「リモートワークになってから、上司がパワハラ気味になってきた」。

部下層の知人からこんな話が入ってくることが増えた。コミュニケーションのセミナー講師をやっている私としては、気になる話である。

そこで、上司のどんなところからそう感じたかを聞いてみると「メールやチャットの文章がキツくなった」、「ちょっとしたことで声を荒らげるようになった」という話だった。

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確かに部下としては不快になるだろうが、「そんなこともできないのか!」と怒鳴る典型的なパワハラとは少し様子が違う。

そして、部下層の人々が最後に言うのが「職場で対面していた時は、普通の良い上司だったのに」ということ。

日頃、部下とうまくやっていた管理職がリモートワークになって、部下にネガティブな印象を与えてしまうことが水面下で増えているようだ。皆さんは「自分はそんなことはない」と言い切れるだろうか。

なぜ、キツめのメッセージになりやすいのか

知らず知らずのうちに、部下にトゲトゲしく接してしまっているとすれば、その原因はなんだろう。

その原因はリモートワークで生まれる「イラ立ち」だ。

例えば、部下にちょっとした確認をしたい場合、いつもなら近くにいる部下に「あの件、どうなってる?」と聞けば済む。しかし、リモートワークになると、手間をかけてメール、あるいはチャットで聞かなくてはならない。

そして、すぐに返事が来ないと「この程度のことで、いつまで待たせるんだ」とイラ立つ。

また、リモートワークだと部下の様子はわからない。本当は、クレーム対応で忙殺されているのかもしれないのに、待たされると「ちゃんと仕事してるのか?」と上司の中で疑惑が生まれ、イラ立ちが増幅してくる。

最後は、チャットで「まだ?待ってるんだけど」とトゲのあるメッセージを送ってしまう。

一方で部下は、いつもなら自分の様子を見守り、待ってくれる上司から「まだ?待ってるんだけど」とだけ書かれたメッセージが来たら、そのギャップに戸惑うだろう。

リモートワーク環境での部下マネジメントはどうすればよいか

リモートワークのイラ立ちは、「部下の状況がわからないまま待たされる」ことから生まれることが多い。

だからといって、部下の状況を細かく把握する方向に行くと、状況はますます悪くなる。実際に「30分毎の作業報告メール」を義務づけ、部下をうんざりさせている上司もいるという。このように部下の状況を細かく把握しようとする上司は“マイクロマネジメント”と疎まれる。

また待たされるのを嫌い、「10分以内に返事を」といったコメント付きでメッセージを送る上司もいる。これも部下にとっては息苦しいだろう。

ではどうすればよいか。部下の状況を把握するのは、管理職として必要なことで、それ自体は問題ない。問題は頻度だ。朝、1日のざっくりした予定を上司・部下ともに伝えあう。

業務終了時は、部下にその日のアウトプットの概要を伝えてもらう、といった程度にしておいたほうがよい。

また、待たされるのが嫌なのは、部下も同様である。「上司に承認をもらって顧客に返事をしたいのに、レスがなくて困る」という状況は部下もありえる。

だから、部下だけに即レスを要求するのではなく、上司も早めのレスをするようにする。具体的には、「お互い30分以内のレスをするようにしよう。それより時間がかかるようなら、レスの目安時間だけでも伝えよう」というルールにしてはどうだろうか。

リモートワークでの叱り方

そして、リモートワーク環境で部下を叱るというのはとても難しい。部下は、対面している状況で、穏やかに「今後は、気をつけて」と言われるのと、メール文などで「以後、気をつけるように」と書かれるのでは、受けるショックが大きく異なる。

また、上司がZOOMなどのwebミーティングツールで部下のミスの報告を聞くような場合、肝心なところで、部下の声がブツブツ途切れると、イラ立って「えっ、聞こえない。もう一度言って」と強い口調で言ってしまう。そして、その後の叱りもいつもより強くなってしまう。

こういうことの積み重ねも、部下が「リモートになって上司は変わった」と思ってしまう原因になる。

とはいえ、上司としてきちんと注意しなくてはならない場面はある。では、どうすればよいか。

こういう場合、問いかけを中心にした会話にしたほうがよい。「今回のミスの原因は何だと思う?」「今後どうしたら防げると思う?」というようにソフトに聞く。

たとえ部下の話の中に言い訳が混ざっていても、それは受容的に聞く。聞いているうちに部下は素直になっていき、最終的に、本人自身が納得できる再発防止策を作って、実践する可能性も高くなる。

このようなやりとりには、メールやチャットは向かない。相手の反応がつかみにくいからだ。できれば表情の見えるwebミーティングツールで、次善の策としては口調から反応がつかめる電話を使おう。

普段は良き上司だと思われているような人が、「リモートでパワハラになった」と部下に思われるようなことは避けたい。自分の中に生じる“イラ立ち”を受け止め、明日からのリモートワークにつなげていってほしい。

株式会社ヒューマンテック代表取締役の濱田秀彦さん
株式会社ヒューマンテック代表取締役の濱田秀彦さん

執筆:濱田秀彦
株式会社ヒューマンテック代表取締役。マネジメントやコミュニケーション研修講師として階層別教育やプレゼンテーション、話し方などの分野で講演活動を行う。主な著書に『あなたが上司から求められているシンプルな50のこと』(実務教育出版)や『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(実務教育出版)など

『あなたが部下から求められているシリアスな50のこと』(実務教育出版)
プライムオンライン編集部
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