある1議席に加えてもう1つ欲しいと要求したのだが、自民としては東京は増えるが地方では減るので簡単にウンとは言えない。
公明党が練馬区東部の28区を希望したのに対し、自民は北区などの12区か江東区などの15区を提示したが公明は拒否。結局公明は自公幹事長会談で28区出馬を取りやめ、すでに決めている29区(荒川区など)では自民の推薦を受けず、逆に東京の小選挙区で自民の候補には推薦を出さないことを伝えた。
この時、公明の石井啓一幹事長が終了後、記者団に言った「信頼関係は地に落ちた」という強い言葉にはびっくりした。石井氏は温厚篤実なイメージの人なので、彼がこの言葉を会談中にも自民の茂木敏充幹事長に面と向かって放ったと聞いて、事態の深刻さがわかった。
この記事の画像(5枚)温厚な石井氏が声を荒げたのには理由がある。関西では維新が公明の小選挙区に候補者擁立を検討しており、もしそうなったら公明にとっては厳しい戦いになる。また一時は800万票を超えていた比例票も昨年参院選では618万票まで落ち込んだ。
だから東京で1つくらい増やしてくれてもいいじゃないかという気持ちはわかるが、選挙はいくさであり、生きるか死ぬかだ。自民としても連立相手とは言え簡単に1つあげるわけにはいかないのだ。
公明より維新、国民の方が政策は近い
もう1つ、今回自民側が譲らなかった理由として考えられるのが、24年前の連立開始の頃に比べて自公の政策に開きが出てきたことではないか。
たとえば昨年、岸田首相は「国家安全保障戦略」を策定し、「反撃能力の保有」を打ち出したのだが、公明の山口代表は「反撃能力を使えば、必ず相手が先制攻撃だと受け止める」などと懸念を再三表明した。
最終的に公明は受け入れたが、24年前と今の東アジアにおける安保環境の違いを理解しているのだろうか。憲法改正にしてもそうだが、政策では維新や国民民主の方が自民に近く、公明はむしろ立憲民主に近いのではないかとその時思った。
LGBT法案の時も山口代表はじめ公明は立憲の主張に近く、今回維新と国民が出した法案を見ても、この問題でも維新と国民の方が自民に近いことがわかる。
自民が公明に別れを告げる日
つまり保守派を中心に公明の政策と相いれない自民の議員はこの24年で確実に増えている。ただ小選挙区で公明の支援を受けないと勝てない議員が増えているのも事実だ。そういう議員は比例票を公明に回している人が多い。つまり小選挙区内で連立しているわけだ。これは妙な話だ。
東京での自公協力解消で次の選挙はどうなるのか。普通に考えると自民は野党に競り負ける小選挙区が出るし、公明も自民の協力がないと厳しくなるだろう。
「信頼が地に落ちた」発言から5日後の30日、茂木、石井両幹事長は再会談したが、東京については話は進まず。ただし公明が擁立方針の埼玉14区、愛知16区については自民側が「要望に沿い県連と調整を進めたい」と伝えた。自民の埼玉、愛知の両県連は執行部の判断に渋々従うようだが、どこまで協力できるかはわからない。
一方で公明と維新の選挙協力の可能性が指摘されるが、今の維新であればむしろ逆のことをするのではないか。すなわち公明の候補の選挙区は関西以外も全部候補を立てる。東京は全部立てる。特に自民が弱いところは必ず立てる。つまり自公の選挙協力が弱くなっているところを維新は集中的に攻めてくるだろう。これは自公にとって脅威だ。
息子の不祥事で支持率下降中の岸田首相だが、それでも「会期末解散。7月選挙」の線がまだ消えない1つの理由は、維新の候補者が決まらないうちに選挙をやっておきたいということだ。
いずれにしても政策も合わず、選挙協力もうまくいかないなら自公の心はさらに離れていくだろう。あとは参院で自民が過半数を持っていないという問題だけが残る。それだけが連立の唯一の理由だからだ。
維新や国民民主と連立は組めなくても閣外協力ができるなら、その時が自民が公明に別れを告げる時なのだろう。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】