上司としては、部下を厳しく指導する時もあれば、多くの仕事を頼まなければいけない時もあるはず。しかし、その行為が「パワハラ」と受け取られてしまうことも…。だからといって、遠慮していては仕事が進まないから、悩みどころだ。

そもそも、パワハラに定義はあるのだろうか。『それ、パワハラです~何がアウトで、何がセーフか~』など、パワハラに関する著書を多く執筆している笹山尚人弁護士に、パワハラと指導の違いについて聞いた。

笹山尚人弁護士

被害者が「パワハラだ!」と感じるまでに至った“状況”がカギ

「6月1日に施行された改正労働施策総合推進法の第30条の2に、パワハラの規定が盛り込まれました。その条文をもとに、厚生労働省が定めたパワハラの定義が以下のものです」

職場におけるパワーハラスメントとは、職場において行われる(1)優越的な関係を背景とした言動であって、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、(3)労働者の就業環境が害されるものであり、(1)~(3)までの要素を全てみたすもの。(厚生労働省公式サイト『職場におけるハラスメントの防止のために』より引用)

「この定義は抽象的で、判断が分かれるところです。被害者は定義に該当すると主張するでしょうし、加害者や企業はそこまでのことはしていないと反論するでしょうね。パワハラの問題において大切なことは、定義ではなく事実です」

笹山弁護士は「被害者が『パワハラだ!』と言ったからといって、その通りになるわけではない」と話す。事実とは、何を指しているのだろうか。

「加害者の言動が、被害者の人格権を侵害していると評価できるものをパワハラと呼ぶべきです。その評価のためには、言動そのものに加え、そこに至った状況を見ていく必要があります。状況次第では、職場の人間関係上の行き違いに過ぎないと、評価されることもあります」

例えば、「お前なんか辞めちまえ」という言葉ひとつ取っても、愛情を持って親身に部下を育てる中での叱咤激励の言葉であれば、パワハラとは言えないかもしれない。しかし、繰り返される嫌がらせの果てに、最後通告のように言われた言葉であれば、パワハラと評価されるだろう。

「ひとつの言動だけを取り上げて、一発でパワハラになるということは、基本的にはないと考えていいでしょう」

パワハラの問題は一筋縄ではいかない

パワハラか指導か判断するためには、どのように状況を把握していくのだろうか。

「私たちがパワハラの問題を扱う場合は、職場の方々についての聞き取り調査を行います。職場ではどのような人間関係が築かれているか、問題となる言動は事実か、周囲の人はどう見ていたかなど、周辺環境を確認してからでないと、判断はできません」

さまざまなケースを見ていくほど、パワハラの問題は一筋縄ではいかないことを思い知らされるという。

「徐々に指導からパワハラへと変容していくケースもあり、判断は難しいです。最初は上司と部下の間で必要なコミュニケーションや業務指示だったはずが、上司の無茶な指示に部下は仕事を押しつけられているように感じてしまい、進まない業務に上司の機嫌も悪くなってしまう。その状況がさらに悪化すると、パワハラの様相になっていくことがあります」

気づかないうちにパワハラと受け取られてしまうことがあるならば、指導側に立つ人は日頃から言動を注意しなければならないだろう。

「丁寧なマネジメント」が部下との関係を良好にする

「パワハラと受け取られやすい上司によく見られる特徴は、指示に具体性がないこと。何もわからない部下は困惑してしまいますし、勇気を出して質問しても『自分で考えろ!』なんて言われたら、何も言えないですよね」

「職場の人間関係において大切なことは、部下との世代間ギャップを意識すること」と、笹山弁護士は話す。

「現在の20代や30代は、社会に出てからずっと不況なので考え方がドライですし、人との距離の取り方も、バブルを経験した50代以上とは違います。『察してくれよ』的な態度で接すると、威圧的に感じられてしまうこともあるので、世代が違うことは意識すべきところです」

“パワハラ上司”というレッテルを貼られないためには、丁寧なマネジメントを心掛けることが重要とのこと。

「部下が何を理解し、業務をどこまで進められているか、実情をきちんと把握すれば、必要な指導が自ずと見えてくるものです。行き詰まっているなら、具体的な指示をきちんと与える。困っていないようであれば、口出しせずに見守っていいでしょう」

適切な指導ができていれば、部下が不満を持つこともなく、良好な関係を築いていけるだろう。まずは、部下への接し方を振り返ってみてはいかがだろうか。

笹山尚人
弁護士。第二東京弁護士会会員、東京法律事務所所属。弁護士登録以来、青年労働者や非正規雇用労働者の権利問題、労働事件や労働運動を中心に扱って活動。著書に『それ、パワハラです~何がアウトで、何がセーフか~』『人が壊れてゆく職場~自分を守るために何が必要か~』など多数。

東京法律事務所:
https://www.tokyolaw.gr.jp/

取材・文=有竹亮介(verb)

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