側溝のそばでたたずむカモ...下からは鳴き声が
春から初夏にかけてみられる風物詩の一つが、カモの親子が街中を練り歩く姿。
この行動は“カモの引っ越し”と呼ばれ、卵から孵ったばかりのヒナを外敵から守り、育てるための餌を確保するためのものだと言われている。
親子が行列となって歩くのは微笑ましい光景だが、その道中は危険が絶えない。人工物などが障壁となり、引っ越しの途中で脱落するヒナもいるという。
そんなヒナたちを窮地から救った出来事が、人々の感動を呼んでいる。
「側溝に落ちたと思われるカモのヒナたち10匹を助けたい。どなたかこの蓋を開ける術をご存知の方、情報をいただけませんでしょうか?今日は日曜のため市役所が休みのためTwitterにてSOSをアップしました。」
側溝に落ちたと思われるカモのヒナたち10匹を助けたい。どなたかこの蓋を開ける術をご存知の方、情報をいただけませんでしょうか?今日は日曜のため市役所が休みのためTwitterにてSOSをアップしました。 pic.twitter.com/QKAoOhp8eD
— 中川賀之 Kazuyuki Nakagawa (@nakagawakazuyu) May 24, 2020
5月24日、Twitterで助けを求めたのは、社会人サッカーチーム「水戸ホーリーホックC&L」のコーチを務める、中川賀之(@nakagawakazuyu)さん。コメントとともに、側溝のそばでたたずむカモの姿が添付されていた。
そして側溝から聞こえてくるのは...「ピヨピヨ」というヒナの声!そう。側溝に落ちたと思われるヒナと、そのそばで心配気な様子を見せる母カモに遭遇したのだ。
こうした時に力を結集するのがSNSのいいところ。この投稿を見た他のTwitterユーザーは、ヒナを助けようと続々と反応。側溝のフタを開ける方法や関係各所への連絡方法など、さまざまなアイデアやアドバイスが寄せられた。
その後、側溝のフタはたまたま近くを通った人の協力で開いたが、中川さんはカモ親子を安全な近場の池に送り届けようと、ここからさらに行動を起こす。
段ボールにヒナを入れて母カモを誘導…池のほとりで再会
その移動方法とは、ヒナの鳴き声で母カモを誘導するというもの。
まずは、救出したヒナを小さな段ボール箱に入れ、それを中川さんが持って運ぶ。かわいらしいヒナの鳴き声を母カモに聞かせながら、安全な場所まで誘導しようとしたのだ。
だが、この作戦も簡単にはいかない。最初に試みたときは途中でヒナの鳴き声が止み、母カモがヒナが落ちていた側溝の場所まで戻ってしまったという。振り出しに戻っても中川さんは根気よく、中腰の状態で、ときにはヒナの鳴き声の真似もしながら誘導を続けた。
そして夕日が沈みかけたころ、親子は近場の池に無事到着!水辺で段ボール箱を開けると、ヒナは母カモに歩み寄り、再会を喜ぶかのようにそろって池で泳ぎ始めたではないか。中川さんによると、この池には父カモとみられる姿もあったという。
一連の投稿を見た他のTwitterユーザーからは、「助けてくださってありがとうございました」
「ヒナ達がお母さんとお父さんのもとに無事帰れて良かったです」などと、親子が再会できたことを祝福するとともに、中川さんの行動やアイデアを称賛する反応が相次いだ。
なかなかできることではないが、なぜ段ボールでヒナを運ぼうと考えたのか。当日の救出までの詳しい状況を中川さん本人に伺った。
発見した瞬間に「助けなきゃ」と思った
――カモの親子を助けることになった経緯は?
5月24日は自宅近くで嫁、娘、私の3人で自転車の練習をしていたのですが、午後5時30分頃、自宅へ戻ろうとした時に母カモを発見しました。様子がおかしいと感じ、近くから「ピヨピヨ」という鳴く声も聞こえたので、辺りを探していると側溝の中にいるカモのヒナを発見したんです。その瞬間に「助けなきゃ」と思いました。
――側溝からヒナをどのようにして助け出した?
