自民党の佐藤正久元外務副大臣は11日、フジテレビ系『日曜報道 THE PRIME』(日曜午前7時30分)に出演し、防衛費増額に向け、岸田文雄首相が1兆円強を増税で賄う方針を打ち出したことについて、「防衛力(強化)の中身を(国民に)説明する前に増税と言うのは順番が違う」と批判した。

佐藤氏は、「(防衛力強化で)戦い方がガラッと変わる。そのことをまず(国民に)説明したうえで、それではどういう手だてで財源を確保するのか。歳出改革も剰余金(の活用)もある。どのくらい足りないので増税(したい)と。手順が必要だ」と指摘した。

ジャーナリストの櫻井よしこ氏は、「岸田首相が安倍晋三元首相もできなかった防衛費増加を約束して、実際に踏み切ったことは高く評価する」としつつ、この段階で増税方針を示したことについて、「政治的に拙いやり方だ」と断じた。

櫻井氏は5年先の増税の話をすることで、企業の設備投資や賃上げへの意欲を冷やすことになる、との見方を示した。

一方、スペインを拠点とする人権団体が、中国の警察当局が東京・千代田区や愛知・名古屋市を含む世界各地に「派出所」を設置していると公表したことについて、佐藤氏は、「周知の事実だ。公安部だけでなく、共産党中央統一戦線工作部、退役軍人事務部、人民検察院が海外に拠点を置いている」と述べた。

これに関し、番組レギュラーコメンテーターの橋下徹氏は、日本国内で外国による違法な情報収集活動を取り締まるための法整備の必要性を訴えた。

また、富山市や静岡・裾野市などで保育士による園児虐待事案が相次いでいることに関連して、櫻井氏は、保育園などに預けず自宅で0~3歳児を育てる保護者に「毎月20万円を支給する」案を披露。

橋下氏も「大賛成だ」と応じ、実現させたい考えを示した。


以下、番組での主なやりとり。

松山俊行キャスター(フジテレビ政治部長・解説委員):
中国警察の「海外派出所」とみられる施設が東京都内にも存在しているとの指摘がある。
中国警察が日本国内で活動しているかもしれない状況について、日本政府はどこまで実態解明に乗り出しているのか。

佐藤正久氏(自民党参院議員・元外務副大臣):
公安を中心に動いているのは周知の事実だ。スペインに拠点を置くNGOの報告書は、中国の地方の公安部が海外に警察拠点を置いていると指摘しており、東京と名古屋の地名もある。実際は公安部だけではなく、共産党中央統一戦線工作部、退役軍人事務部、人民検察院などが海外に拠点を置いている。

橋下徹氏(番組コメンテーター、弁護士、元大阪府知事):
情報を収集する機関を他国に置くことは世界各国がやっている。日本はこれから防衛強化に向けて防衛費を増額するが、情報がないと防衛などできない。中国人だけでなく、日本人に対しても脅迫をしているのは言語道断だ。本来、日本もこれから海外で情報収集活動をやっていかなければならない。今回の事例だけでなく、他国が日本国内でやっているスパイ活動、違法な情報収集活動に対しては、きちんと対処できるような法律が必要だ。防衛予算を増額するだけではなく、そこがものすごく重要だ。

佐藤氏:
それに関して今、ワーキングチームで検討しているが、法律はまだない。陸海空自衛隊で認知戦を含む情報部隊を強化する方向性を今回打ち出す。しかし、その基盤となる法律がないため限界がある。現場は法律内で対応するが、やはり限界があるのは間違いない。

