法曹志望者の減少や、成人年齢の引き下げで18歳から裁判員に選ばれるようになるなど、司法を取り巻く環境が変化を迎えている。そんな中、若い世代に刑事司法に対して興味をもってもらおうと弁護士らが立ち上がり、高校生などを対象に「刑事司法セミナー」を開催した。
この記事の画像(4枚)成人年齢の引き下げで、今年から18歳・19歳も新たに裁判員の対象になり、高校生でも18歳以上なら裁判員に選ばれる可能性がある。
セミナーでは、事件の捜査・裁判から犯罪者の更生に至る刑事手続きについて、元警察官や現役の裁判官などそれぞれの分野の「専門家」が登壇し、リレー形式で説明した。
登壇者は、この日用意された「3人が逮捕された強盗傷害事件」の例題などをもとに、それぞれの仕事の役割や、大切にしている思いを語った。
島戸純 裁判官:法廷では、証人から話を聞きます。この事件でいうと、実際に被害にあわれた方や目撃者ということもあります。防犯カメラに映っていれば、再生したりもします。そうしたことを法廷で見ながら、裁判官3人と裁判員6人で話し合い、本当に被告人が事件に関わっているのか、どういった刑罰が適当かを決めていきます。裁判官も裁判員も神様ではなく、人がやるものなので、お互いに知恵を絞って話し合わないと、社会から見て妥当なものにはならないと考えています。
高校生ら 元警察官の“胸の内”に触れる
刑事手続きの説明後には、高校生と登壇者がグループに分かれて意見交換を行い、積極的な質問も飛びだした。その中では、高校生から元警察官に「自分が捜査した事件について、刑が決まったあとの情報はどのように来るのか」という質問がされた。
これについて、元警視庁刑事部参事官の上原智明氏は、「情報は来るし、実は裁判も見に行きます。事件が終わると、捜査員はそれぞれの本部に散らばってしまうが、何人かで『今度あの裁判があるから聞きに行こう』と、どんなことを言うか聞きにいきます。そこで判決を聞いて、死刑だとなんともいえない思いになります」と話し、「検挙したことは喜びだけど、事件が終わったあと喜びだけで終わらない部分は確かにある」との胸の内を明かした。
今回、セミナーに参加した高校生からは、「それぞれの刑事司法に関わる方の心情や仕事内容を聞けて、有意義な時間でした」という声や、「刑事というと犯罪とか、自分とは関わりない分野に思えるが、そういうことが自分の周りの人に起きた場合でも、こういった頼りがいがある方々がいて、罪に対していろんな人が関わって向き合ってくれる。裁判で判断を下して、その後のことも考えてくれて、更生の機会があるのはすごい制度だと思った」といった意見が聞かれた。
司法試験 受験者の減少
セミナーを企画した一般社団法人・司法教育支援協会は、法曹を目指す人が減少していることを危惧し、若い世代に刑事司法に対して興味を持ってもらう目的で今年一月に設立された。刑事司法セミナーのほか、模擬裁判なども企画している。
司法試験の受験者数は去年3082人と、7年連続で減少している。旧司法試験から新試験に完全に移行した2012年以降最少で、2012年からは5000人以上減少している。また、合格者数についても去年1403人と「政府目標の1500人以上」を3年連続で下回る状況が続く。
協会の代表理事である熊田彰英弁護士は、「それぞれの分野のプロフェッショナルが、自分の体験を元に制度の仕組みを説明することは、リアル感や熱量が伝わる。今後セミナーを全国で行っていきたい」としている。
(フジテレビ社会部・司法担当 中澤しーしー)