今年も国際女性デー(3月8日)を迎えた。女性の生き方を考え、さまざまな課題や活動と真摯に向き合うことは、サステナブルな(=持続可能な)社会を目指す「SDGs」につながる(SDGsの5番目の目標が「ジェンダー平等を実現しよう」となっています)。サステナブルな社会作り・職場作りを進める先進企業を紹介する「サスティナビリティストーリー」。

今回は、女性活躍を推進している大東建託株式会社の商品開発部企画デザイン課課長・千野惠美子さんと、同社の主力商品である「NEWRiSE(ニューライズ)」を開発した若手女性社員3名に話を聞いた。

女性が活き活きと働ける職場とはどのような環境なのか?
(聞き手:フジテレビCSR・SDGs推進室部長・木幡美子)

「女性活躍」の前に着手したのは「残業の削減」

建物賃貸事業の企画・建築や不動産の仲介・管理を中心に事業展開する大東建託。

ジェンダー平等の実現に向けた機運が高まる中、大東建託では時代の潮流に応えるように積極的に女性を抜てき。

2022年5月にリリースした、会社を代表する省エネルギーZEH(※)賃貸住宅「NEWRiSE」も、入社5~6年目の若手女性社員3人が中心となって、商品化にこぎつけた。

女性活躍の推進については、多くの企業が形にしようと努めている中、なぜこのような環境をいち早く実現できたのだろうか?

(※=ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの略で、住まいの断熱性能・省エネ性能を上げ、太陽光発電などでエネルギーを創ることにより、建物で消費する年間の一次消費エネルギー量(空調・給湯・照明・換気)の収支をプラスマイナスゼロにする住宅のこと)

大東建託 商品開発部 企画デザイン課課長 千野惠美子さん(右)
大東建託 商品開発部 企画デザイン課課長 千野惠美子さん(右)
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――「女性が働きやすい職場」を作り、アップデートをし続けている大東建託ですが、それができる要因はどこにあるのでしょうか。千野さんからご紹介いただけますか。

千野惠美子さん(以下、千野):
今でこそ職場は大きく変わりましたが、変化のきっかけになったのは2015年に成立した女性活躍推進法です。

大東建託にはもともと、企業として社会の中で責任ある活動を展開していこうという高い意識がありました。

そこで、「ダイバーシティ推進課」を作りました。

そこからは一点突破というか、具体的な目標を掲げて、「これ、必達だよね」と社員みんなで確認し合い、まずは残業時間の削減に取り組みました。

――女性活躍の前に、働き方改革でよく言われる「残業時間の問題」に取り組んだのですね。

千野:
その通りです。そこで目標を達成すると、会社の中に「改革、やればできるじゃん」という雰囲気ができてきます。それを足がかりに次に歩みを進めました。

当時すでに声としてあがっていた、たとえば「不妊治療のサポートがほしい」「産休・育休を取った時に復職支援があったら嬉しい」といった声、大きな枠組みでいえば「女性が働きやすい職場にしてほしい」という社内のニーズに応えることにしたのです。

まずは制度を設ける。その上で、制度が“ある”だけでは意味がないので、制度を使ってもらって、実績を積み上げていきました。

個々の女性社員からすれば、身近に産休・育休を経験したロールモデルがどんどん誕生するので、その同僚の姿に背中を押されて制度利用が加速します。

このような形で、女性が安心して仕事ができる状況を創出してきました。

女性ならでは」を生かすことで女性活躍推進の基盤ができた

――職場の女性比率は増えていますか。

千野:
着実に増えています。私が所属している商品開発部は男女半々くらいです。

――これは私のイメージですが、建設業界というと男性優位だと思っていましたが…。

千野:
私は以前、設計事務所に勤めていました。そこはまさに男性ばかりで、建設業界全体も男性優位な傾向はありました。今もそういった傾向はあると思います。

ですが大東建託は、共働きがあたりまえになっていく世の中に合わせて、「何か変化しなければ」とは考えていました。その変化を後押ししてくれたのが、女性活躍推進法でした。

2012年頃に大東建託は、社内の女性社員や他社の女性も交えたチーム「女子ゴコロ100%プロジェクト」を立ち上げました。

女性の意見を住まいづくりに取り入れていくためのチームです。

そこで出た「洗面室内物干し」「お出かけフック」といった生活上の「あったらいいよね」を実装したら、お客さまからの評判も良かったのです。

そういった成果が出ると、社内の男性も「女性の意見を取り入れると新しいことが生まれる!」と思うようになります。

そこから、女性の声を積極的に受け入れる社風もできてきました。

――現在、千野さんが関わる仕事で、女性ならではの視点が活きたなと感じたことはありますか?

