酪農家の廃業が相次いでいて、このままだと国産牛乳が手に入らなくなるかもしれないという危機的な状況に…。現場の実態を取材した。

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私たちの食卓に欠かせない牛乳。“物価の優等生”とも言われているが値上げの波はここにも。この1年で1リットル当たり平均約20円値上がりしている。

買い物客たち:
徐々に少しずつ値段が上がってきてますよね
小学生の子どもがいるので、やっぱり欠かせないものなので(価格が)上がってるのは厳しいですね。夏場は特に冬と違って飲みだしたので、牛乳安いところを巡って

スーパーの担当者は値上げについて…

フレッシュマーケット アオイ昭和町店 石上一隆店長:
(価格は)一生懸命頑張っているんですけど、企業努力で抑えきれないこともありますので、値上げせざるを得ないというかたちになってしまいますね。必要とされてる方が非常に多い商品でございますので上がったから「牛乳やめとこか」とはならないと思うんですけど、ちょっと不安はあります

こうした中、雪印メグミルクは8月1日から牛乳の出荷価格を5.4パーセントから13.2パーセント値上げすると発表した。

一体、牛乳に今、何が起きているのか。生産現場を取材すると“酪農危機”と言われる現状が見えてきた。

エサ代が“高騰”…月300万円も増加で「悲鳴」

こちらは淡路島の酪農家。

Q.みんな表情とか分かる?

グリーンファーム 木曽耕造代表:
分かるよ、病気の牛とか健康な牛は表情ですぐ分かる

淡路島で70年以上、酪農を営むグリーンファームの2代目、木曽耕造さんはかつてない経営危機に直面していると話す。

その理由の一つが…エサ代の高騰。

グリーンファーム 木曽耕造代表:
これはトウモロコシを中心にした配合飼料です。ほぼ100%輸入品です。値上がりする以前からみたら約1.5倍になっています。今までの利益がゼロになって、まだマイナスになっています

ロシアのウクライナ侵攻や急激な円安、世界的な需要の高まりなどによって牧草やトウモロコシの価格が跳ね上がった。

100頭以上の乳牛がいる木曽さんの所では2年前と比べてエサ代が月に300万円ほど増えた。

グリーンファーム 木曽耕造代表:
牛乳の売り上げの85パーセントくらいがエサ代とお乳を集める経費です。もう利益は出ませんね…従業員の給料を減らすわけにいかないので、自分の給料を会社のほうに突っ込むかたちでやってます

こうしたエサ代の高騰に加え、電気代や重機の燃料費などの高騰も重なり、今、乳牛を育てる酪農家の8割以上が赤字経営を強いられている。

淡路島でもやむなく廃業した酪農家がいくつもあるということだ。

グリーンファーム 木曽耕造代表:
高齢化というのもありますが、高齢であっても、あと5年、10年続けようと思っていた人でも、これだけ利益が出なくて赤字が出るんだったら辞めるのを早めようかということで早めた人もいます

木曽さんの妻・弘美さんは牧場の近くでカフェを経営しているが、新鮮な牛乳を使った人気のソフトクリームも値上げせざるを得なかった。

あわじちゃんカフェ 木曽弘美さん:
(ソフトクリーム)最初は400円で売ってたけど、牛乳だけじゃなしに他の材料費、スプーンから何から何まで上がって(2022年の5月)50円だけ上げさせてもらったけど、ほんとはもう気持ち上げたいけれども、この牛乳がおいしいので、皆さんに知ってもらおうと思って

グリーンファーム 木曽耕造代表:
「そんなに働いて、体壊れるで」と言われながらでもしないと仕方ないので、今まで投資してきた設備を無駄にするのも忍びないし、なんとか経営を続けていきたいという思いです。できる限り乳製品を飲んでいただきたいです

深刻な、酪農危機。食卓から牛乳が消えてしまうことはあるのか?

深刻な「酪農危機」…背景に何が?

広報担当として農林水産業の政策を日々発信し、日本初の“国家公務員YouTuber”としても話題となっている農林水産省の白石優生さんに話を聞いた。

酪農家の廃業も相次いでいるということだが、将来、牛乳が入手困難になるようなことはあるのか?

