宮城県気仙沼市に観光客を呼び込もうと奮闘する若者がいる。彼女は「公務員」と「アイドル」を両立しながら、気仙沼の魅力を発信し続けている。

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「ご当地アイドル」もう一つの顔

初夏の気仙沼湾を進む遊覧船。5月14日、年に4回開催されている「船上ライブ」が行われていた。出演するのは「産地直送気仙沼少女隊・SCK GIRLS」。気仙沼のご当地アイドルだ。気仙沼市内の小学生から社会人まで、じつにさまざまな年代・職業のメンバーがそろう。

産地直送気仙沼少女隊・SCK GIRLS
産地直送気仙沼少女隊・SCK GIRLS

SCK GIRLS 鈴木麻莉夏さん(25):
気仙沼でのライブは、格別に最高の気持ちになりますね。

SCK GIRLSの船上ライブ
SCK GIRLSの船上ライブ

こう話すのは、鈴木麻莉夏さん(25)。12年前のグループ結成当初からメンバーの彼女は、名実ともにリーダー的存在。ライブの見どころの一つが麻莉夏さんの気仙沼の観光ガイドだ。

鈴木麻莉夏さん SCK GIRLS結成当初からメンバーの彼女はグループのリーダー的存在だ
鈴木麻莉夏さん SCK GIRLS結成当初からメンバーの彼女はグループのリーダー的存在だ

鈴木麻莉夏さん(25):
気仙沼市民は、そろそろ『初ガツオ』が揚がるなと楽しみになる時期。
そんな時期に気仙沼に来られた人は本当にラッキー!

この翌日、気仙沼港ではカツオが初水揚げされた。ライブを見に来た人に、気仙沼の最新の情報を伝えていた。そんな麻莉夏さんがアイドルとして活動するのは、主に週末のみ。じつは、もう一つの“顔” がある。

気仙沼市役所
気仙沼市役所

鈴木麻莉夏さん(25):
市長が雑誌の取材を受けるのですが、気仙沼市内をドライブしている様子で、いくつか撮影のカットのアイデアを考えて、市長にご提案しています。

麻莉夏さんの普段の職場は、気仙沼市役所。4年前、気仙沼市の任期付き職員に採用された。現在は観光課に勤務し、ウェブサイトの運営やパンフレットの作成など、気仙沼観光をPRする仕事を担っている。表舞台に立つアイドルとは正反対の裏方の仕事。どうして市役所だったのだろうか?

鈴木麻莉夏さん(25):
もっと気仙沼の街のことに“タッチできる場所”が、どこかにあると思って、市役所に入りました。

平日は『公務員』、週末は『アイドル』。二つの顔をもつ麻莉夏さん。周りの人は、彼女をこう呼ぶ。

気仙沼市観光課 畠山勉 課長:
『二刀流』です。もはや、彼女が気仙沼の観光資源そのものかなと。大いに期待しております。

上司からの信頼も厚いようだ。一方で、麻莉夏さんがアイドルとして活動するようになったのは、意外なきっかけからだった。

「がれき処理のお手伝い」のつもりが「アイドル」に

SCK GIRLSが誕生したのは、12年前。震災直後、気仙沼の子供たちに元気を取り戻してもらおうと、地元のボランティア団体などが結成した。

鈴木麻莉夏さん(25):
私自身、実家も無事、家族も無事だったので、本当に苦しい思いをしている方々がいっぱいいて…。果たして自分が被災した人たちの痛みを全部わかっているのかと、すごく苦しかった。

震災発生当時、中学1年生だった麻莉夏さん。活動を始めたきっかけは、先輩からの誘いだった。当初は「ボランティア」と聞かされ、がれき処理の手伝いのような仕事だと思っていたという麻莉夏さん。「アイドル活動」だとは知らされていなかった。復興の手助けになればと思い、麻莉夏さんは軍手を持ち、ジャージ姿で案内された場所に向かった。ドアを開けた先にいたのは、ダンスを練習する、自分と同じような世代の女の子たちだった。

鈴木麻莉夏さん(25):
中学生の時に、校庭とか体育館とか使える場所がなかなかなくて、久しぶりに同年代の女の子たちが集まってワヤワヤやっている様子を見て、楽しそう!と思いました。やってみたら、できないなりに楽しくて…。

震災が起きるまでは、周りの先輩たちのように、「高校を卒業したら東京など、都会に進学して気仙沼を離れるのだろう」という、漠然とした思いがあったと話す麻莉夏さん。『気仙沼の大人たち』と話をしたことで、その思いは徐々に変わっていったという。

鈴木麻莉夏さん(25):
仮設商店街の一角を借りてレッスン場にしていたんです。そんな時に、ある寿司屋の板前さんが店から出てきて、私達のステージの時に、手拍子をして、ニコニコ笑いながら楽しそうに見てくれた。大変な時期だったけど、地元の方々が温かく見守ってくれた。苦しかったと思うんです。前を向いて、先陣を切って頑張っている大人の姿を見て、『この街が好きなんだ』という熱意をもらって、私も自分のハートに『この街が好き』という火を、いろんな方から灯してもらった。

「死ぬまで」気仙沼の魅力伝えたい

5月上旬、麻莉夏さんはの姿は、岩手県との県境に近い、国内有数のツツジの名所として知られる徳仙丈山にあった。山肌を赤く染める約50万本のツツジは、例年より早く見頃を迎えていた。

麻莉夏さんは山に登り、ツツジを観察。咲き具合の情報を観光ウェブサイトに掲載している。訪れている人たちにも、麻莉夏さんは積極的に声をかける。

鈴木麻莉夏さん:きょう、どちらから?
:私は利府町から。こちらは東京から。
鈴木麻莉夏さん:東京!

「県外から訪れた人に気仙沼を知ってもらえるいい機会…」すかさず“観光ガイドモード”に入る麻莉夏さん。

鈴木麻莉夏さん:
2種類、ツツジが咲いている。赤いのがヤマツツジ。薄オレンジ色がレンゲツツジ。このツツジが咲くと、気仙沼ではカツオが揚がるシーズンになるので…。

「気仙沼が好きすぎるあまり、夢中になってあれもこれもお客さんに進めてしまうんです」
麻莉夏さんはそう言って、恥ずかしそうに笑った。

気仙沼で働き続けることを決意した麻莉夏さん。これからの夢を聞いた。

鈴木麻莉夏さん(25):
気仙沼の名前を背負ってステージに立ち続けたい。気仙沼の人に誇ってもらいたい。ライブで私たちを知ってもらうことが気仙沼を知るきっかけになれば、こんなにハッピーなことはない。気仙沼の魅力に触れ続けられるような仕事を、死ぬまで続けたいなって。

震災を経験し、ひょんなことから始めたアイドル活動を通して、気仙沼を大好きになった麻莉夏さん。市役所職員とアイドルという、彼女なりの“二刀流”で、これからも気仙沼の魅力を伝え続ける。

(仙台放送)

仙台放送
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