スーパーや飲食店などで、他人が不快に感じるような行為を撮影した「迷惑動画」がインターネット上で拡散され、社会問題となっている。

8日には、回転ずし店でしょうゆ差しの注ぎ口を口に含むといった迷惑動画をSNSに投稿し、店の業務を妨害したとして男らが逮捕された。こうした行為をめぐっては、全国初の逮捕者とみられるが、逮捕者の中には10代もいた。

なぜ、迷惑動画を投稿してしまうのだろうか。未成年のネットトラブルに詳しい全国ICTカウンセラー協会代表理事の安川雅史さんに、その理由や、動画が他者や投稿者本人に与える影響、そして、親ができる対策について聞いた。

あくまで友人間のもの。拡散されるとは思っていない

「私は未成年からの相談を受けることも多いのですが、迷惑動画を投稿している子の多くは、社会的な問題になると思っていないように感じます。仲間内での悪ふざけや度胸試しのような意味合いで撮影し、身近な友人を笑わせようと思ってアップしていることがほとんどなのです」

あくまで友人間で共有する動画であり、投稿する本人らは拡散されてしまうと考えていないという。

「インスタグラムのストーリーズなどは24時間で消えますが、誰かがその動画を保存していれば、知らないところで拡散されてしまう可能性があります。その危険性を理解せず、迷惑動画をネット上にアップしてしまっているのです」

全国ICTカウンセラー協会代表理事・安川雅史さん
全国ICTカウンセラー協会代表理事・安川雅史さん
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未成年が投稿した動画であっても、撮影されたスーパーや飲食店などの企業に迷惑がかかれば、何かしらの責任を負うこともあり得る。

「迷惑動画によって企業側が不利益を被った場合、億単位の賠償金を請求される可能性もあります。刑事罰を問われる場合もあるでしょう。そうなると、未成年自身の手では負えないため、保護者である親が賠償金や罰金を支払ったり、弁護士に依頼したりする必要が出てきます」

安川さんは、迷惑行為を行った本人やその家族への影響は、金銭的なものだけではないと指摘する。

本人や家族の生活に暗い影を落とす「迷惑動画」

「未成年が投稿している迷惑動画は仲間内だけで楽しむ想定なので、顔や制服が映っているものがほとんどです。そのため、一度拡散されると、誰かしらが迷惑行為を行った本人の個人情報を特定し、ネット上に流出させるという状態になることが多いのです。

本人への誹謗中傷だけでなく、親の勤め先までクレームの電話が殺到し、親が精神的に疲弊して休職したケースがあります。弟や妹がいじめの対象になってしまったことや、家族全員が罵声や嫌がらせを恐れて外出できなくなってしまったケースもあります。たったひとつの動画が、家族を崩壊させる危険性を含んでいるのです」

また、本人が大人になってから影響してくる可能性もあると、安川さんは話す。

迷惑動画の投稿は就職活動にも影響することが…(画像:イメージ)
迷惑動画の投稿は就職活動にも影響することが…(画像:イメージ)

「企業は採用活動を行う際、応募してきた学生のSNSをチェックしていると聞きます。迷惑動画を投稿した子のいる学校は入試倍率が下がる傾向があるのですが、同じような影響が企業にもあると考えると、迷惑動画を投稿した過去のある学生は社会人になっても問題行動を起こすと判断されます。その結果、採用されにくくなるのです」

将来にまで影響してしまう迷惑動画を子どもが投稿してしまった場合、親はどのように対応すればいいのだろうか。

「第一に行うべきは、謝罪です。投稿者が未成年であれば保護者にも責任が及ぶので、子どもと一緒に行うこと。迷惑をかけた人や企業、お店があれば、相手のところまで赴き、直接顔を見て謝罪をする誠意が大切です。SNSも放置せず、謝罪文を投稿しましょう。

投稿した迷惑動画の削除は、難しいところがあります。ただ、第三者にリークされた個人情報は、SNSなどの利用規約に反する可能性があるので、各運営会社に削除申請を出しましょう。個人で申請するのは大変なので、弁護士に依頼するのが一般的です」

親子で一緒に考える「スマホ利用のルール」

安川さんは、「悪気なく迷惑動画を投稿してしまう原因のひとつに、親の教育がある」と考えているという。

「子どもの写真や動画を撮り、子どもの顔も隠さずにSNSに投稿しているお父さんやお母さんがいますよね。なかには、子どもがプールで泳いでいるところ、着替えているところ、お風呂に入っているところの写真の投稿も見かけます。