農林水産省 白石優生さん:
今の酪農経営って、すごく厳しい状況になっています。円安、ウクライナ情勢の関係で、エサ代が上がっているのが大きな原因です。酪農のランニングコストの約半分ってエサ代なんですよ。場所によっては、1.5倍にエサ代がなっている所もあり、ランニングコストが上がった分を価格、利益で補填できればいいんですが、もう1つの問題が、牛乳って今、余っているんですよ。消費量に対して、生産量が多くなっている状況なので価格に転嫁する事も難しいっていうのが今の状況です

牛乳が余っているという状況だが、データがある。日本の生乳の生産量の推移を現したグラフをみてみると…

2014年猛暑の影響によりバターが不足し、農水省・業界団体は乳牛を増やす政策をとった。しかし、2020年新型コロナで外食や給食での牛乳の消費量が減り、いま牛乳が余る状況になってしまっている。

農林水産省 白石優生さん:
牛乳の流通の仕方なんですけども、牛乳はですね、牛乳のまま売れるのが一番単価が高いので経営的にはいいんです。ただ、季節にもよりますが、国内の消費量って決まっていますので、牛乳のまま売らなかった分は、加工品に回します。加工品は牛乳よりも単価が低くて1キロ当たり100円を切りますので、乳製品が余って、加工品の方に回せば回すほど平均価格が下がるので経営的には厳しくなっている

今後、牛乳の価格が急に上がったりすることはあるのか?また、農家が悩んでいるエサ代の値上げが落ち着いてくる見込みは立っていないのか?

農林水産省 白石優生さん:
価格の件なんですが、2022年の11月に牛乳の値上げが行われまして、少しずつ価格の転嫁というのは進んでいるんですが、牛乳の価格の設定って、他の産業と比べてすごく難しい部分がありまして、一年に一度“民民の取引”で決まっていくんですが、いきなり数十円上がってしまうと消費量がガクっと落ちてしまう可能性があるので、そう簡単には価格に転嫁できない部分があります。またエサ代の高騰に関しては、現在、大きく下がる見込みはないです

そんな中で、国が対策に乗り出しているということだが…せっかく増加してきた乳牛が、ことしから農水省・業界団体は、乳牛を減らす対策を始めた。加齢などの理由によって、乳量の少なくなった乳牛を早期リタイアさせて、食肉加工に出荷すると酪農家に1頭当たり15万円助成するという対策で、目標は年間4万頭減らすということだ。

Q.こうした生産調整しか方法はないのでしょうか?

農林水産省 白石優生さん:
乳量を減らすやり方はたくさんあるんですけども、その中で一番酪農家さんにとって負担が大きいものが頭数を減らすことです。それに対し、国が生産者に対して支援をしていくという立場です。あと一つ、頭数を減らすのか、生産調整するのかは、生産者の経営判断によるので国が決められるものではない。生産調整をしようと判断された、頭数を減らすと決断された、経営者に対して支援をしている立場です

「牛乳がピンチ問題」視聴者からの疑問・質問は

ここで、関西テレビ「newsランナー」視聴者から質問。

Q.牛乳を輸出したらいいのでは?

農林水産省 白石優生さん:
「余った牛乳を輸出したらいいのでは」という考え方があると思うんですけども、理解できる考え方で、私たちも同じことを思っています。今、実際輸出は増えているんです。アジアとか近い地域に輸出することが多いです。ただ、現在のように一時的に生産量が増えて、たくさん余ったから、一時的にたくさん輸出するというのはマーケット(市場)に限りがあるので難しい。あと1つは、「発展途上国に食料支援で送った方がいいんじゃないか」と意見をいただくこともありますが、いま在庫が積み上がっている問題としては脱脂粉乳ですね。発展途上国に一方的に送ったとしても、脱脂粉乳を食べるには、水が必要。きれいな水が安定的に供給できる国だったらいいんですが、そうではない国にとっては、意味のない物になってしまいますし、国内の生乳が余ったからといって、一方的に海外に輸出するってことは、海外のマーケットに影響を与える可能があります。逆の立場で言うと、他の国で牛乳が余ったからといって、日本に外国の安い加工品がたくさん入ってきたら国内の酪農を守れない…難しいながら頑張っていくというところです

なかなか難しい“酪農の危機”を解決する問題だが…最後に農水省からの「呼び掛け」が…

「月に1回200ミリリットル飲むだけで、酪農家を救える!」というメッセージだ。

農林水産省 白石優生さん:
今、加工品に回している分、脱脂粉乳の在庫量が積み上がっている状況なんですよ。消費量よりも生産量が上回っている分が余剰分となってくるんですが、この余剰分に相当するのが国民1人当たり月200ミリリットル多く飲むことなんですよ。1日ではなくて月200ミリリットルです。いろんな方法があると思うのですが、まずは、今の酪農の状況を皆さんに理解していただき、牛乳を飲むことが日本の酪農を応援することにつながるんだと理解していただくことが大事だと思います

(関西テレビ「newsランナー」5月25日放送)

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