橋下氏:
今回の中国のこういう活動に関して、きちんと対応できるような法律をつくるべきだ。

櫻井よしこ氏(ジャーナリスト、国家基本問題研究所理事長):
中国がこの公安活動とともにやっているのは、まさに三戦だ。輿論戦、心理戦、法律戦だ。例えば、先月、台湾の統一地方選挙で蔡英文総統率いる対中強硬派の与党・民進党が大敗したが、前回20年の総統選挙時には1年間で約14億回のサイバー攻撃が行われた。今回、選挙時の回数はまだわからないが、それ以上のものがあってもおかしくない。日本でも今後、サイバー攻撃に関するルールが変わると思うが、われわれだけがおとなしくしていれば世界はいいのだという考え方は、もうまったく通用しない。積極的にヒューミント(人的諜報)で情報を取りに行く。中国警察の日本国内での活動に対しては明白な国家の意思を示し、「許さないよ」という立場に立たないといけない。

佐藤氏:
三戦のほかに、今回の安保3文書改定で議論しているのは、AI(人工知能)を使った「知能化戦」。そして、相手の認知領域に入る「認知戦」の部分まで対応しないと(国民を)守ることができない。防衛研究所が中国の認知戦、知能化戦のレポートを出したが、そういう領域まで入っていかないといけない。それは防衛省だけでできる話ではなく、政府全体で司令塔をつくって対応しないといけない。それについて、今回の3文書改訂でできるだけ書き込もうとしている。

櫻井氏:
中国には面白い言葉がある。中国は「制海権」を取り「制空権」を取って、他国の領土を侵そうとしている。制海権、制空権を取るには情報をコントロールしなければならないから「制情報権」という言葉が生まれた。そして、それがさらに深化して、制情報権だけでは足りないと、人間の頭脳までもコントロールできるようにならなければいけないということで、中国で今使われているのは「制脳権」。制脳権を確立するということ。彼らの情報戦はものすごく徹底している。ありとあらゆる分野で、その国の政治家、ビジネスマン、国民を中国の思うような行動に向かわせるという意味で「制脳権」。恐ろしい時代に入っている。

松山キャスター:
その中国に対して今後、日本はどういう対応を取るべきか。今行われている防衛3文書改訂でどういう文言で中国が表現されているか。

梅津弥英子キャスター(フジテレビアナウンサー):
年内に改定が予定されている国家安全保障戦略の原案で、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記されている。「国際社会の懸念」と記した2013年の文書と比べて強い表現が用いられている。

岸田首相(10日 記者会見):
5年間で抜本的に防衛力を強化するにあたっては、安定した財源が不可欠だ。国債でというのは、未来の世代に対する責任として取り得ない。

松山キャスター:
岸田首相は、かなり早い段階で、2027年以降の増税措置、1兆円強について、国民負担をお願いせざるを得ないと表明した。首相官邸筋の話では、国債ですべて賄うと、どんどんどんどん防衛費増額が無尽蔵にできてしまう、というメッセージを世界に与えることになると。例えば、米国でまた共和党政権が誕生した場合に、防衛装備品をどんどん日本に買ってくれという圧力も強まりかねない、という懸念もあるようだ。櫻井さんは、岸田首相のこの段階での財源確保表明をどう見ているか。

櫻井氏:
「政治的にこんな拙いやり方で、あなたはなさるの?」という感じはする。岸田さんが安倍さんもできなかった防衛費の増加を約束して、実際に踏み切ったことは、とても高く評価している。しかし、防衛費を増額することと同時に、日本経済をきちんと成長路線に乗せなければ、国民生活は苦しくなる。しっかり経済を成長させることを土台にして、経済と軍事の両方やるという構えをつくるのが政治の責任だ。景気は気持ちの問題だ。企業が設備投資をどうしようか、研究開発費をどうしようか、賃上げもやらなければいけないという中で、5年先の増税の話をするだけで空気は冷えていく。岸田さんがやっていることは正しいのだが、やり方がすごくまずい。それと、国債をどうしてあのようにフラットに否定するのか(理解できない)。

