思春期の子どもが入院した時、居場所となれる空間を作りたい。クラウドファンディングで「思春期ルーム」作る試みが反響を呼んでいる。

挑戦しているのは、群馬大学医学部附属病院(群馬県)の小児病棟。県内の中心的な小児医療機関で、2022年は500人以上の入院患者を受け入れ、その半数以上が12歳~18歳ごろの子どもという。

こうした中で課題となっていたのが、思春期世代の入院患者の居場所をどう作るか。小児病棟には、幼少児向けのプレイルームはあったが、10代向けの環境は用意できていなかったという。

子どもたちはベッドの上で過ごしていた(画像はイメージ)
子どもたちはベッドの上で過ごしていた(画像はイメージ)
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患者には慢性疾患などで長期入院する子どもたちもいるが、一日の多くの時間を、カーテンが引かれたベッドの上で過ごすのが実情だという。

“子どもたちが自分らしく過ごせる部屋”の設置をクラファンで募集

そこで小児病棟が目指したのは、10代の子どもたちが自分らしく過ごせる空間を作ること。

思春期ルームの設置を目指した(クラウドファンディングの募集ページより)
思春期ルームの設置を目指した(クラウドファンディングの募集ページより)

遊びや勉強のために使える「思春期ルーム」(仮称)を病棟内に設置することを目指して、クラウドファンディングサイト「READYFOR」で2023年2月2日にプロジェクトを立ち上げ。ルーム内に名前や企業名を掲示することなどを返礼として、寄付を呼び掛けることにしたのだ。

2月22日時点で、1500万円以上の寄付が集まっている(クラウドファンディングの募集ページより)
2月22日時点で、1500万円以上の寄付が集まっている(クラウドファンディングの募集ページより)

これが反響を呼び、2月7日には第一目標の800万円を達成。家具や備品の購入費用などに向けた追加の目標額も達成するなど、既に1500万円以上の寄付が集まっている。(2月22日時点)

寄付者も560人以上にのぼり、「全ての子供たちが、穏やかに過ごせますように」「この取り組みが成功し全国に広がっていきますように」などの応援コメントも寄せられている。

参考イメージ:大阪母子医療センター 青少年ルーム(クラウドファンディングの募集ページより)
参考イメージ:大阪母子医療センター 青少年ルーム(クラウドファンディングの募集ページより)

入院する子どもは「当たり前のことができない」悩みを抱えている

子どもたちは闘病生活をどう過ごし、思春期ルームにはどんな役割を期待しているのだろうか。クラファンの発起人で、群馬大学大学院医学系研究科小児科学分野の滝沢琢己教授に聞いた。


――思春期ルームの設置を目指した経緯を教えて。

思春期ルームは欧米の病院にはありますが、日本ではほぼ普及していません。ただ、国内でも数カ所はあると聞いて、数年前から設置したいと考えていました。しかし、病院の医療機器は更新に数千万円かかることもあるため、思春期ルームのような案は難しいところもあります。入院する子どもたちのために早く作りたいと思い、クラウドファンディングで募集してみようと思いました。

海外の思春期ルームの例(クラウドファンディングの募集ページより)
海外の思春期ルームの例(クラウドファンディングの募集ページより)

――10代の入院患者はどのように過ごしている?

病院の隣には患者向けの学校があり、3週間以上入院する場合は転校して通うこともできます。ただ、普通の時間はほぼ病棟のベッドの上で過ごしています。子どもたちからは「机があるところで勉強したい」「放課後に友だちと話すなど、当たり前のことができない」といった声を聞いています。

子どもたちの声(クラウドファンディングの募集ページより)
子どもたちの声(クラウドファンディングの募集ページより)

――病院だとできない、しづらいことは多い?

重症で寝たきりでしたり、苦しんでいるお子さんもいますので、どうしても静かにしなければいけないところがあります。今回の思春期ルームでは、防音環境を整えるようなこともして、少し元気にはしゃげるような場所にできないかとも考えています。

一瞬でも自分の病気を忘れられる空間を作りたい

――思春期ルームはどんな感じを想定している?

4人部屋の病室を改装して35平方メートルほどの部屋にし、2024年の3月までをめどに作る予定です。病室は白い壁や床で無機質な印象があるので、壁紙などを変えるほか、室内にはソファや勉強机、本棚やテレビ、ダイニングテーブルなどを設置予定です。みんなでゲームをしたり、落ち着いて勉強できる空間にできればと考えています。可能ならギターやピアノも設置できればと考えています。

思春期ルームのレイアウトイメージ(クラウドファンディングの募集ページより)
思春期ルームのレイアウトイメージ(クラウドファンディングの募集ページより)

――子どもの対象年齢などは決まっている?

12歳以上の子どもを対象に考えています。もちろん、全ての年齢でそれぞれにあった居場所は必要ですが、思春期は病気がなかったとしても、多感な時期でその後の人生にも影響を与えると思います。入院によって、その後の生活で不利にならないよう、サポートできればと考えています。


――子どもたちにはどんな影響を期待したい?

私たちの小児病棟には難病で入院される方が多いです。入院時は不安な気持ち、将来の心配でいっぱいだと思います。そうした中で素敵な部屋があることは、心の励ましにもなると思います。

入院生活中、病気のことだけを考えて闘病するのは好ましくありません。一瞬でも、自分の病気を忘れて友達とワイワイ過ごせる。あるいは静かに勉強したり本を読める。普段の生活に近いことができることで、子どもたちの心理的な発達をサポートできるのではと思います。

思春期ルームの周知や拡大につながれば

――クラファンに多くの寄付が集まったが、受け止めを聞かせて。子どもたちの反応は?

非常にうれしいです。予想以上の寄付に加えて、500人以上の方に賛同をいただけたことで、私たちも励まされました。入院されるお子さんやそのご家族は、気持ちが落ち込まれることも多いと思いますが、今回の反響を知っていただければ、気持ちのサポートになるとも思います。子どもたちからも、入院生活が「良くなるんじゃないかな」といった反応を聞いています。

2月22日時点の目標金額(クラウドファンディングの募集ページより)
2月22日時点の目標金額(クラウドファンディングの募集ページより)

――この機会を通じて伝えたいことはある?

寄付いただいた方の気持ちが、子どもたちや保護者に伝わる部屋を作り、想いをつないでいければと思います。私たちの取り組みが、思春期ルームの周知や拡大にもつながればと思います。



第一目標に到達していることから、2024年の3月までをめどに「思春期ルーム」を作る予定で動きだすことになるが、今回のプロジェクトは3月31日まで募集しており、現在は、より充実した部屋にするために第四目標(2500万円)の達成を目指している。
小児病棟では子どもたちの意見も聞き、思春期ルームの正式名称や内装を検討するという。闘病する子どもたちの居場所を作る取り組みが、全国的に広がっていくことを期待したい。

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プライムオンライン編集部
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FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。