男子校の中学生たちがみんなで女子大に行き、いろいろと学んできたそうだ。彼らはどんなことに気が付いたのか。

名門男子校の中学生が女子大へ行く

東京都世田谷区にある駒場東邦中学校・高等学校。東大合格者を毎年50人前後輩出するこの進学校は、男子校です。

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この日中学3年生の教室は何だか浮足立っていた。生徒たちがうれしそうに見上げる黒板に書かれていたのは、「5・6限 昭和女子大へ行きます」の文字。彼らは女子大に招かれていたのだ。

(Q:みんな楽しみ?)
中3の男子生徒たち:
まあ、まあ、まあ…

女子大生に案内され、昭和女子大学のホールに男子生徒230人が大集合。ここで一体、何が始まるのか。

昭和女子大学の学生:
男子中学生と女子大生、離れている立場にはありますが、こうして集まることができましたので、ぜひ歩み寄る1日にしていきましょう

この日行われたのは、男子校と女子大がコラボレーションした“特別授業”。普段接することの少ない“異性”の考えを聞いて、無意識の偏見や固定観念に気付こうという試みだ。

この授業の発起人は、男子生徒たちを率いる駒場東邦中学校の向井恒爾先生。自身も中高6年間を男子校で過ごしたが、社会に出て初めて男女の役割について偏った考えを持っていたことに気が付いたそうだ。

駒場東邦中学校 向井恒爾 教諭:
いわゆる“きれいな奥さん”をもらって専業主婦で、という価値観。だから自分は稼がないといけない、偉くならないといけないというものを良しとする価値観の中で、だんだん時代は変わってくるし…それを再生産していく手伝いをするのはちょっとな、と。「“いろんな立場の人がいる”ということを知らないと、本当に社会にとってマイナスだ」「君たちの能力が、誰かを助けるということにつながってくれないと困るんだ」と伝えたい

人生の先輩が用意したフィールドで、さあ、どんな気づきが生まれるのか。

男が稼いで養う?…無意識の偏見

はじめの議題は「求めるパートナー像」。男子生徒たちの理想は…?

中3の男子生徒:
俺、結婚するんだったら絶対かわいい子がいいなぁ

どうやら“外見”を重視する声が多く、パートナーに“経済力”は求めていない様子。かっての向井先生のように、「男が稼いで“きれいな奥さん”を養う」という価値観が垣間見えた。

すると…

昭和女子大学3年生 前田ひとみさん:
もし皆さんが病気やけがでお仕事できなくなった場合、おうちの経済状況は悪化しちゃいませんか?

中3の男子生徒たち:
確かに。すごい

思い至らなかった新鮮な指摘に、教室はザワザワ。気づきの第一歩だ。

“個人のスキル”で判断される社会に

次の議題は、「職場の男女比」について。

昭和女子大 前田ひとみさん:
男性が少ないのが、保育士・介護士・小学校教員です

中3の男子生徒たち:
少な!

職業によって大きく差があることに、男子生徒たちは驚きを隠せません。

昭和女子大 前田ひとみさん:
男女比の差が大きいとどんな困り事が起こるかなというのを話し合っていただきたいと思います

女子大生たちが伝えたかったこと。それは「“男だからこう”“女らしくこう”と無意識に思い込んでいませんか?」ということ。

中3の男子生徒たち:
“男だったら力仕事”みたいな、色々な役割分担ができないと困るかなと

昭和女子大 前田ひとみさん:
私マネージャーやっていたんですけれど、サッカー部のマネージャーってドリンク要員なんですよ。1回に、1本1リットルのものを12本一気に持っていくこともあって。皆さんどうですか?12リットル一気に持てますか?

中3の男子生徒たち:
キツい…

昭和女子大 前田ひとみさん:
だから、意外と女の子でも力持ちの人はいるから、性別で分けなくてもいいけど

“男だから荷物を持たないと”。これも、無意識に根づいた思い込みのひとつ。性別ではなく、個人のスキルで判断される社会になればと学生たちは考えます。

昭和女子大 前田ひとみさん:
個人によって能力は違うだろうし、いろんな人がいる社会だから、いろんな人が同じ職場で働いた方が、これからはそういうことが必要だよねって、改めて感じました

授業を監修した昭和女子大学の小森亜紀子准教授は、性別に対する思い込みを男女一緒になって変えていくべきだと指摘します。

昭和女子大学 小森亜紀子 准教授:
「日本の男性つらいよな」って思うところがすごくあって。「お金を稼がなくちゃいけない」「家族のためにずっと頑張らなくちゃいけない」じゃなくて、女性も男性も自分の人生を自分で選んで楽しむ。彼らが将来大きくなって、その周りが変わるだけでも少し違うのかなと思って

中3の男子生徒:
(–Q:印象に残ったことは?)
男女比が偏っていて働きにくい環境を、いろんな企業が対策しているという話が一番印象に残っています。
普段考えないことなので、学ぶことで、相手を傷つけることを少なくはできるんじゃないかなと思います。

彼らはまさに成長途上。「自分には“気付いていないこと”があるかもしれない」と気付いたこの一歩から、始まる未来に期待だ。

固定観念ができる前に…異性について知る

取材は、固定観念ができあがる前に、異性のことについて「知る」という取り組みだった。 差別の心理などを研究する上智大学の出口真紀子教授は…

上智大学 出口真紀子 教授:
女性が日々抱える特有の不条理に、男性が気づくことで世界は変わる

と言います。女性が抱える不条理、言葉だけ聞くと固く感じますが、普段のことに落とし込んでみます。

(出口教授によると)男性なら、「結婚・出産」や「通勤電車に乗る」、「飲み会へ行く」などの“行動”は、あまり深く考えたり、悩んだりせずにスムーズに実現しますが、こうした行動を女性の視点から見てみると…

【女性は…】(出口教授による)
・「結婚・出産」…キャリアと天秤にかけたりして決断している。
・「通勤電車に乗る」…痴漢に遭わないよう服装に気を付けている。
・「飲み会へ行く」…薬を入れられないか警戒して飲み会へ

など、気にして行動しているということです。薄田ジュリア・キャスターも、そこまでは心配はしていなくても「酔いつぶれないようにしないと…と考えながら飲んでいる」そうです。

こうしたことは男性だけではなかなか“気付けない”ことなので、女性の感じる「不条理」をまず男性が知って理解することで、今後の行動も変わってくると言えそうだ。

(関西テレビ「報道ランナー」2023年3月8日放送)

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