もしも余命1年と告げられたとしたら…。静岡県立吉原工業高校の体育教師で剣道部の顧問を務めていた榛葉達也さん。2023年2月でがんと宣告されてから1年が経った。目標としていた1年での復職を断念せざるを得ない状況になっても「前へ進む」という思いが揺らくことはない。
31年間で一番成長できた1年

榛葉 達也 さん:
がんだと分かった時に、1年後のきょうをこういう形で、体調面や気持ちもそうですけれど、こういう日を迎えるということは、まったく想像がつきませんでした。率直にうれしい気持ちと、安心したというか、良かったなと言う気持ちです

ステージ4のスキルス胃がんと闘う榛葉達也さん、31歳。2023年2月16日。余命宣告からちょうど1年を迎えた。

榛葉 達也 さん:
間違いなく自分が今まで31年間生きてきた中で、一番成長できた1年であり、一番いろいろなことを考えさせられる1年だったと思います
家族の存在と高校教師であり続けること

憧れだった教師になり、生徒たちと向き合ってきたが、2022年2月にがんが発覚し休職。
「与えられた環境の中でも必ずできる事がある。」闘病中に感じたことを伝えたいと講演活動を始め、すでに20回を超えている。

がんと闘う中で気づかされたのは、自分らしく前向きに生きることの大切さや、周りの人の支えの大きさだ。

榛葉 達也 さん:
私の場合は家族の存在と高校教師であり続けるということ、これを自分の中心に置いて、いま生活しているんですけれど、そういうものがあることで何が良いか、ブレずに自分らしくいられるということもそうですが、なによりも何か自分が頑張ろうと思った時の原動力になるなと。自分の夢や目標が少しでも叶うように、少しでもその確率が上がるために、そこに自分の時間を使う。それが本当の意味で時間を大事にするということ。私はそう考えています

高校での講演後には、生徒たちからの相談にも真剣に向き合っている。
生徒:
いまサッカーやっています
榛葉さん:
サッカー、めちゃくちゃ強いじゃん、浜名は
生徒:
小学校と中学校で全国に出られるくらいのレベルでやっていたんですけれど、中学校ではなかなか出れる機会には恵まれず、いま自分は何をやっているんだろうと思うことが多くて…
榛葉さん:
「これだけ頑張って意味あるのかな」と思う時があると思う。でも必ずチャンスは来ると思う、試合で使われるとか。ほんとボロボロになるまでやって、その時に良かったなと思える日が来るんじゃないかな、がんばって
生徒:
2023年は自分が全国大会に出ているので見ていてください
榛葉さん:
おお、見ておくから
自分以上に苦しむ妻の思いに応えたい

2022年12月24日。榛葉さんは家族と過ごしていた。
例年、部活動の指導や遠征などが重なっていた榛葉さんにとって、図らずも自宅でゆっくり過ごせるクリスマスイブとなった。
ただこの頃、榛葉さんの体には異変が起きていた。

榛葉 達也 さん:
体調は…お腹だけですね。あとはもう凄く良いですけれど。お腹の張りだけ、ちょっとやっぱり気になるというか。張りが強くなっているので、日に日に。そこが心配だなって

とは言え、榛葉家にとって激動の1年の終わりを家族3人で迎えられたことは大きな喜びだ。

妻・美咲さん:
まず1年、ちょっと早いですけれどクリアできたから。もう1年でなく、2年先を見て榛葉達也らしくそのまま過ごしてもらえればいいかなって。榛葉家もそれについていきます

榛葉 達也 さん:
妻に関しては多分、私が病気と知ってからきょうまで、一度も安心できる時間がないというか。ずっと私のことを気にかけて、本当に心が休まらない時間を過ごしてきたと思うので、まずは凄く申し訳ないというか、私以上に苦しんでいるんだろうなという思いがあります。そしてそういう思いに応えるためには、病気を少しでも良くさせること
あらたな抗がん剤による治療開始で…

年が明け、榛葉さんのがんとの闘いは新たな段階に。
腹水が急激に増えてしまったため、これまでとは別の抗がん剤による治療が始まった。

しかし、副作用により白血球が減少し、治療が出来ないこともしばしばある。
また、脱毛の症状も出始め、1月には丸刈りにすることを決断した。

榛葉さん:
軽っ!見慣れない?
妻・美咲さん:
全然、別になんとも思わない。意外と似合うじゃんって思ってる
榛葉さん:
すごい誉め言葉だけど、それは
新年度からの復職断念も「ここから」

2023年2月10日。榛葉さんが訪れたのは県教育委員会のある静岡県庁だ。
榛葉 達也 さん:
出来ればもう一度教壇に立ちたいということを今でも思っているんですけれど、そういう気でいたんですけれど、薬が変わったタイミングで、先の見通しが立たなくなったというか
2023年度から復職するという目標も、ひとまず諦めることにした。

県教育委員会 高校教育課・中山 雄二 課長:
元気になってお帰りになっていただくことを我々としても期待しておりますので、ぜひよろしくお願いいたします。かといって焦らずにということで

それでも一家の大黒柱として、一人の教師として、何を残し、何を伝えることが出来るのか。 この1年で得た気づきを糧に前に進むという意思が揺らぐことはありません。

榛葉 達也 さん:
やっと過ごしたこの1年間が、自分の行動で偽物になってしまうというか、空虚なものになってしまう、それが一番嫌だなと思うので。ここで本当にどれだけ今までやってきたことを変わらずできるか、それが勝負だなと言うか、そこで出来て本物だなと思うので。自分が講演でいろいろな人に言い続けてきたこととか、自分がずっと心の中に思って生活してきたこととか、そういうものを本当に証明するのはここからなのではないかなと思っています
(テレビ静岡)