静岡県知事と静岡市長。たびたび不仲が指摘されてきた2人が、静岡市長の退任を前に最後の面会をした。そこで市長は7年前の知事の発言、「静岡市は政令指定都市の失敗事例」を持ち出し、真意を質した。大学が同窓で最初は蜜月だった2人は、なぜ不仲になり、最後に何を話したのだろうか。
4年ぶりの面会 最後は握手をしたけれど…

2023年4月4日、静岡市の田辺信宏市長が県庁の知事室を訪れた。知事と静岡市長が1対1で面会するのは4年ぶりだ。
4月12日に3期12年の任期を終える田辺市長が求め、川勝平太知事が応じて2人の面会が実現した。

川勝平太知事:
10年一節といいますから、12年はたいしたものですよ
田辺信宏市長:
ありがとうございます。やはり市と県の連携ということも大事だということで、きょうは知事に4つほどお願いがあり、参上しました
市長のお願いの1つ目は静岡市が進めている「第4次総合計画・プロ野球誘致への協力」、2つ目は「歴史博物館への訪問」だ。
そして3つ目は「7年前の発言の真意を聞かせてもらうこと」だった。
2016年3月に行われたG3、知事といずれも政令市の静岡市長と浜松市長の会議でのことだ。

田辺市長:
(知事は)「静岡市は政令指定都市の失敗事例だった」とおっしゃいました。それを静岡市長として私は看過できませんでした。今でも政令指定都市・静岡は失敗だったとお思いですか。その所見をお伺いしたい

川勝知事:
あのとき(政令市の要件が)70万人に下がったのですよね。いま(政令市の要件は)100万人に戻っているでしょう。ですから人口減少の中で、あのとき市長は「100万都市を目指す」とおっしゃっていましたけど、(実現は)非常に厳しい
田辺市長:
私は100万都市なんてことは言っていません
4つ目は「リニアの課題解決の加速化」で、未来志向での県と市の連携を望んでいた。
そして最後に握手をした。

川勝知事:
本当にご苦労様でございました
田辺市長:
またゆっくりお目にかかれる機会があれば
川勝知事:
夢を本当にたくさん残していかれて、それがすごく印象的です
田辺市長:
(大学の)同窓でもありますし、今後の知事のご活躍をお祈り申し上げます
田辺市長「最後だから申し上げたいことを」

静岡市の田辺市長は会談の後、次のように述べた。
田辺市長:
「立つ鳥、跡を濁さず」という気持ちで、きょう伺いました。3期目の4年間は、私は何を言われても、なかなか私の言うことが反映されないので、皆さんから「なぜ不仲なんだ」と言われることを私は自粛しなければいけないと思い(知事に)反論してきませんでしたが、最後でありますので、きょう私が申し上げたいことを知事に4つのお願いとして申し上げた次第です
川勝知事「次の市長との関係はよくしていかねば」

一方、川勝知事は会談の感想を次のように話した。
川勝知事:
(田辺市長が)ここに来られるのも、それなりの気持ちを持って来られているということはわかっていましたので、それで(退任まで)あと1週間しかないので、次の市長との関係はよくしていかなきゃならないと思っていましたので、ここは彼も気持ちよく4月12日の退任の日まで過ごしていただけるという思いで、来ていただいたことを歓迎したということでございます
大学の先輩と後輩 最初は蜜月
最初は関係が良好だった2人がなぜ不仲になったのか、2人の12年を振り返る。

田辺信宏市長は、2011年の静岡市長選に初当選した。
3期12年 静岡市政の舵取りを担い、「世界に輝く静岡市の実現」を掲げ、歴史博物館や海洋文化施設の整備計画を進めてきた。また2022年4月には5年連続で、「待機児童ゼロ」を達成するなど、子育て支援策にも力を入れてきた。
同じ早稲田大学出身の川勝知事と田辺市長。2011年、市長が就任のあいさつに県庁を訪れた時には、お互い笑顔で握手を交わした。

田辺市長:
(川勝知事は)リーダーとしても先輩

川勝知事:
(田辺市長は)おそるべき後輩です。いい後輩に巡り合えた
知事の「県都構想」で不仲が決定的に
しかしその4年後の2015年には…
川勝知事:
キミのためでもない。私のためでもない

田辺市長:
「キミ、キミ」とおっしゃいますけど、私は静岡市長です。聞いてください。私はずっと粘り強く知事の言葉に耳を傾けました。あなたは私が話し始めて3分となく口をはさむ。もっと私の、市民の声をよく聞いてください

当時、川勝知事が提唱していた「県都構想」をめぐる会談で、2人の不仲が決定的になった。
県都構想は、川勝知事が県と静岡市の二重行政の解消のために打ち出したもので、静岡市を廃止し、市内の3つの区を東京のように自治権のある特別区にする構想だ。
「静岡市は政令市の失敗事例」に猛反発
2016年に2人と浜松市長の、静岡県の首脳3人が集まった会談で、亀裂は深まった。
知事は静岡市の人口が減少を続け約70万人になったことなどについて、持論を展開した。

川勝知事:
静岡市は、私は政令指定都市としては失敗事例だったと

田辺市長:
この公の席で失敗と断じた。これは断じて看過できません。静岡市政に口出しをしすぎているのではないでしょうか
政令市になった2005年に静岡市の人口は約72万人だったが、2023年3月現在は約68万人で、全国20の政令市の中で最も少ない。
さらに老朽化した基幹病院や清水庁舎の移転問題など、知事と静岡市長の対立、県と静岡市の連携不足は、ことあるごとに注目されてきた。
不仲が台風対応の遅れにも影響か
それは災害対応でも浮き彫りになった。

2022年9月の台風15号で自衛隊の派遣要請を巡り、知事と直接連絡を取り合わなかった点を記者に質問され、田辺市長は次のように釈明した。

田辺市長:
知りません、私は(知事の)携帯番号をかつて教えてもらおうと思ったことがあったが、残念ながら教えてもらえなかった

知事は「虚言」だと反論した。
台風15号から2カ月後の2022年12月、田辺市長は次の市長選に立候補しない意向を表明した。理由の一つに「災害への対応が遅れた責任」をあげた。
2023年3月の定例会見で、残りの任期でやりたいことを問われると田辺市長は「知事に会いたい」と答えた。
田辺市長:
どうしても実現したいことが、任期中に県知事とお会いしたいと思っています。知事とは12年間いろんなことがあった中で、やはり政令市であっても県と連携していく必要性は、私自身感じているので、きちっとお伝えした
川勝知事:
まだ連絡は入っていないが、お越しになればお話を受ける。お別れのあいさつになるでしょうから
不仲が指摘され続けた2人。市長退任を目前にした面会となった。
最後まで“溝”が…

面会後のインタビューで「雪解けは?」と聞かれると、田辺市長は「はははっ」と笑った上で、「申し上げたいことは申し上げた」と答えた。
また知事は感想を聞かれて、「おっしゃりたいことを、お聞きすることはできました」と答えた。
おだやかな口調ながらも、距離が縮まりわだかまりが解消される面会とはならなかったようだ。最後の面会も含め、2人の間には ずっと溝があり続けた印象はぬぐえない。
(テレビ静岡)