最初は私一人で側溝を持ち上げようと試みましたが、開かなかったため、バールのようなもので開けようと思いました。ですが、近くの公園事務所やお店は閉まっていて、開ける道具が見つかりませんでした。私の所属する水戸ホーリーホックも忙しく、対応できませんでした。
日曜日で市役所も閉まっていたので、ツイッターで助けを求めようと思い、あの投稿をアップしたんです。そうしたところ、近所の人がたまたま通りかかり、側溝のフタを開けてくれました。どうやら開け方にコツがあるようです。そこからヒナを段ボール箱に入れました。
――ヒナを段ボール箱に入れて運んだのはなぜ?
さまざまな理由からです。野良ネコがヒナを狙っていましたし、移動中にヒナが事故に遭うリスクを避けたかったのもあります。安全な池に誘導したいという思いもありました。
――母カモはどうやって誘導した?中腰の理由は?
ヒナを1羽ずつ、段ボールに入れているのを見せてから誘導しました。中腰だった理由は、母カモにヒナの姿を見せたかったり、鳴き声を聞かせたかったためです。母カモを心配させたくありませんでしたし、誘導しやすくなるとも考えました。
池までは徒歩5分も...誘導には30分以上かかった
――カモの親子はどんな場所に離した?そのときの様子は?
近所の池に誘導しました。側溝からは大人の足で徒歩5分ほどの場所ですが、カモの親子を誘導したときは30分以上かかりましたね。池に着いたときの様子ですが、到着してすぐに母カモが池に飛び込みました。そこにいたカモたちが母カモに寄ってきてましたね。
続いて、母カモが私たちのところに戻ってきて、段ボールの前で待機したので、段ボールを開けてヒナを母カモの元に帰しました。
――カモの親子が再会したときは、どんな気持ちでしたか?
無事に戻れてよかったね。再会できてよかったね。待たせてごめんねという気持ちでした。
――中川さんの行動が反響や感動を呼んでいるが、思うことはある?
自分は特別なことはしていません。親をはじめ、今まで支えてくれた人やサッカーから学んだことが普段の行動に出ただけです。反響は一緒に池まで行ってくれた家族、私のツイートに反応してくださった数え切れないほどの多くの方々、そして家の前に居たカモ親子のおかげだと考えています。全ての方々に感謝を伝えたいです。
感動を伝えられたことに関しては、私が伝えたのではなく、ツイートに反応した一人一人のリツイート、リプライなどによってニュースなどに取り上げられたためです。一人の小さな力でも結集すると、大きな感動が生まれることを実感しています。
――Twitterの反応で、救出に役立ったアイデアや意見などはあった?
救助に直接役立ったものは特にありませんが、「感動した、涙が出た、ありがとう」などの反応が多く届いたことに驚きました。私自身は感動させよう、感謝してもらおうといった狙いは全くなく、助けを求めたので報告義務があると思いツイートしていただけでした。日本の皆さんが今回の出来事で少しでも癒されたり、心が温まったのではないかとうれしく感じています。
――このほか、伝えたいことはある?
私の所属する水戸ホーリーホックは社会貢献活動の一環として、小・中学生に道徳的なメッセージを伝える活動に取り組んでいます。まだ周知が行き届いていないところもありますが、今回の反響をきっかけに、大切なことを一人でも多くの小・中学生に伝えたいと思います。
最後に、新型コロナウイルスで世界最大級の影響を受けている、南米「エクアドル共和国」の支援活動について触れさせてください。エクアドルは私がプロサッカー選手としてのキャリアをスタートした地ですが、現地の友人からはSOSも届いています。
困っている人たちを助けたいという気持ちはここでも同じで、私は現地の人々に食糧支援をする活動に携わっています。「ハチドリのひとしずくプロジェクト」というので、こうした活動があることを知っていただければ幸いです。
今回助けられたヒナたちにはすくすく成長してほしいと願うばかりだが、新型コロナウイルスでつらい状況が続くこんなときだからこそ、中川さんの行動や考え方を見習いたいものだ。
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