最大の理解者がトランプ氏に反旗

ドナルド・トランプ前大統領の最大の理解者と言われていたジャーナリストが、「2020年の大統領選挙がイカサマだったとは1秒たりとも信じたことはない」と法廷で供述して前大統領の主張を根底から否定した。

これでマスコミ界でトランプ前大統領の立場を支持する有力なジャーナリストはいなくなり、来年の大統領選にカムバックを賭ける前大統領は文字通り「孤立無援」になった。

トランプ前大統領
トランプ前大統領
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そのジャーナリストとは、フォックス・ニュースで午後9時(東部時間)から1時間のニュース論評番組の司会を週5日している他、ラジオでも全米に配信される3時間のトークショーの司会をしているショーン・ハニティー氏61歳で、保守派の論客として知られる。

ショーン・ハニティー氏
ショーン・ハニティー氏

トランプ前大統領の「MAGA(アメリカを再び偉大に)」という訴えに共感してテレビやラジオで支持を表明するだけでなく、前大統領の遊説に同行して演壇から応援演説をしたこともあった。(2018年11月5日)

中間選挙で状況が一変…

「ハニティー氏はトランプの代弁をしている」とよく言われたが、米国の全国紙『USAトゥディ」は逆に、トランプ氏がハニティー氏を代弁していると2019年3月8日に次のような見出しの記事を掲載していた。

『ドナルド・トランプ大統領かショーン・ハニティー大統領か? フォックス・ニュースの司会者は危険な影響力がある』

ある意味でトランプ政権の「支え棒」のような存在だったわけで、2020年でトランプ前大統領が敗退した後も復帰を促す論評を伝え、昨年11月の中間選挙でも「共和党が大勝する赤い(共和党の色)津波が起こり、それに乗ってトランプ再選のうねりが始まる」と檄を飛ばしていた。

ところがその中間選挙で共和党が苦戦し、それもトランプ前大統領の推薦した候補者が落選して全挙戦の「足を引っ張った」と言われるようなことになって状況が一変した。

それまでトランプ前大統領を支持してきた保守系のマスコミが一斉に背を向け始め、ハニティー氏の去就が注目される中での今回の供述になった。

それは2020年の大統領選で使われた投票機のメーカーがフォックス・ニュースを名誉毀損で訴えた裁判でのことで、先月 21日デラウエア最高裁で行われた審理に証人として喚問されたハニティー氏は、宣誓の上「この投票機を使って選挙のイカサマが行われたと思うか」と問われ、冒頭のように否定する供述をしたのだった。

トランプ前大統領は、2020年の大統領選挙ではさまざまなイカサマが行われたと主張し、現在議会から刑事訴追を求められている2021年1月6日の議会襲撃事件もそれなりの理由があり議会の告訴は「魔女狩りだ」と反論している。しかし、ハニティー氏の供述でこの主張を支持するものは米国の有力マスコミの中にはいなくなった。

トランプ氏とハニティー氏
トランプ氏とハニティー氏

ハニティーはこの供述についてこれまで何も説明していないが、フォックス・ニュースはオーナーで「メディア王」とも呼ばれるルパート・マードック氏がトランプ前大統領を支援しないよう指示したと伝えられている。

いずれにせよ、トランプ前大統領はいち早く2024年の大統領選に立候補を表明したが、その後「議会襲撃事件」にからんで特別検察官の捜査が始まったり、自身が経営する企業が脱税や詐欺で有罪判決を受けたり不利な状況に追い込まれるばかりで、6日に予定していた念頭の記者会見も中止してしまった。

そうした折に、最大の理解者だったハニティー氏の離反は致命的ともいえ、今後選挙戦を続けられるのかどうか疑問視する声もワシントンでは上がり始めているようだ。

『6週間経ち、ドナルド・トランプの破滅的な選挙運動は支持を消滅させつつある」(タイム誌電子版12月29日)

【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。