重さ5kgのリュックを背負って、歩行速度や片足で立っていられる時間を計測する体力測定が行われた。対象を高齢者に絞って行われ、「普段 こんなに重いものを持ったことがない」と戸惑う人もいた。富士山麓の町 静岡県小山町で行われた取り組みの狙いを取材した。
逃げる体力を蓄えて
2023年3月 富士山麓にある静岡県小山町で開かれた講習会には、65歳以上の男女14人が集まった。

東海大学 体育学部・久保田晃生 教授:
被害を最小限にする中で、まず一番大事なことは、災害が起きた時に逃げる行動。逃げる自信がありますか、逃げる体力がありますか

講師を務めたのは、東海大学体育学部の久保田晃生教授だ。
久保田教授は令和3年度から高齢化率の高い小山町で、防災意識を高める方法について研究している。小山町の高齢化率は31.1%(令和4年4月1日現在)で、約3分の1が65歳以上だ。

今回の講習会の目的は、災害時の被害を軽減するにはどうしたらいいか考えること、“減災“だ。
東海大・久保田晃生 教授:
被害をゼロにすることが “防災”。でも被害をゼロにするのはなかなか難しい。一方で“減災”は、被害を最小限にすること。災害は起きるという判断のもと できるだけ最小限にしましょうというもので、(防災と)大きな違いがある
“減災”とは、できることから計画的に取り組むことで、少しでも災害時の被害の軽減を図るようにすることだ。今の自分の体力を知ることで、減災に必要な体力を蓄えるきっかけにしてもらおうという狙いだ。
富士山麓の町の心配事

南海トラフ沿いを震源とする地震と富士山噴火が連動したことが、過去にある。
1707年の宝永噴火だ。地震の約2カ月後に富士山が噴火した。

小山町では南海トラフ地震に連動し富士山が噴火した場合、溶岩流が襲来したり、火山灰の飛散で建物が倒壊したりする被害が想定されている。
町は防災マップをつくり、溶岩流が町のどこに、噴火後どのくらいの時間で押し寄せるか、町民に伝えている。内陸なので津波の心配はないが、富士山噴火は切実な心配事だ。

小山町危機管理局・永井利弘 防災専門監:
小山町は山間部で坂道も多い土地柄で、富士山噴火や地震や風水害の危険性がある。体力をつけて、いざという時は車を使わなくても、ある程度の距離を歩けるということが、みなさんの命にかかわってくるのではないかと思います
参加者に災害時の避難に対する不安を聞くと、認識はさまざまだ。
参加者:
身体が動くので、避難と言われたらすぐ避難できるのではないか

参加者:
自分の家と避難所は、坂を上ったり川を渡ったりしなければいけないので、(歩いて)避難所に行けない
5kgのリュックを背負い 「体力」を知る
今回の講習会では“体力”に重点を置き、さまざまな体力測定をして自分の今の体力と向き合う。

災害時にはどれだけ体力が必要か。
3日分の避難に必要な食料やラジオなどを詰めたリュックが用意された。重さは5kgで、長い距離を歩くと負担に感じそうだ。

荷物を何も持たない場合と、リュックを持った場合とで、体力測定の結果を比べる。
まず、歩行速度の測定だ。走らない程度のできるだけ速いペースで5mを歩き、タイムを計る。

参加者:
重たいですよ。普段こんなに重たいものを持ったことないので、いい経験です。災害の時はすごい力がでるから、たぶん大丈夫だと思う
参加者:
重たいです。どうしても前かがみになっちゃう

記録を見てみると、リュックを持った時の方が、持たない時に比べ0.2秒ほど長くかかった。わずかだが、リュックを持つと負担がかかることがわかる。

また片足立ちも、リュックなしでは60秒間できた人が、5kgのリュックを背負うと12秒でバランスを崩した。
重い荷物を持っての行動は、持たない時より時間がかかったり、バランスを崩しやすくなったりするので、その分 体力を増強しておく必要があるのだろう。

東海大・久保田教授:
(高齢者は)介護予防、介護が必要にならないために体力をつけるという考え方もあるが、(避難で)逃げる時にはそれ以上に高い体力が求められるのではないか

参加者は、いざという時のために“体力”が欠かせないことを再認識したようだ。
参加者:
(測定してみて思ったより)遅い。訓練が必要だね、普段から早歩きで歩くとか
参加者:
年々 体力は衰えている。いざとなると、もっとのろくなると思う

参加者:
こんなに重いものを持って移動しなきゃいけないとか、環境が悪い時に歩かなきゃいけないと思うと、普段の体力じゃダメかなと思う
「日々の運動の積み重ねが減災に」
この研究に参加した小山町の福祉長寿課は、「減災という新しい切り口によって、体力づくりにつなげたい」と、している。

小山町健康長寿課・芹澤咲子 保健師:
減災という別の切り口にすることで、運動に興味がない人や自信ない人も、新たにいつの間にか運動の時間を作ることができる。「いざという時のためにも、普段からの体力づくりが必要」と実感してもらい、それが介護予防にもつながっていければと思う

久保田教授も、「日々の運動の積み重ねが減災につながる」と話す。
東海大体育学部・久保田晃生 教授:
体力をつけるために何をするかというと、やはり日々の運動の実践になる。日々の運動の実践を通じて、逃げるため生きるための体力をつけていただきたい

いざというときに命を守るために。
自分の体力を見つめ直し、必要な運動をしておくことも、大切な備えと言えそうだ。
(テレビ静岡)