これらの写真は、きっと子どもの了承は得ていないはずです。そのような親を見て育った子どもは、自分の写真や動画をSNSに投稿することに抵抗がなくなるだけでなく、他人を許可なく撮影することにも違和感を覚えなくなってしまうと考えられます。悪ふざけをした自分や友人の動画を“投稿してあげた”感覚になってしまうのです」

スマホは便利だけれど危険性を教えることも大切(画像:イメージ)
スマホは便利だけれど危険性を教えることも大切(画像:イメージ)

子どもの迷惑動画を防止するには、改めてスマホやSNSの使い方を見直す必要があるというわけだ。

「スマホは便利ですが、使い方を間違えると取り返しがつきません。利用するうえでの危険性を、しっかりと子どもに教える必要があります。

子どもにスマホを持たせるのであれば、利用するアプリを親も把握し、一緒に利用規約を読んで、内容を理解していくことが重要。そのうえで『このアプリはダメ』『このゲームはいいけど、課金は月○○円まででお小遣いから出すこと』などのルールを決めましょう。子どもの年齢に応じて、フィルタリングサービスなどで利用制限することも親の務めです」

ルールを決めるうえで大切なのは、「親もルールを守ること」。

「ルールを強制するばかりでは、子どもも嫌気がさしてしまいます。大切なのは、親がルールを守る手本を見せながら、愛情があるからこそ制限をかけているのだと伝えること。『あなたが被害に遭ったら耐えきれないから、未成年の間は制限を外せない』と、愛ある言葉で伝えてあげてください」

もうひとつ、子どもにスマホを持たせる際に、親が行うべきことがある。

「スマホにセキュリティをかけることです。子どもがSNSを利用していなかったとしても、迷惑メールに記載されたURLをタップしたためにスマホがウイルスに乗っ取られて、悪ふざけをした動画が意図せず流出してしまうことがあります。

セキュリティアプリを入れると、あやしいサイトにつながった際に『不正なサイトです』という表示が出たり、迷惑メールのURLをタップできなくなったりします。子どもを守るためにも、セキュリティは必ずかけましょう」

目を合わせたコミュニケーションが「思いやりの心」を育む

スマホ利用のルールを決めるだけでなく、親子のコミュニケーションの時間を設けることも、子どもの迷惑行為の防止につながるという。

「子どもたちは、親との何気ないコミュニケーションから、やっていいことと悪いことを学ぶものです。毎日のコミュニケーションの積み重ねで、人に迷惑をかけてはいけない、法律は守らなければいけないと、理解していきます。

例えば、子どもが靴を脱がずに、レストランのソファの上で跳び跳ねていたとします。親が注意し、ダメな理由を話せば、子どももやらなくなりますよね。しかし、親が何も言わなければ、子どもは自分が人に迷惑をかけていることに気づきません」

ニュースや同世代がかかわる問題など一緒に考えてみよう(画像:イメージ)
ニュースや同世代がかかわる問題など一緒に考えてみよう(画像:イメージ)

日々のちょっとしたやり取りが、子どもの社会性を育んでいくのだ。

「仕事で忙しい方、シングルマザー・シングルファーザーで子どもと過ごせる時間が短い方もいると思いますが、1日5分でもいいので、子どもと目を合わせて話す時間をつくってあげてください。

子どもの話を聞くのもいいですし、今回の迷惑動画のニュースのように、子どもと同世代の子がかかわる問題について、一緒に考える機会にするのもいいと思います。その時間が、子どもが人の気持ちに寄り添える人に育つための材料になるはずです」

子どもとのコミュニケーションを通して、親はどんなことを伝えていけばいいのだろうか。

「相手の立場になって考えることです。迷惑動画を撮っているほうは盛り上がっているけれど、それを見た人はどう思うか。そこを子どもにも考えさせてほしいです。自分と相手の2つの視点に立ち、こう言ったら相手はどう感じるかなと考えるクセがつくと、思いやりをもった子に育つでしょう。

SNSで歌やダンス、自分の考えを発信することは悪いことではありません。大切なのは、不快に思う人がいないか、法律を守れているかといったことを考えられるかどうか。親が手本となり、日常的に会話をして、子どもの未来を開いていってあげてください」

安川雅史
全国ICTカウンセラー協会代表理事。ネットいじめ、不登校、少年犯罪問題を専門とし、全国で講演会や研修会を実施。ネットでのトラブルやいじめをなくすため、適切な対処法をアドバイスしている。著書に『子どものスマホ・トラブル対応ガイド』(ぎょうせい)など多数。

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。