佐藤氏:
まず今、こういう状況でここが足らないので、こういう形で防衛を強くするということを国民に説明しないといけない。それが先だ。防衛力の中身を(国民に)説明する前に増税というのは順番が違う。中小企業からすでに防衛費増額に対する怨嗟(えんさ)の声が出始めている。せっかくよい防衛強化なのに、企業からすると防衛力強化が悪者になってしまう。今回の防衛力強化は、多くの国民が見たらびっくりするはずだ。戦い方がガラッと変わるから。スタンドオフミサイルを使うことで、防衛のやり方が大きく変わる。先ほどの情報戦の話もそうだが、これだけ防衛が変わるんだということをまず(国民に)説明したうえで、では、どういう手だてで財源をやる(確保する)のか。それには歳出改革、あるいは余剰金もあるだろう。どれくらい足らないので、そこを増税(で賄う)と。手順が必要ではないか。

梅津キャスター:
保育施設で次々と虐待や不適切な保育が明らかになっている。先月は佐賀県、今月に入って富山県、静岡県、熊本県でも発覚した。
今回の件に関連して、櫻井さんの提言を紹介する。「(0歳から3歳の幼児を)家で育てる場合、月額20万円支給を」と。

櫻井氏:
いきなりそこに行くと、皆に誤解を生むかもしれない。目の前の緊急事態に対処することが今必要だ。そしてもう1つ。子どもの育て方について、私たち日本国として、もう1回考える必要がある。ある調査によると、3歳までは自らの手元で育てたいという専業主婦、もしくはキャリアを途中でちょっとお休みしてという母親が6割いる。今、保育園などに預ける場合はさまざまな評価はあるが、赤ちゃん1人にひと月20万円がかかっている。もしお家で自分で子育てをしたいお母さんがいたら、その人に同じように20万円払ってあげたらいいのではないか。自分で育てたいお母さんもいる。赤ちゃんを預けて、自分でキャリアを磨きたいお母さんもいる。シングルマザーなど、働かなければ暮らしていけないお母さんもいる。この全部の人たちを、きちんと平等に助けるのが国の責任だ。どの道を選ぶかは、女性もしくはそのパートナーの男性の選択でいい。だけども今、家庭で育てようとするお母さんには、ほとんど何も支給されず、旦那さんのお給料だけで暮らして行くというようなことがある。ここにもっとお金を注ぐことで、もしかしたら自分で育てたいことを、夢をかなえることができるお母さんが増えるかもしれない。そうなれば、保育園の負担も少し減るかもしれない。かと言って、保育園への補助を減らすということではない。皆どのような生き方をしたいか、という女性たちの意思を国がサポートするために、こういったことが必要ではないか。

橋下氏:
僕は、櫻井さんのこの月額20万円支給案に大賛成だ。ただ、ちょっと聞きたい。自民党で、あるいは自民党に限らず、いわゆる「保守」ということを言っている人たちの中には、家庭内で育てることが、子育ての方法として唯一というか、第一の優先順位で、そちらに集中すべきだという人がたくさんいると思うが...。

櫻井氏:
わたしはいつも、あなたに「保守の中の保守」と言われている。でも、わたしの仲間で、専業主婦の道を女性皆が歩みなさいということを言っている人は1人もいない。

橋下氏:
選択制ということなら僕は大賛成。

櫻井氏:
選択制だ。本人の気持ちだ。子どもを3歳までは自分で育てたいという人がいてもいい。いやいや、0歳児から預けて働きたいという女性がいてもいい。どうしても働かなければいけないという状況にいる人もいる。全部を助けようと。それが国としての責任だと思う。

橋下氏:
大賛成だ。これ20年前に櫻井さんに言ってもらいたかった。
先ほど櫻井さんが「月額20万円支給」案を示した。年間240万円。これを3年間支給する場合、ざっと計算すると6兆円余りだ。これに教育費、大学の無償化などをやれば10兆円だ。今回の防衛費増額よりも倍以上の金が必要になる。トータル15兆円の金を生み出そうと思えば、増税とか国債だけではだめだ。やはり国と地方の関係、今のこの国の形を抜本的に見直す。地方交付税交付金の廃止ぐらいの大きな話をしないと、防衛力強化と子育て支援(増額の両立)なんてことはできない。これやるのが政治家の仕事だ。

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