米国の中間選挙は様々な波紋を残したが、その中でも記者会見で大統領がCNN記者を「フェイクニュース」と罵り、その後この記者のホワイトハウスへの入構証を取り上げことが問題となっている。当コラムが「ノン・フェイクニュース」を標榜する以上はこの問題を避けて通れないと思って今回取り上げる。

CNN記者「あなたに挑戦したい」

会見でトランプ大統領に質問するCNNのジム・アコスタ記者
会見でトランプ大統領に質問するCNNのジム・アコスタ記者
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その経緯は日本のマスコミでも詳しく伝えられているので省略するが、注目すべきは問題のCNNのジム・アコスタ記者の第一声だった。

「ありがとうございます大統領、私は大統領が中間選挙終盤で『移民キャラバンは侵略だ』と発言したことをめぐって貴方に挑戦したいと思います」
 

“質問”か“議論”か

 
 

これに対してトランプ大統領は「私はそう考えている」と答えたが、アコスタ記者は「キャラバンは侵略ではありません。移住者のグループが中米から米国に向けて移動しているだけなのです」と反論して大統領に食い下がった。

大統領は「君と私は意見が違うということだ」と跳ね返したのに対してアコスタ記者はなおも大統領に議論を吹きかけ、うんざり顔の大統領が指示して女性の研修生がマイクを取ろうとした時アコスタ記者がその手を払ったのが「暴力行為」だったとして入構証を取り上げられたのだ。

アコスタ記者からマイクを取り上げようとする女性
アコスタ記者からマイクを取り上げようとする女性

ホワイトハウスの記者団は直ちに抗議声明を出し、マスコミの多くが大統領を批判したが、どちらかと言えばおざなりの抗議や批判のように思えた。
 

ホワイトハウスの記者団
ホワイトハウスの記者団

というのも、アコスタ記者はかねてホワイトハウスの記者会見で当局側に議論を吹きかけて会見を脱線させるようなことがしばしばあったからで、一時噂された記者会見のボイコットも忘れ去れた形になっている。

「記者は批判する相手に叩き返される棒を与えてはならない」

そうした中で、トランプ大統領に好意的なFOXニュースでも良識派として知られるベテランのクリス・ウォレス記者はツイッターで「アコスタの振る舞いは恥ずべきものだった」と批判し、後にテレビでも次のように語った。

「アコスタ記者は質問ではなく議論をふっかけていた。彼は同じ質問を繰り返し他の記者の質問の機会を奪っていった。合衆国大統領は彼に「座れ」と言ったのに彼は拒否した。記者は結束しなければならないものだが、アコスタを支持する気にはなれない」

ウォレス記者も同業者としてその指摘には遠慮もあったように思えるが、マスコミ研究で知られる組織「ポインター」はそのニュースでより厳しい批判を繰り広げた。

「我々はジャーナリストが真実を追求するために質問することを求める。しかし記者会見でのアコスタ記者の場合は質問ではなく、意見を陳述するものだった。 そうすることによってCNNの記者はトランプ大統領に彼の職業的成熟度を疑わせるような隙を与えてしまった。(中略)これは大統領を弁護するものではない。ただ記者が批判する相手には叩き返されるような棒を与えてはならないということだ」

アコスタ記者はトランプ大統領に「挑戦」して、ものの見事に跳ね返されたということではないのか。

(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)
(イラスト:さいとうひさし)

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。