千野さんが立ち上げに携わった「ROOFLAG(ルーフラッグ)=賃貸住宅未来展示場」でインタビュー
千野さんが立ち上げに携わった「ROOFLAG(ルーフラッグ)=賃貸住宅未来展示場」でインタビュー

千野:
私はここ、「ROOFLAG(ルーフラッグ)=賃貸住宅未来展示場」の立ち上げに携わっていました。

「ROOFLAG」を作ろうという話が出た頃は、話し合いに参加する女性は私一人、のような状況で当惑しました。

でも、意見を出し合う内に、女性ならではの視点からものを言えることや、私個人としてはその場で意見を言うことで場が和むことに気づいたのです。

緊迫感がある会議で、話し合いがやわらかくなり、スムーズになる。

これを「女性ならでは」と言っていいのかわかりませんが、「私がもともと持っているものを仕事に生かすのっていいな」とは思いましたね。

「NEWRiSE(ニューライズ)」が生まれた経緯とは

女性の活躍、いまや大東建託の成長戦略の要にすらなっている。それを象徴しているのが、「NEWRiSE」の誕生。

ここで、同商品の開発を行った20代の若手女性3名(清水蒔子さん、松澤千優さん、安田美沙紀さん)にも話を聞いた。

左から清水蒔子さん、松澤千優さん、安田美沙紀さん
左から清水蒔子さん、松澤千優さん、安田美沙紀さん

――「NEWRiSE」は大東建託の看板商品だと聞いています。3人に任された経緯について教えてください。

商品開発部 商品開発課 清水蒔子さん(以下、清水):
いまSDGsが話題ですが、脱炭素などを目指す国際的な流れの中で、それに合わせた商品を作ろうということで、「NEWRiSE」が生まれました。

同商品は「ZEH(ゼッチ)」と呼ばれる断熱性能や省エネ性能を高めた賃貸集合住宅です。

通常、こういった商品には「ベテラン社員が担当するもの」という固定観念がありますが、大東建託は、今後の商品開発を担う若い社員にチャレンジしてほしいという信念のもとに、若手に開発を託そうと決めたそうです。

――プレッシャーもあったのではないでしょうか。

商品開発部 構造設備課 松澤千優さん:
「NEWRiSE」は看板商品でもあったし、社内の盛り上がりも肌で感じるようになり、プレッシャーは相当なものでした。

一般の方からすると、「若手女性3人に任せて大丈夫なの?」と心配になる話かもしれません。

ですが、「女性だから」という目で会社から見られたことはありませんし、意見を出した際も男性の声にかき消されるなんてこともありません。

商品開発部 構造設備課 安田美沙紀さん:
私の担当は「設計」で、業界的にはまさに男性優位な世界といわれるのですが、大東建託はこの職種に女性をしっかり登用しているので、とてもやりやすかったです。

――「女性とともに働こう」「女性をサポートしていこう」という気風がみなさんの追い風となって「NEWRiSE」が完成したのですね。そういった気風を感じることはありますか?

清水:
女性として、この職場で将来を見据えられるのがいいですよね。キャリアをあきらめる必要もない。

先輩の中には産休・育休後も、以前と変わりなく復職して働いている人がたくさんいます。

そういったモデルケースを見ていると、未来のこともそうですし、「今」に不安を抱えることもなく全力で働くことができます。

「あ、わたしもこうしていけばいいんだ」って。それが、開発に生きたと思っています。

女性がもっと自信を持って働ける社会を作っていく上で大切なこと

――千野さんから見て、3人の仕事ぶりはいかがですか?

千野:
とにかくよく動き、わからないことがあれば男女問わず先輩などに相談をしていますね。

いろいろなところでアクティブに仕事している様子を見ると、とても頼もしく感じます。

そこで改めて思ったのは、「男性と女性で補い合えることってある」という事実です。

「NEWRiSE」の開発には、男性も含め多くの人のサポートがありました。

男性・女性が相乗効果を出すことができるんだと実感しました。

――世の中では、ジェンダー平等やSDGsが叫ばれています。千野さんは率直にどう思われていますか?

千野:
一般論をいえば、女性には、「これ、言っていいのかな」とか「これは、言えないな」と委縮してしまうシーンがまだまだあります。

そこには「できない」と思わせるような環境があると思うんです。

女性が「できる」と思えるようにする、そんな環境作りをしていくことが大事だと考えています。

――アンコンシャスバイアス(=無意識の偏見)の影響もあるかもしれません。でも、「できない」って、考えなくていいってことですよね。

千野:
はい。とはいえ、実際はなかなか「できる」とは思えないものです。

ダイバーシティ&インクルージョンが注目されている昨今ですけど、人としてみんなが尊重し合い、多様性を受け入れ、寄り添うことって、みんなが「それって大事だよね」って感じないとできないことですよね。

そういう場や風土を作り、広げていけたらと思っています。

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