年末記事に「アナス・ホリビリス」
今年も押しつまり世界のマスコミがこの一年を振り返っているが、欧米の記事の多くに「アナス・ホリビリス(annus horribilis)」というラテン語が使われていることに気付いた。
「今年は紛れもなく『アナス・ホリビリス』だった」(欧州議会機関紙「シンク・タンク」)

「米連邦準備制度は再び『アナス・ホリビリス』をもたらした」(米ニュースサイト「リアルクリア・ポリティクス」)
「2022年を振り返ると『アナス・ホリビリス』だった」(独ZDFテレビ番組「プリズマ」)
「2022年がラテン・アメリカにとって『アナス・ホリビリス』だったと言っても誇張ではない」(ベネゼラ日刊紙「エル・ナシオン」)
「2022年は英国にとって『アナス・ホリビリス』であり、金融機関がビジネスリスクを管理するためのより優れたツールを必要としていることが証明された」(英経済サイト「AltFi」)
辞書によれば「アナス」は「年」、「ホリビリス」は「最悪、恐ろしい」とある。つまり2022年は「最悪の年だった」ということで世界各国の見方が共通しているということだろう。
故エリザベス女王の引用で有名に
この言葉ラテン語の慣用句だそうだが、1992年11月24日に英国の今は亡きエリザベス2世女王が戴冠40年の記念式典で行った演説に引用したことで有名になった。

「1992年という年は、純粋に喜びを持って振り返ることができません。私の身近の文通相手はそれを『アナス・ホリビリス』と表現したのです」
この年女王の次男のアンドリュー王子がセーラ夫人のスキャンダルから別居したのに続いて長女のアン王女が離婚し、ダイアナ妃の暴露本が出版されてチャールズ皇太子と別居が発表される中で、居城のウインザー城が火災でひどい損傷を受けるという女王にとって文字通り「ホリビリス」な出来事が続いたのだった。

日本でも「ホリビリス」な出来事続く
今年はコロナウイルスの汚染に歯止めがかからず、ウクライナではロシアの侵攻で泥沼の紛争が続き、その余波でエネルギー需給が破綻して世界の多くの人が暖をとることもできない冬を送っている。

加えて、この表現を世界的に認知させた英国のエリザベス女王が崩御されるという不幸があった。さらに、日本でも安倍晋三元首相が選挙の応援演説中に狙撃暗殺されるという前代未聞の事件が起こり「ホリビリス」を身近に経験した。

この表現の反意語は「アナス・ミラビリス(annus mirabillis)」というのだとか。「素晴らしい年」と訳すようだが、ウクライナ紛争の先行きも見えず、また英経済紙「ジ・エコノミストによれば「2023年に世界的な景気後退が起きるのは必然」と暗い見通しばかりだ。それでも何とか「ミラビリス」と言えるようになって欲しいと願うばかりだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】