初のメッセージムービーを公開

SNSの拡散力が強くなり、良い事も悪い事もすぐに世界中に広がる今、より印象を残そうと「それは大丈夫なのか?」という、攻めたキャッチコピーやフレーズで印象に残す広告なども見かけるようになった。

編集部では以前、“攻めたキャッチコピーの採用広告”を紹介したが、今、ある製品のメッセージムービーが注目を集めている。

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それが、株式会社クレハの『NEWクレラップ「僕は手伝わない」篇』

60年前、株式会社クレハが日本初の家庭用ラップとして発売したのが“クレラップ”。その後"NEWクレラップ"となって生まれ変わったが、今回、「NEWクレラップ」初のメッセージムービーを制作・公開したのだ。

タイトルの「僕は手伝わない」という攻めたフレーズに驚きを感じる人も多いかもしれないが、まずは動画を見てほしい。

動画で描かれているのは共働き夫婦の日常

約3分の動画は、男性が食事の残りと思われる料理にラップをかける様子から始まる。夕飯の後片付けをする父親に、子供に絵本を読み聞かせる母親。

そして、画面に現われる「僕は手伝わない」の文字。

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次の映像では、先に出社する母親に対し、ゴミを集め、子供と一緒に家を出る父親。そしてメッセージは…。

「僕は、家の事を手伝わない」

ただし続く動画では、父親は皿洗いに、子供の送り迎え、食事の準備と、仕事と並行しながら家事をこなしていく様子が映し出されている。

そう。この動画の父親は、家事を手伝っているのではない。「手伝う、じゃなくて僕もやるのが当たり前だと思うから」ということなのだ。

しかし、完璧に全てをこなせているわけではなかった。皿洗いを忘れたり、子供を寝かしつけていたはずが一緒に寝てしまったり…。または、朝のゴミ出しで台所の生ゴミを捨て忘れていたことも。

動画には、共働き夫婦である家庭の様子を軸にした、家事に向き合う父親の様子が描かれていたのだ。

そして最後、メッセージはこう締めくくられている。

「家族のカタチも仕事のカタチも変わったのだから、僕たちのカタチも変われるはず」

夫婦共働きが増える中で、「どちらかがやる」ではなく「一緒にやる」という考え方が広まりつつある、“新しい家族のカタチ”を動画で柔らかに表現していた。
 

(冷蔵庫の側面に「NEWクレラップ」が)
(冷蔵庫の側面に「NEWクレラップ」が)

あえて「僕は手伝わない」とした動画に込めた思いや初のメッセージムービー制作に至った経緯を、株式会社クレハ企画・管理部の小林夏樹さんに聞いた。

家庭用品ブランドとして「男性の自発的な家事参加」を描く

ーーメッセージムービー制作の経緯は?

NEWクレラップは、「いちばんうれしいラップになろう!」を合言葉に、ご利用者の皆様からもっと愛されるにはどのようなことを行うべきか?という観点から様々なコミュニケーションを行っております。

今回、クレハとして初めてのWeb動画を使ったコミュニケーションに挑戦。明るく楽しいイメージであったり、「クレハカット」といった機能面のご紹介はTVCMで行っておりますので、今までそれほど行ってこなかった「長い歴史を持つ家庭用品として、その時代その時代の家庭にぴったりと寄り添っていく」という「ブランドの想いを伝える」ことに取り組みました。

ーーアイデアはどこから?

企画にあたって、ご利用者層と重なる年代を中心に、家庭をお持ちの男女に、「いま家族の中でどのようなことが起きているか、どのような思いが渦巻いているのか」のヒアリングを重ねました。

その中で、家事への参加意識を持ち、実際参加している男性も増えてはいるけれど、女性の立場からすると「まだまだ」と感じている方が多く、しかもそのズレがどうも大きそうだ、ということが判明。

その分担意識のギャップにこそ、家庭用品ブランドとして触れるべき、何らかの答えを差し出すべき何かがあるのではないか、と考えて、「男性の自発的な家事参加」を描くことにしました。

ーー苦労した点は?

「家事分担」を描くというのは、なかなか難しいものでした。分担の意思や状況は、ご家庭ごとに大きく違い、一概に語ることができません。ひとまとめにしてしまうことで、共感されなくなることは避けたい。

また、上記ヒアリングの結果、男性が家事に参加する姿を描くのは好ましいけれど、「男性が家事を完璧にこなしてしまうと、『家事なんて簡単でしょ』と言われている気がして受け入れにくい」という声が複数の女性からあがり、このバランスをとることに注意を払いました。

「『家族が助け合いながら、一緒にやる』ということを当たり前にしたい」

ーーなぜ発売から60年の今、メッセージムービーを制作することに?

これまでTVCMを中心に、ファンコミュニティサイトや、クレハカット選手権などのリアルイベントでのコミュニケーションを行ってきました。

ここに、デジタルを活用した取り組みを加えたい。特に動画でのコミュニケーションを行いたいと考え、メッセージムービーを制作することにしました。


ーー「僕は手伝わない」をメッセージにした意図は?

社会的な発信を丁寧に表現することを心がけましたが、一方で見ていただくには何か興味をひくフックがいると考えました。

いま、男性の家事・育児参加が求められる社会情勢の中で、あえて男性が「手伝わない」ということで、動画への関心を集めることを狙いました。

もしかしたら中には「今どきけしからん」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、動画を見ていただくことで「自分自身の大切な仕事としてやっているから『手伝いじゃないんだ』」ということがわかるストーリーにしています。

ーー「手伝う」という意識に反感の声が多かったりした?

はい。企画の段階で様々な方にヒアリングをさせていただいた際に、「『手伝う』という言葉自体に、自分の主体性がない、自分がやる仕事ではないという意識がにじんでいる」という言葉が複数出てきました。


ーーメッセージムービーの反響は?

まだ公開したばかりで、広く告知するのはこれからになりますが…

ご覧になった方からは
「社会的に意義のあるクリエーティブで、感動しました」(男性)
「わたしも結婚してみたくなりました」(女性)
「ソーシャルでジェンダーな動画というより、新しい家族像を見守る感じ、必死さもありつつ幸せな感じが、笑顔あふれる完ぺきな家族像の動画より、リアルで素敵でした!」
といった声をいただいています。

ーーメッセージムービーに込められた思いは?

女性から見るとまだまだ足りない部分もある男性の家事・育児参加ではありますが…
男性の家事・育児参加を促し、また、すでにしている方を応援する動画として、「男性を悪者にすることは絶対すまい」と考えました。

また、ご利用者層へのヒアリングの中で、女性としては「家事・育児を100%男性がやってほしい」とか「男女の役割を逆にしたい」ということを求めているわけではなく、「対等なパートナーとして『一緒にやる』」ことを希求していることが判明しています。

どっちがやるかではなく、「『家族が助け合いながら、一緒にやる』ということを当たり前にしたい」という想いを込めて制作しました。

動画のいたる所で映り込む「NEWクレラップ」は、違和感なく馴染み、家庭を陰で支えていたが、「今後も、変わり続ける家族に寄り添ったコミュニケーションに取り組み、さらに愛されるラップブランドになることを目指したいと考えています。」と小林さんは語ってくれた。

家事分担をめぐっては「見えない家事」なども話題になっているように、いまだに男女間の意識のズレは大きいようだ。夫婦のカタチや働き方が変わる中で、今回の動画のような新しい“当たり前”が増えていくのかもしれない。
 

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プライムオンライン編集部
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